第168話:挙動不審?なソウジⅠ
said:レミア
この一週間での無理に加え先ほどの模擬戦。そして幼児化による体力等の減少が影響してか結局ソウジが起きたのは私達が和室に移動してきてから5時間ほどが経った頃だった。
しかしこの部屋だけティアの魔法によって訓練場と同じように時間の流れが変えられていただけでなくあの場に何時間いようとも体感時間的には30分しか経っていないように感じるようあらかじめ細工をしていたらしく感覚的には仕事の休憩がてらにお茶をしていたくらいという不思議な体験をしたなと思ったと同時に
いくら魔法でそういったことが可能であるとはいえ、この仕組みを自分で理解してしまっている以上少しも疲れた感じがしないかといえば嘘になるし現に若干の精神的疲労感を自身で感じているのも事実である。
また、ほぼ毎日それを使用しているであろう二人のことが少し心配になったとともに、回復系統の魔法が普通に効くティアとは違いそれが一切効かない体質のこの子は本当に大丈夫なのだろうか……
という不安で仕方がない気持ちはあるものの、そこら辺のこともティアが抜け目なく対策済みであることは先ほどこの目でしっかりと確認したためこの件も含めて今後はもっと頻繁に様子を見に来るようにしようと決めた私は一旦そのことについて考えることを止める意味も込め、居間にあるソファーに座って読書を始めてから数分が経った頃。
平日にのみメイドの仕事の間に行われている子供達の勉強会は毎回10時40分頃に終わるようにし、その後の20分間でセリア達は勉強道具の片付けや仕事の準備を。
逆にそれの面倒を見ていたエメは基本片付けは任せその間にその日のお昼ご飯のメニュー決めや準備を行うようにしているらしく今日も各々が自分の作業を始めたのに合わせ、先ほどまで私の隣でどこか落ち着きなくバ○とケ○シリーズの絵本を読んでいたソウジは急いでそれを元あった場所に戻したかと思えば今度はゆっくりと冷蔵庫の中身をチェックしているエメの後ろへと移動したのだが
「………………」
「今日はアベル様やセレス様に加え旦那様達も外に出ていらっしゃるようですし…んっ? どうかなさいましたかソウジ様?」
あの子がソファーを立ち、歩き出した瞬間から発せられていた足音から分かる歩幅や気配に匂い。
それらから分かる体全体のバランスなどといった自分の目では一切見ることなく得たであろう情報のみで自分のところにソウジが近づいてきていること。
そしてまた一つソウジが抱えている問題が露わになりそうなことを完璧に読み取ったらしいエメはずっと二人のことを見ていた私ですら違和感を感じないくらいの自然さでそう問いかけると、明らかに何か隠し事? みたいなものがあることが容易に分かる態度で
「ねぇ、エメ姉。今日のお昼は何食べるの?」
「そうですねぇ~、ちなみにソウジ様は何か食べたいものとかありますか?」
「えっと、あさりのスパゲッティがいい」
「(……あさりのスパゲッティって言うとソウジがパスタ料理の中で一番好きなやつだったわよね?)」
「(そしてあやつがサムールに行くと高確率で注文するメニューでもあるのう)」
私と同じくあの子の観察をしていたらしいティアは物凄く真面目な表情をしたままそう言ってきた後、それに続け
「(ちと先ほどから中々言えずにおる本音というか…心の声をここから先はわらわ達も一緒に聞かせてもらうとするかの)」
そんな半分独り言のようなものが聞こえてきたとほぼ同時にソウジの心の声と思わしきものが直接頭の中に流れ込み始め
(――――、なんで今日はパパが家にいるのさ。いつも平日は仕事でマリノの方に行ってて夜まで帰ってこないのに……んぅ~、早くどっか行ってよ)
「(今私が聞いたソウジの心の声? だとあの子的にはさっきからずっとこの部屋に私の夫がいるように見えているみたいなのだけれど、どういうことなのかしら?)」
「(実は和室であやつが目を覚ましてからずっと心の声を聞き続けておったのじゃが、どうも母上が相手の時は基本素直に甘えられん以外は特に問題がないようじゃったからちと記憶と認識の部分を魔法でいじってみたのじゃが…これは予想以上のものが見れそうじゃのう。ということで早う誰かブノワのやつを引きずってでもこっちに連れてきてたもう)」
そうティアが言うと何やら言いたいことがあるような素振りを見せたのが三人ほどおり
「(なっ、なんじゃ皆して一斉にわらわの方へ無言の圧力のようなものを送りよって。というかおぬしらかちと怖いぞ)」
「(あれほどソウジ様を独り占めされていたといいますのに、それだけでは飽き足らず私達に内緒でずっと一人で彼の心の声を聴かれていたというのに随分なお願いですね…ティアさん?)」
「(まあティア様がただただご主人様のことを独り占めしたいがためだけに一人抜け駆けのようなことをやっておられたわけではないことは分かっておりますが…それにしてももう少しやり方があったのではないでしょうか?)」
「(ティアは私達みたいに自分から告白したりこっちでそういう雰囲気を作ってあげてっていうんじゃなくちゃんとソウジ君から告白してほしいっていう気持ちは分からないでもないし、その分ある程度は目を瞑ってあげなくもないけど…ちょっと今日は調子に乗りすぎなんじゃない?)」
………確かにこの子達の気持ちも理解できるのだけれど、問題はそこだけじゃないのよねぇ。