第17話:みんなが集まれる場所
俺は2人が言い合いをしているのを横目に日本へと転移し、一通りの買い物を済ませて帰ってくると…居間のソファーにはミナとリアーヌさんの2人が座っていた。
「お帰りなさいませ、ご主人様」
「ん。……そういえばリアーヌさんって俺が転移魔法でいきなり帰ってきても驚かないよな。ミナですらアベル程じゃないにしろ、『あっ』とか言うのに」
「それはですね、私の方がご主人様を想う気持ちが強いので何となく気配で分かるのですよ。それから私に『さん』はいりません!」
何そのオカルト理論。本当だったらちょっと怖いわ。
「お帰りなさい、ソウジ様。あとリアーヌは適当なことを言わないでください」
「なんだ、適当なことってことはやっぱり嘘なのか?」
「私の方がソウジ様を想う気持ちが強いです!」
「そっちかよ‼ んなのどうでもいいわ!」
「どうでもよくなんかありません‼ これだけはリアーヌが相手だろうと譲れません」
ティアの時も思ったが、ミナってお姫様のわりに子供だよな。
お姫様って子供だろうと何だろうと全員大人の振る舞いをするのが当たり前、そして従者は主がそういった振る舞いをするよう口うるさく注意するもんだと思ってったんだが……専属メイドのリアーヌさんは注意するどころか笑ってるし。
いやまあ全部俺の勝手なイメージだけどさ。
「そんで、実際はどういう仕組みなんだ?」
「まあ本当のことを言いますと、基本誰かが魔法を使おうとすると周囲に使用者の魔力が微量ですが流れるんです。ですから私はご主人様が突然現れても驚かなかったのですよ」
「へ~、じゃあ何でミナとかアベルはいつも驚いてるんだ? 尚更不思議なんだけど」
実は俺のことが嫌いだからいなくなった瞬間から意識外に追いやってるとかだったらマジで引きこもるぞ。
「実はそれって誰でも分かるわけじゃないんですよ。それなりの実力が必要なのは勿論、どうやら魔法が得意な人達の方が他人の魔力を察知しやすいようで、私と違ってリアーヌは1回でそれが分かるそうです」
「なるほどね。んで、『私と』ってことはアベルは違うのか?」
「ええ。アベルも普通に魔法は使えますし、かなりの実力を有しています。ですがそういったことはあまり得意じゃないようで、長い間一緒にいる私達の魔力すら分からないようですね」
「アベルと違ってご主人様は魔力等が規格外なので、自然と私達の魔力に気づくことが出来るようになると思いますよ」
そういえばまだ他人が魔法を使ってるところって見たことないな。……まあ、今はいいか。
「それは分かったんだが、他の奴らはどこに行ったんだ?」
「ああ、それならアリスちゃん達5人とティアさん、それにマイカさんは自分達で作ったお部屋を見に。それからアベルは騎士団の寮に、セレスさんは各お部屋の場所を把握しに行きましたよ」
「ふ~ん、っていうことは一通り変更は終わったのか?」
「はい。立場なんて関係なく、みんなで好きに意見を出し合ったりしたんですよ」
「まあ結局一番意見を出していたのはお嬢様とティア様ですけど」
「う~ん、みんなまだミナの立場を気にして遠慮してる感じか?」
一応ミナは面接の時に全員と会話をしてるとはいえガチのお姫様だからな。気にするなという方が無理か。
「いえ、すぐに皆様と打ち解けることは出来たのでそこは問題無かったのですが、途中からお嬢様とティア様が物凄く拘りだしまして……」
「おい、まさかとは思うがお前ら2人だけで独占したんじゃないだろうな」
「そんなことしてませんよ! ちゃんと皆さんの意見も聞きましたし、一緒にデザインを考えたりもしたんですよ」
そうミナが言ったのを聞き、よく分からなくなってきた俺は当時の状況を詳しく聞いてみると……
どうやら確かにみんなで仲良く意見を出し合っていたようだが、謁見の間や玉座の間など実際に見たことがなければ意見を出しにく場所をデザインし直す時にミナとティアの2人が暴走したらしい。
だがちゃんとキッチンなど主にメイドが使う場所はアリス達が、書類仕事などをする仕事部屋などはマイカが進んでデザインを考えたらしい。
「まあ、そういうことなら良いか。……そういえば、バツが付いてる部屋は何も弄ってないよな?」
「はい、勿論です。ですがなんでソウジ様はキッチンとリビング、そしてこの居間を一つの部屋にまとめているのですか? 普通はそれぞれ分けると思うんですけど」
そう。実はこの城内はキッチンとリビング、そして居間が繋がっていて一つの部屋にまとまっているのだが……勿論これには理由がある。
「まずキッチンだが、ここにはメイドのアリス・サラ・エレナ・リーザ・セリア、それからメイド教育係りのエメさんとメイド長のリアーヌさんが主に使う。次にリビングだが…ここはうちに住んでる人達ならいつでも好きに使っていいようにする予定なのでここでメイドの勉強をするのも良いし、聞かれても良い内容なら会議をしても良い。勿論、朝・昼・夜ご飯を食べる場所でもあるから誰かとお茶を飲むのも良い。そして最後に居間だが…ここにはソファーやテーブル、普通の椅子もあるから休憩とか雑談する場所として使ってくれれば俺は嬉しいと思っている」
「つまりご主人様はここを住人が集まる場所にしたいということですか?」
「そういうこと。こんだけ建物が広いとみんなと顔を合わせる回数が減りそうだからな。ここに来れば誰かしらいるっていう部屋を一つ用意するならこの部屋が一番良いだろ」
それにただでさえ広い建物なのに仕事が本格的に始まったら『俺・ミナ・ティア・マイカ』と『アリス・サラ・エレナ・リーザ・セリア・エメさん・リアーヌさん』という風に一緒にいるメンバーが固まってしまいそうだからな。そうなればどちらとも頻繁に顔を合わせるのはセレスさんとアベルの2人だけになってしまう。
だがみんなが自然と集まれる部屋を一つ設けることによって、仕事のメンバー以外での組み合わせが日常的に出来るというわけだ。
「なるほど。私はこんな部屋の組み合わせを見たことが無かったのでとても不思議でしたがそういう考えがあったんですね。使用人だろうと何だろうと平等に接しようとするソウジ様らしい考えですね」
「別に俺はそんな御大層な考えで動いてるわけじゃない。ただ自分が楽な方を選んでるだけだ」
「前の旦那様とは違い、今回の旦那様はかなり変わった方ですね」
ん? ああ、そういえばエメさんには頼みごとをしてたから今までキッチンにいたのか。
「でもキッチンにいながら居間での会話が聞こえるのも悪くないでしょ」
「そうですね。やはり私達メイドはただの使用人ですから旦那様達と仲良くさせていただくなんてのは勿論、一緒にお喋りを楽しむなんてことは普通ありえません。ましてやその方々の会話を聞くなどもってのほか……」
「ですが残念なことにこの城では俺がルールです。よっぽどのことじゃない限り俺は譲りませんよ」
「では早速ですがご主人様。私のことは『リアーヌさん』ではなく『リアーヌ』とお呼びください」
「なんでここでリアーヌさんが出てくるんだよ⁉ 今完全にエメさんと良い感じの話をしてたところじゃん!」
「いえ、ですがご主人様が『この城では俺がルールだ』と言うのであれば、もしもの時に注意する人が必要では?」
「確かにそれは必要だ。じゃなきゃただの独裁と変わらないしな」
「ですのでその役は私がやらせて頂きたいと思います」
あれ? なんか話の方向が変わってきてないか。
「おっ、おう。それじゃあお願い…しま……す?」
「はい♪ ではまずは私の名前の呼び方から直しましょうか」
やっぱりそれかよ! どうする。このままじゃリアーヌさんを呼び捨てにするまで逃がしてもらえなさそうだぞ。
「そうだ! エメさん、お願いしてた件はもう終わりましたか?」
「はい。旦那様からお預かりした野菜等は全て言われた通りにしておきましたが……」
「結構な量があったのにエメさん1人に任せてしまってすいません。あとは俺がやるんでゆっくり休んでてください」
そう言い残し、俺はキッチンへと逃げ込んだ。
「さっきはリアーヌがソウジ様に注意をすると言いましたが、これはこのお城に住む方々全員の仕事です。ですのでもし何かおかしいと思ったらちゃんと注意してあげてください」
「分かっていますよ、ミナ様。私達が絶対に旦那様を悪い道へは行かせません」
「エメ先輩もご主人様のことを気に入ったのですか?」
「気に入ったっというのは確かですが、私の場合は完全に姉という感じですね。なので私はどちらかというと見守ることの方が多くなると思いますが」
君達、キッチンにいる俺に全部丸聞こえって知っててその話をしてるのか? まあ、立場がどうであろうと意見を言ってくれるのは助かるけど。