第179話:五十歩百歩
自分の子供が今もなお長い間悩み苦しんでいる問題について何とかしてあげたいという気持ちから今日もこうして皆で計画を立て、協力者も用意し、行動に移しているというにもかかわらず
結局最後はその子が今後どんな感情を抱くようになり、変化していくのかという我ながら自分のことが本当に嫌なになるほど無責任すぎることを言うと
実は先ほどからずっと気に食わなくてイラッとしていた無感情&ダンマリな態度を止めたブノワが
「ここでレミアさんに『私のその行動は間違っていないでしょうか?』といった自己保身的な発言や『いったい私はどうすればよかったのでしょうか?』といった問題解決策の考案を丸投げするかのような言葉を発した直後、その人物がどうなるのかは嫌というほどこの身全てで体験させていただきましたからね。……といっても結局何十時間、何百時間それをしたところで私もレオンも全くと言っていいまでに解決の糸口どころかお互いの距離を縮めるきっかけすら見えていないのですが」
「あら、あなた知らないの? どこぞの盲目親父と違ってレオンに関しては最近よくソウジと二人で会話をしているどころか、タイミングが合えばあの子のことをお昼ご飯に連れて行ってあげているみたいよ。もちろん毎回奢りで」
「………………」
「まあ、生まれた瞬間どころかそれよりも前から当然かのように大事に大事にされて、良い子良い子でやってきたお坊ちゃまと違って、あの人はあなたと同じ立場でありながらも…ほんの少し前まで自分自身の意思で真逆の人生を送っていたような男ですものね。やっぱり子供って最初は人見知りとかをしていても自分の感性に近い大人に対しては結構簡単に心を開くものなんだなって、あの二人を見ていると改めて思うものねぇ」
なんて先ほどの馬鹿にするよな、もといからかい発言に対する仕返しの意味も込めてそんな意地悪を旦那に対して言うと、なんだか懐かし雰囲気を感じさせながら
「たっ、確かに私は今レミアさんがおっしゃったような人生をソウジの世界で言われている思春期という時期あたりまで送ってきましたが、その前後でアイツと出会い今に至るまでずっと一緒に行動をともにしてきているのですから、そこら辺の頭が固い王族貴族と一緒にしないでいただきたいのですが!」
「そこまで言うなら丁度ユリーのお説教も終わったみたいだし取り敢えず自分の息子をここまで連れてきてみなさいよ。………ブノワお父さん?」
そんな私の安い挑発に乗った一国の国王ことブノワ・マリノ様はアイツにだけは負けていられないと言わんばかりに背中をこちらに向け、若干早歩き気味に前へと歩を進めていく姿を
いつの間にか来ていたらしいアンヌと一緒に眺めながら
「あんなマリノの陛下としてでなく一人の男性ことブノワ君としての人格を見るのなんて、私は当たり前だとしてもレミアちゃんですら数百年ぶりなんじゃないの?」
「長生きのし過ぎで正確には分からないけれど…少なくともミナが生まれるか生まれないか位の時から見ていなかったのは確かね」
「まあ、それはうちも同じなんだけれどね~。何もかもが」
「………………」
前半はいつも通りの彼女らしいテンションでそう言ったにも関わらず、最後の『何もかもが』という部分のみ影のある声を聞いたの受け
こっちはこっちで同じ立場同士ということもありどう返答しようか逡巡していたのも束の間のこと、まるで何事もなかったかのように
「確かにレオ君の方がブノワ君よりも父子仲がいいのは最近の我が子の言動を見てれば分かるし、相手がリアーヌとかではなくソウ君ともなれば前者に分があるのは自明の理といっても過言ではないほどの裏付けがあるのだけど……。実はソウ君とブノワ君の関係が意図せずとはいえ日本にいるお父さんとの関係に限りなく近いことを結構気にしていたりもするのよね~。現に今は全てが子供ソウ君なのも忘れて突ったのはいいけれど、普段の大人な対応ことオブラートに包むのオの字の欠片も見えないほど容赦なく嫌がるどころかこの場から逃げようとするところとかそっくりだし。……ユリーちゃんが無理やり手を握ってそれを阻止するだけでなく、なんとかお互いの仲を取り持とうとするところは誰にも似てないけど」
「最後の部分だけ物凄く棘のある言い方だったような気がするのだけれど、それは一旦置いとくとして。今のソウジにとってレオンみたいな父親はかなり大きいでしょうし、何よりも二人でいる時のあの子を見ていると楽しくて仕方がないという気持ちが凄く伝わってくるのよね。やっぱり元は一国の王子様でもどこぞの頭の狂ったメイド長に手綱を握られるまでは日本でいうヤンキーみたいな学生時代を送っていたこともあって、上手く波長を合わせられるんでしょうね」
何も知らない人からすれば今のレオンからは想像もできないであろうが、昔はそれはも~う毎日喧嘩はするは普通に学校は遅刻&無断欠席するはといったかんじで、とても現役で一国の王子兼一国の宰相をしているとは思えないほどの問題行動ばかりであったのだが
「ちょっと待ってもらってもいいかな、レミアちゃん? なんだか私だけ悪者扱いされている気がしてならないから言わせてもらうけど、当時のレミアちゃんも相当だったからね。というかレオ君とブノワ君の噂を聞いて二人の学校に直接乗り込んでぶっ潰しに行こうって言いだしたのもレミアちゃんだからね? 二人とも王子様なだけあって各国の貴族が集まっていることで有名な学校ってことで校門を通ろうとした瞬間から門兵やら警備兵やら護衛兵やらがぞろぞろ出てきた挙句、いきなり本気で殺しに来られたことを私は未だに忘れてないからね⁉」
「でもあれはあれで結構面白かったしいいじゃない。それにあの出来事があったからこそお互い今の旦那と結婚して子供を授かって…更には何百年という長い月日を経てソウジという愛息もできたのだから。……あと確かに誘ったのは私からだったけれど、あなたが『いいよ~』って一つ返事をしてきたどころか『それじゃあ早速今から行こっか』って言ってきたことを私は忘れてないわよ」
「………あ~、こうして少し離れたところから自分の息子が好きな女の子に対して素直にその気持ちを出してる姿だったり、年齢相応にイヤイヤしてる姿だったりを眺めているのもいいけど、早く私達の可愛いソウ君こっちに戻ってきてくれないかな~。そしたらどこぞの一丁前なおままごとをしちゃってくれてる小娘に代わって、アンヌママが正真正銘、本物の愛情をそそいであげる…というかいい加減返してほしいんだけど?」
「そうやって無理やり話を逸らそうとしていることは一旦置いておいて…私達が家を出る前もそうだけれど、ただでさえあなたが仕事以外のことで本気で怒ることが珍しいっていうのに今日に関してはそれがもう既に2回目って―――」
先ほど直接本人に自身の中にある不満をぶつけたこともあって少し心に余裕が生まれていた私はアンヌを宥める意味も込めて喋ていると
「………………」
無言でこちらを睨みつけてきたの受け、彼女が言いたいことを全て察した私は
「はぁ~、まあ…あなたが今抱いている怒りの感情も、不満も、気持ちも、全部分かるし、私だってあの小娘がソウジの善意に甘えているだけでなくあの子の気持ちに対して生半可なそれで隣に立っていることがこの世界で何よりも気に食わないけれど……ソウジ・ヴァイスシュタインにとってユリー・シャーロットの件に関してはあの子が初めて誰かの為になるからとかではなく、100%自分のやりたいと思ったことを自分なりに頑張ってやっているのだから、あの子の母親である私達が気に食わないからという理由だけでそれを邪魔をするのは違うんじゃないのかしら?」
「そうだね~、今レミアちゃんが言ったとこはなに一つ間違っていないし、正直その話を聞いてある程度落ち着きはしたけれど…大人げもなく直接本人に文句を言っただけでなく怒りをぶつけた人にだけは言われたくないかな~?」
「んう゛っ⁉ ずっ、随分と上からものを言ってくれるじゃない…つい一時間前まで娘に対して本気の殺気を向けていただけでなく、子供の挑発に乗って物騒な親子喧嘩をしていた人が」
「ん~、確かに今レミアちゃんが言ったことは全部事実だから否定はしないけれど私の場合ティアちゃんは自分の娘であるのに対して、少なくとも今のところユリーちゃんは他所の子だし? そう考えるとまだ私の方がマシじゃない?」
そんな言葉に対し
『城内から転移する直前のあなたの目は完全に自分の娘を半殺しかそれ以上に痛めつけてやる気満々の目をしていたくせに云々』
と言おうとした瞬間、先ほどからずっと何とかしてブノワとソウジの仲を取り持とうと頑張っていたもののこれは無理だと一旦諦めたらしいユリーがこちらを指さしながらあの子に一言二言喋ったかと思えば
その直後満面の笑みで
「アンヌママ~‼」
と大きな声でもう一人の母親のことを呼びながら走ってきたの受け、呼ばれた本人はさっきまでの言い争いなんてどうでもいいといった感じで物凄く嬉しそうに両腕を大きく広げながらその場にしゃがみ込み
そこに向かって一直線でやってきたソウジを優しく抱き留めてあげると
「はい、捕まえた~。ソウ君ぎゅー--ぅ♡」
「んふふっ、じゃあアンヌママも、ぎゅー--ぅ!」
………多分実の母親に対して本当は甘えたいのに素直に甘えられないから義理の母親でありながらも本当の母親のように接してくれているアンヌに対してって感じなんでしょうけど
本来この子は相手が誰であろうとも知らない人が大勢いるこういった場所では基本いい子であり続けようとする癖があることから見るに
「アンヌ、あなたもしかしなくてもミナ達を魔法で眠らせると同時に記憶を弄ったとき一緒にソウジの記憶も若干弄ったわね?」
「さぁ、なんのことかなぁ? ん~、ソウ君の頬っぺたもちもちだね~♡」
「アンヌママの頬っぺたはすべすべ~♪」