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第178話:二つの顔とその代償

said:ブノワ


『自分はもう貴族のユリー・シャーロットではなくユリーという名前の普通の女の子であり、それを許してくれたのは誰でもないこの国の国王ことソウジ・ヴァイスシュタインなのだから、その人自身がそれを認めてくださる限りは誰からも文句を言われる筋合いはない』


といった旨の…確かな事実をユリー君が自分の口から発したその瞬間、彼女にしては珍しく本気の怒気を露わにさせたと同時に消音結界とそれの中にあるもの全てが見えなくなる遮断結界の二重結界を張ってから五分程が経った頃。


二人が結界の中でどんな会話をしているのかは分からないし、何よりも今までの人生で女性同士のいざこざに割って入っていいことがあった試しは一度もないため大人しくリサ君が半殺しにした襲撃犯共を見張りながらそれが解かれるのを待っていた私の目の前には


結界が張られる前と同じように向かい合っている問題の二人と未だに泣きながらユリー君の許しを請う息子の姿が再び現れそのままレミアさんは私の隣に、ユリー君は息子に対するお説教を再開し始めたのを受けそんな姿をこうして間近で見られることを心のどこかで少し嬉しく思いながら


「どうやらその様子ですとお互い口だけで済んだようですね」


「ふん、大人かつ一国の王妃でもあるこの私が自分の子供達と同年代の小娘ごときに手なんか出すわけないでしょうが。……なに、もしかしなくても馬鹿にしているの?」


「そんな滅相もない。ただご自分のことを大人かつ一国の王妃だとか、ユリー君のことを小娘呼ばわりされる割には随分と()()をされていたようでしたので」


「そこまで言うなら素直に()()じゃなく()()になっていたって言ったらどうなのかしら? あとあなたの今の顔と雰囲気…ウチの国民が見たらビックリするでしょうね。逆にこの国で暮らす人達にとってはそっちの方が慣れ親しんでいるというか…こっちが平常運転なんだなという印象を抱いているからこそ現在進行形で誰も何とも思っていないんでしょうけど」


「息子の前ではいつも国王としての威信を維持するためという嘘の建前をワザと醸し出しながら行動するように心掛けていますが……」


とそこで一旦言葉を切った私は普通の父親というものがこれであっているのかは分からないものの自分の子供である()()()が与えてくれたもう1人のブノワ・マリノ…ブノワへと意識を切り替え


「最初から心身ともに本当のあの子の母親として接し続けておられるレミアさんとアンヌさんとは違い、いくら本当の父親として同じように接してあげたいと思っていても私とレオンは同時に一国の命運を握っている立場側の者。やはりある種の威圧感を維持し続けることによりお互いある程度距離を離しておかなければいけないと頭では分かっているのですがね。そうやって強がって我慢するのも結構キツイものがあるのですよ…特に最近は」


今自分が言った通り私とレオンは息子の父親であると同時に一国の重鎮であり、彼には申し訳ないが正直な話最初の方はレミアさん達とは違いかなりの比重を後者へと向けていた。


「マリノ家・アロン家の一人の子供としてではなく、表には出さないようにしていたとはいえ新しく増えた家族としてよりも両国の繋がりという部分にもっとも重きを置いて行動していた人が言うと説得力の欠片もないわねと皮肉で返すべきなのか…そんな性悪男2人を実は息子にデレデレなパパに変えてしまった…私達の愛おしいくて堪らないソウジの魔性的な魅力を、あの子の全てを自慢するように誇ればいいのか……。今のあなたに対してするべきは行動はどちらなのかしら、ね?」


これでもかというほどの意地悪な笑みを浮かべながら一人の人間としてではなく一国の国王として取った私達の過去の行動を、そして今さら手のひらを返したところでもう遅いといったニュアンスの話をしてきた直後


つい先ほどユリー君相手に見せたものとは比べ物にならないほどの怒りと殺意を、しかし今回のものはどれだけ近くにいようとも私以外の生きとし生ける生物には一切感じ取れないよう…比喩でもなんでもなくこの世でこんな化け物じみた芸当ができるのは彼女を含め片手で数えられるほどの者にしかできない…繊細にして精密な、そして恐ろしすぎるそれをこちらに向けてき


「いい機会だからハッキリ言うけれど、あなた達が微塵も気付かれていないだろうと思ってソウジに取っていたそのクズみたいな言動及び思考はおろか、私やアンヌを含めた周囲の人間はもちろん自分でも気付けないくらいごく僅かであるがゆえに無意識のうちに発してしまっている真っ黒な感情すらもあの子は全て気付いていた。……嫌でも勝手に気が付いてしまっていた」


「………………」


「にも関わらずお互い何事もなかったかのように……ましてや片方は最初から何もなかったかのように普通の父親面しているのが気に食わなくて仕方がないのだけれど…病院で寝落ちしていたソウジの頭の中を魔法で覗いたティア曰く」


『それでもブノワの親父とレオンの親父はウチの父親とは何かが違う気がする。違う気がするし、何よりもミナとリアが2人の前で見せる普段の何気ない仕草や態度・表情が全てを物語っていると言っても過言ではないだろう。しかしだからと言ってお母さんや母さんみたいに実の息子として接してほしいというわけではない…というよりも最初からそんな風に近くにいて愛情を注いでくれている母親2人が異常なだけで逆に親父2人の態度が正常といえるわけで』


『ましてや後者に関しては国王とその側近。いくら娘の婚約者とはいえ俺は俺で別の国の国王という立場にある以上、損得勘定・様子見・etcは当たり前。そんな男相手に心を許すなどもってのほか』


『…………………………』


『最近のミナやリアみたいな普通の親子関係みたいにとまでは言わずとも、いつかはお互い裏表なしの状態で酒とか飲みたいとういか…完全にこっちの一方的なものとはいえ実父とはもう一生そういうことができない・したくないという拒絶反応が出る領域にまできてしまっているってのもあるから………ッチ、やっぱり最初にああいうことをされたっていうのが大きすぎて無理かもしれねえな』


『まあ、相手が変わっただけで父親と上手くコミュニケーションが取れないのは元からだし、溺愛一歩手前か完全に両足を突っ込んでいるかっていうレベルで接してくれるしてくれる母親が新しく2人もできたって考えれば別にいっか。というかそれだけで十分幸せ過ぎるっつうの、マジで』


「と、まあ今のあの子の気持ちはこんな感じらしいのだけれど……ここまで話せばなんで私があなたに対してここまでの怒りを向けているのか分かるわよね?」


said:レミア


そんな私の問いかけに対して何か言い訳をするわけでもなければ、でもそれはなどと言い返してくるわけでもなく…ミナとソウジの父親であり私の旦那でもある彼から感じられるものといえば


(意図的にソウジに関する部分の感情を無くすことによって己の愚行から目を逸らし、今後の業務及び生活に支障をきたさないようにしようとする大勢の人の上に立つ者としての最善方法を取っているにも関わらず)


(そこから垣間見える…後悔の念)


「お互い過程や理由は違えど、そうやって自身の間違いに気付いた時にはもう既に遅かったという結末に辿り着くなんて……とんだ皮肉ね」


「………………」


(微塵も分かりたくなかったけれど、こうして自分が同じ状況下に立たされるとソウジの母親の気持ちが少しだけ分かる気がするわ)


「とまあ、ここまで好き勝手言わせてもらったけれど…今のあなた達2人がソウジのことを自分の息子として認識していることはもちろん実の娘であるミナやリアーヌと同じように接するようにしていることは普段の様子を見ていれば分かるし……あとはもうあの子次第ってところなんじゃないの?」

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