第169話:挙動不審?なソウジⅡ
なんて感想を一人心の中で抱きながら少し真面目な話をすることに決めた私は出来るだけ前の三人に続くような自然さを意識しながら
「(毎日一緒に暮らしていたうちの一人であり、役職上はあの子の専属メイドでもあるにもかかわらず異常に気が付かなかった、気が付くことができず結局ソウジの専属騎士でもあるユリーによる報告によって今回の件が発覚したというのに…随分と偉そうじゃないかしら?)」
そんな私の言葉が最後のとどめになった…というよりかは彼女も他の子達と同じかそれ以上にソウジの影響を受けていたらしく恐らく普段はそれを周りの人達に察せられないよう気を付けていたのだろうが今回は状況が状況だったり色々と重なったせいか完全に油断しているようで
《《あの時の》》彼女からはまったく想像もできないほどまでに普通の女の子な感じで
「(ぅんん~! 先ほどから黙って聞いておれば―――)」
そうティアが言った瞬間、実は今回のソウジの件に関して私達4人の中で誰よりも怒っているアンヌは珍しく本気の目をしながら
「まあ専属メイドって点でいえばうちのリアーヌやエメちゃんにも、そしてこれはここにいるソウ君のお嫁さんでもあるミナちゃんやマイカちゃんにも言えることだけれど……少なくとも私ならあなた達と全く同じ状況下にあったとしても相手が自分の主もしくは旦那様である以上絶対にその人の異変に気付いていたわよ」
恐らく最初は今後の様子見もかねて今回の件については黙っておくつもりだったのだろうが、この城のメイド長としてなのか普段通りの自分を装いつつも実はずっと反省及び落ちこみ続けていることが垣間見えるエメはまだしも
他の子達に関しては時間が経てば経つほどそれらの意識は薄れていき…今となっては各々が感じていたであろう危機感や罪悪感等は完全に忘れ去られたどころか、程度は違えど普通にこの状況を楽しんでいる4人を見ているうちに我慢の限界がきたらしくそんな感じで久々にアンヌによるお説教が始まったのだが
それをソウジの近くで行っておいてただで済むわけもなく
(大丈夫、大丈夫、大丈夫。今アンヌママに怒られているのは俺じゃないし、ミナ姉達が怒られているのは俺のせいじゃないんだから気にしない、気にしない)
あまりこういったことは言いたくないのだが予想通りの反応というかなんというか…まあ、そうなるでしょうねという感じの心の声が私の頭の中に流れ込んできたまでは予想通―――っ⁉
不安・懸念・心配・恐れ・自負・自虐・自己嫌悪・怯え・恐怖・絶望―――
その他にも私が知っている負の感情及び今までの人生で一度も感じたことがないものや、逆に感じたことはあるもののそれを上手く言葉では言え表せないないもの。
はたまた言葉という形にはできない…しかしそれが恐怖からくる感情の一つであることがはっきりと分かるようなものが次から次へとソウジの心の声同様勝手に自分の頭の中に流れ込みはじめたのだが、どうやらそれを魔法で行っている犯人を含めこの場にいる全員が私と同じ状態にあるらしく
ミナ・リアーヌの2人はこの感情が誰のもであるのかまでははっきりと分かっている…分かっているからこそ、それが自分達の予想を遥かに超えるものだったせいで軽くパニック状態に
それに対しマイカはこういったことにもある程度慣れていることもあり前の2人程ではないにしろ、予想を超えるという部分では同じだったらしくどう対応すればいいのかが分からないといった感じに
そんな3人に比べエメはというと
実はああ見えてメイドの仕事に関してはとんでもなく厳しいことで有名な我が城のメイド長ことアンヌ様に新しい息子ができてからというものそれは一層増したというか…まあ単純にあの子が可愛くて仕方がないだけなのだが、兎に角ソウジが関係していることともなれば相手に求めるレベルが高すぎて厳しいなんて言葉では生ぬるいほどの合格基準を自身の中に設け勝手に採点等を行っていたりするのだが
その馬鹿げた合格基準を唯一、しかもお互いが初対面の時点で超えて見せただけはあり、先ほどの反省を活かしてかその場で抱きしめたりして落ち着かせようとするのではなくただただ普段通りに
「そういえば今日のお昼もですがおやつは何がいいですか?」
そんな問いかけをしたのに対し
「えっ?」
ソウジはソウジで何も知らない人が見れば平静を装っているなんて微塵も疑わないであろう完璧な演技で返事をしたのとは裏腹に、実際心の中ではというと
(俺のせいだ、絶対に俺のせいだ。別に俺が怒られているわけでもないのにさっきからずっと怖くてドキドキしてるいから…ちゃんとみんなにバレないように気を付けていたのに。もっともっと気を付けないと! 気を付けながら喋らないと!)
”自己嫌悪”
「と聞いておいてなんですが実はあんまり材料が残ってないんですよねぇ。ということで今から一緒にケーキ屋さんに行きませんか?」
「………………」
(これ以上この場の空気が悪くならないような、そしてエメ姉が怒らないような…でもみんなが少しでも明るくなってくれるような返事)
”ピエロ願望”
(アンヌママが怒っている相手は俺じゃない=突然空気の読めないことを言っても『今私にそれを言うの?』みたいな若干イラッとした態度は取りながらもちゃんと返事はしてくれる)
”ただの5歳児がワザと馬鹿なふりをしようとしている異常さ”
(そこさえクリアしてしまえば取り敢えずミナ姉・リア姉・マイカ姉の三人はそのままの流れで話しかけても困惑はされど返事が返ってくる)
(そしてここまでくれば何でかは分からないがアンヌママと同じくらいかそれ以上に怒っているティア姉も場の空気的に返事をしないわけにはいかずといった感じでクリア)
”ただの5歳児が同年齢の王族・貴族以上の知略をサラッとめぐらせてみせたことによって垣間見えたソウジの異常な幼少期”
(アンヌママに関してはリア姉のお母さんであってあの人からしてみれば俺は他所の子供だから怒られずに済むけど、実の母親であるお母さんはそうもいかない)
”そして辿り着く答えはいつも”
(そうもいかないけれどここで俺がお母さんに怒られることによって少しでも早くみんながいつも通りに戻れるのならば)
”自己犠牲”