第186話:質疑応答(下)
「じゃ、じゃあ、もし娼館にきたお客さんの中に病気持ちの方がいた場合どうなさるのでしょうか? 知らない間に病気がどんどん広まっていく可能性もありますよね? そうすればこの国だけでなく他国にまで迷惑を掛けることになりますよ」
恐らく前の人と同様、この女もさっきの質問を皮切りに一気に畳み掛けるつもりだったのだろう。
しかし予想外にもしっかりとした対策案が既にあったことで動揺してしまったのか、あらかじめ考えていたであろう質問にも関わらず慌てた様子でそうこちらに向かって問いかけてきた………ミナによる指名がまだだというのに。
なんて分析をしながら俺は収納ボックスから未記入の免許証みたいなカードを出し
「まず初めてご利用になられるお客様には各店内にある受付にてこちらを発行していただきます。そしてこのカードにご自身の魔力を流し込みこのように青色に光れば利用可、赤色に光れば利用不可という風に誰でも簡単に確認ができるようになっております」
「でもそれだけじゃあ自己申告ってことで意味がないんじゃないかな?」
今度はミナの許可が出る前に喋り出したどころか、この男に関してはタメ口かよ。しかもなんか上からだし。つか見た目だけでの判断だけどお前俺より年下だよな?
「はい。ですので当店舗をご利用になる際は毎回必ず受付で専用の機械にカードを通してもらい確認させていただきます。また、カードで確認した結果の有効時間は十分間ですので前回の結果をそのまま利用することは出来ません。それに加えカードに流した魔力とお客様自身の魔力が一致しているかどうかの確認もさせて頂きます」
病気持ちだけどそういう店には行きたいとかいう奴が自分のカードに他人の魔力を流し込んで利用されたんじゃたまったもんじゃないからな。世の中なんでも金で解決すると思ったら大間違いだぞ。
「それから娼館・男娼で働いている従業員の皆様にも同じカードを使って毎回確認をしてもらいます。確認するタイミングとしては出勤時に確認済みのカードを同じ機械に通し、異常がなければそのまま仕事へ…という感じですね」
出勤確認も同時に出来て一石二鳥である。
「病気の件は分かりました。ですが異常があった女性には仕事をさせない……というより出来る仕事がない状況になりますがその場合は一体どうなされるおつもりなのでしょうか? まさかとは思いますが使えなくなった女性はお構いなしに捨てるなんて言いませんよね?」
なんだこの見た目も中身もキモイおっさんは。他の奴ら同様勝手に喋り出したことはどうでもいい。
どうでもいいけど、この屑という一人の人間の形をした何かの節々から漏れ出ている厭らしさといい、娼館で働いている女性のことを確実に見下していることが分かる発言といい………。
「先程も言いましたが当店舗では二つのコースをご用意致しております。そのため性サービスは行えずともお客さんとお喋りする方の仕事に専念するすることも出来ます。またこちらは国が経営する形ですので治療費等は全てこちらが負担いたしますし、それは病気が原因で仕事を辞めるという方も対象です」
病気のせいで精神をやられる可能性もあるからな。うちで雇った以上最後まで面倒を見るのが筋だろう。
「対策がバッチリなのは認めるよ。でもさ、娼館という店がこの国にあるというのは子供に悪影響を及ぼす害悪店でしかないと思うんだけど?」
「まず今回お店を建てた場所は他の店舗・施設などがある場所から少し離れた場所にありますし、今後同じようなお店が増えたとしてもその周りに作っていき最終的にはそういったお店が集まる区画を作りたいと考えております。またその区画に繋がる出入口には門番や見回り兵を配置する予定ですので間違ってお子さんが迷い込むということは少ないかと思われますが」
今はまだ一店舗しかない為ワザと遠くに配置したみたいになっているが、今後あの娼館を中心に何店舗か増やしていくつもりなので『逆にあからさま過ぎて嫌がらせみたいじゃないか』と言われる心配もない。
「確かにそれなら子供が迷い込む可能性は低く実際にそういったお店を誤って見てしまうという事故は少なく済むと思います。ですが! この国に娼館というお店があるという情報が子供達の耳に入ることを防ぐことは出来ないでしょう? そこのところはどうお考えなのでしょうか‼」
「確かにそれは絶対に無理です。ですが娼館・男娼というお店を作って一か所に人を集めるのと、これまで通り普通に道端なので際どい服を着た大人が通行人を誘惑したり、物陰に隠れて性行為が行われているのとではどちらが良いと思いますか? 私的にはそっちの方がお子さんにとって悪影響だと思うのですが」
「「「「「「「………………」」」」」」」
ミナが連れてきた七人全員の質問に対し一通り回答をし終えたことにより次の質問者がいないせいなのか、はたまた俺のあんな隙だらけの簡易説明にも関わらず皆さん納得してくれたのかは知らないが
いきなり会場全体どころか国中が静寂に包まれてしまったの受け、途中から頭にのぼっていた血が冷めたことによりどうしたものかと困っていると、今のアイツがどういった心境なのかは不明だが取り敢えず助け舟を出すことにしてくれたらしいミナが
「他にどなたかソウジ陛下に対するご質問、ご意見等ある方はいらっしゃいませんでしょうか?」
「「「「「「「「「「………………」」」」」」」」」」
「どうやら現段階ではいらっしゃらないようですので今回の自国民参加型の公開討論会はこれにて閉会とさせていただきます。また今後のご予定としましては事前にお伝えしておりました通りこの後、希望者全員に陛下が作成いたしました計画書及び従業員用マニュアルを配布させていただきますので、そちらと合わせて明日より正式に営業が始まってみてのご自身のご感想を元に一ヶ月後に行います『成人向け店舗の営業継続』の賛成か反対かのご投票をお願いいたします」
なにそれ、当たり前かのごとく俺は一切何も聞いてないし初耳なんだけど……ってことは取り敢えず今回の案に関しては何とか採用ってことか。っぁぁぁあ゛あ゛あ゛疲れた~~~。




