第187話:教え子の初実践(ミナ視点)
sied:ミナ
『そのご様子ですと今の陛下の回答でご納得いただけたようですね……。はい、それでは先ほどと同じように元いた場所へと転移いたします。大変勇気のあるご質問ありがとうございました』
二人目の質問者に対し私がそうお礼を伝えると同時に心の中で
はぁ、ほとんどの国民はこれまでソウジ様が提案し実行してきた政策や日頃の行いのおかげでかなりの信頼を寄せてくださっていることもあって今回の公開討論会もまずは静観し、本当にその案を通していいのか否かを判断しようとしている方が多いようでしたので
事前通達ではあのように伝えはしたものの、本来であれば予定を変更してソウジ様には自分で作った計画書を元にプレゼンをしてもらい…それを聞いた皆様に賛成か反対かの投票を行っていただくはずでしたのに………。
実際に開会してみれば我が国の反国家リストに載っている方々がここぞとばかりに手を挙げられるわ、挙げられるわ。
ということで確かにソウジ様にはこういった場での立ち回りなども教えているとはいえまだまだ実践でそれを行わせるレベルではないので、上手いことこちらである程度質問者を選別なり誘導なりをしてやり過ごそうかなと思ったのですが……ソウジ様のあの表情。
『アイツは鬼か?』みたいな顔をしていますね。ふふっ、私達が見ていないこの一週間で随分と逞しくなられたようで。
恐らく…というか間違いなく表面上では平静を装っていたり、相変わらずの通常運転感を出していたりするものの本当は心臓が飛び出そうなくらいドキドキしながら彼のことを見守っている方々全員が、今私が抱いた感想とまったく同じことを思ったのでしょうけど………
(この場での主導権を握っているのも、ソウジ様の王族教育を受け持っているのも全てが私である以上、ここから先の公開討論会をどう進めていこうとも文句を言われる筋合いがないことはもとい、邪魔をする権利すらないことは皆さん分かっていますよね?)
そんな私の念話を聞いたであろう人達から何かしらの返事が返ってこようが全て無視するつもりだったのだが、特に何も返ってこなかったため一度ゆっくりと深呼吸をしてから
「大変ありがたいことに当初こちらが予想しておりました以上にお手を挙げてくださる方が多いようでしたので一気に七人ほどご指名させていただき、そのまま順番に陛下へご質問いただこうかと思います」
なんて口では言いつつも実際は自分の頭の中にある反国家リストに載っている顔と実際に手を挙げている方の顔及び情報を照らし合わしながら、誰をどの順番で潰していけばいいのかというパズルを何十、何百パターンと組み立てていき
何とかその人達を選別し終えた後、今度はソウジ様に念話を繋げ
(このまま一人一人を相手していると面倒くさいのでここから先はまとめていきます。ということで邪魔者は一気にぶっ潰しなさい! 先手必勝なんて生ぬるい方法ではなく先手圧勝でいきなさい‼ というかそれくらい出来なければたとえ万人が認めようとも私は絶対に認めませんよ‼)
本当はこの場にいる誰よりも今のソウジ様のことで居ても立っても居られないという自覚があるにも関わらず、ワザとそんな風に彼を厳しく追い詰めるような真似をしたせいで
ついさっき啖呵を軽く超えて宣戦布告ばりの言葉を吐いたばかりだというのに、気持ちが揺らぎそうになるという何とも情けない状態にある私の決意を改めて固めさせるかのような
(………………)
ソウジ様による無言での返事と、ついこの間の戦争時に見せたものよりも数段国王らしい顔つきへと変化した姿を間近で見せられたことにより一人心の中で
『自分の教え子が、弟子が、弟が、私の吹っ掛けた無理難題に対してまだまだ荒っぽさはあれど、ここまで一切の動揺を見せることなく堂々と立ち回って見せただけでなく…それ以上の無茶ぶりすらもさばいて見せようとしているというのに……彼の先生であり、師匠であり、姉である私が弱気になってどうするんですか‼ この分野に関してだけで言えば誰よりも一番近くにいた私自身があの方を信じないでどうするのですか‼ たとえソウジ様が何か大きなミスをしたとしても、そんなものこの場にいる全員が『さっきのあれはミスではなかった』と私が思わせればいいだけでしょうが‼』
そう活を入れたのに続け
(ここから先は私達の勝負です‼)
という念話と共に自身の意識を先ほどまでの過保護で弱気なものからガラッと入れ替えたというのに今のソウジ様には目の前にいる七人の質問者のことで頭がいっぱいらしく、そんな私に気付く余裕すらないといった感じで多少残念な気持ちはあるものの
まあ…今回はここから更に数段成長したソウジ様のお姿を見せてくれれば許してあげます♪
と程度は違えどこの場にいる方達の緊張感で張りつめている空気には不相応な気持ちを抱きながら
『はい、それでは私がご指名させていただく前にご説明させていただきました通りそちらの男性から順番に陛下に対するご質問等をお願いいたします』
早速三人目の質問者を指名し、彼を含む質問者全員の言動に注意を払いながらも同時にソウジ様の方にも意識を向けつつ
『それではソウジ陛下質問です。先ほど陛下からご説明がありました従業員採用に関する徹底的な対策に関しては素晴らしいと思います。ですがだからといって娼館に訪れた客は誰であろうとも対応しなければいけないというのは……おっと、これではちょっと遠回しな言い方になってしまいますね。んん゛っ、元一般人であられる陛下でも分かりやすく簡潔にまとめますと…僕は娼館で働いている女性達にもお客さんを選ぶ権利があると思うのですが…その辺はどうお考えなのでしょうか? 』
事前情報どおりある程度自分の頭の良さには自信があるとともに他人を見下すことにより優越感に浸る癖がある…と。
このタイプはさっきの発言のようにワザと人を小馬鹿にするような言動を取って相手を煽るのが常套手段ですが、それくらいはなんてことないですよね…ソウジ様?
『もちろん指名された従業員がこのお客様は相手をしたくないと言うのであれば無理強いは絶対に致しません。その為両店舗ともそういったケースが発生した場合お客様には用心棒として働いている者からお断りの旨をお伝えするようになっております。その他にもしつこいお客様に関してましては永久的に出禁・国外追放、無理やり性行為等に及ぼうとした場合は公開処刑も視野に対応を取らせていただく予定です』
ソウジ様が作成した計画書には今言ったことに加え公開処刑の理由が書かれているものの、この後に控えている人達の質問内容を予測しスルーすることによりワザとこちら側の隙を作る。
ちゃんと私が教えたことを実践できていて偉いですよソウジ様♪ 既にそこまでは完璧ということは私も少しギアを上げても問題なさそうですね。
『はい、お次は彼の隣におられますそちらの女性の方…どうぞ』
せっかく三人目の質問者の挑発に乗るような発言をしてあげたんですから、しっかりと乗ってきてくださいよ?
『そんなことをしていたら死者が多数出る可能性もあると思うのですが、それは一国王としてはどうなんでしょうか?』
その『完璧な弱みを掴んでやったわ‼』みたいな表情。いいです、最っ高です!
さぁ、こちらの予想を遥かに上回る程の間抜けなカモが来てくれたみたいですよ…ソウジ様?
『私としても別に無駄に人を殺したいわけではありません。ですので今回用意した娼館及び男娼はまず一回の入場料が他国にあるものに比べかなり高めに設定されております。また従業員とお酒を飲みながらお喋りを楽しむコースと、性サービスを受けられるコースが御座いますが、前者と後者では基本料が違ってきます』
ひとつ前の回答のようにワザと隙を作るのではなく、今度は逆に詳細は省いて喋っているにも関わらず既にその裏がガチガチに固まっていることを裏付けるかのような自信のある喋り方と……他の人達同様舐めて掛かってきているであろう次の質問者を確実に動揺させるに足るしっかりとした返答内容。