第167話:ティアの問いに対する二人の答え
said:ミナ
正直に言ってしまえば今ティア様がソウジ様に対してやっていることとまったく同じことを1から10まで、そしてそれを行っている中で私自身がやりたいと思ったことを時間が許す限りずっとやっていたいし、そんな私の気持ちと同じ気持ちを持っていたであろう人が現在進行形で行動に移せているともなれば羨ましいなどという生易しい感情など優に通り越して今すぐ力ずくにでもソウジ様を自分の腕の中に………。
そんな王女らしからぬことを考えてしまっている自分に対し、まったく違和感を感じていないことに気付いた瞬間そんな己の中にある嫉妬心などどうでもよくなるほどのソウジ様に対する嬉しいと大好きという気持ちが溢れ出したと同時に
「んぅ~、でもでも私もソウジ様のことをぎゅ~ってしてあげたいんです! 私の中でソウジ様が一番であるように…ソウジ様の中での一番はずっと、ずっと、ず~っと私がいいんです‼」
「お嬢様がジーッと恨め羨ましそうにティア様とご主人様のことを見られながら何を考え、そして先ほどのご発言へと繋がったのかは容易に想像ができますし私もそのお気持ちはよく分かりますが…少々お声が大きすぎかと」
そう声量を抑えた声でリアーヌに窘められたことによりハッと我に返った私は慌てて彼の方へと目を向けるとそこには先ほどまでと一切変わらない可愛らしい寝顔をしている子供ソウジ様とその子を抱っこしているティアさん。
そして何があったのかは知りませんが顔は笑っているものの目が完全に笑っていないアンヌとお母様の三人で何やら真面目なお話を………三人ともソウジ様を起こしてしまわないようにと小声で喋っているせいでここからではよく聞こえませんが…流石にしてますよね?
なんて少し昔の自分なら冗談でも考えなかったでしょうし、相手がお母様ともなれば尚更といった感じだったのでしょうが最近の…主に私達マリノ王国メンバーの様々な変化を見るに極端な話あの三人が今日の夜ご飯のメニューついて喧嘩していてもおかしくないと思えるほどのレベルにまで彼の影響を受けていますし、その証拠に先ほどリアーヌは私に対して一国の王女としてではなく一人の女性として注意していますからね。
「『さっきの私に対してあのリアーヌが一国の王女としてはしたないと注意するのではなく一人の女の子として云々』みたいなことを考えていそうなところ悪いんだけどさ、今のソウジ君は何が何でもミナという一人の女の子に見捨てられずに済むように。そして一杯、いっぱい、い~っぱい褒めてもらえるようにっていう一心だけで倒れる寸前まで頑張っていたっていうのに…これ以上彼のことを独り占めしようとするとかちょっと図々しくない?」
なんとも面白くなさそうな顔をしながらマイカさんがそう言ってきたかと思えば今度は意地悪な笑みを浮かべながら
「って私が言ったら普通の女の子なミナはなんて返してくるのかな?」
「う゛ぅっ……、改めてそんなことを言われるとなんだか恥ずかしいですね。なんて普通の女の子みたいな返事を期待していたのなら申し訳ありませんが、白崎ミナという女の子は白崎宗司という男性のおかげで確かにそれに当てはまるような人間になれたと同時に彼の婚約者や周りにいる数多くの女性のおかげでものすご~くやきもち焼きで我が儘な女の子になったんです♪ ということで明日行われる予定の会議が終了し次第それの結果がどうであれ誰よりも先にぎゅ~ってしながら褒めてあげて、いい子いい子してあげて、その他にも色んなことをしてあげて…兎に角皆さんがソウジ様にしてあげたいであろうことはぜ~んぶ私が一番最初にやっちゃいます♡」
「……確かに今回の件に関していえばご主人様に対して演技とはいえワザと本気で怒り今後国王として必要になってくることの一つをお教えになられることと引き換えに…そんなことをすれば確実に彼のトラウマをえぐることになってしまうし、まだそれがどれ程のものか分からないせいでご自身が想定されておられた最悪の事態よりも遥か上のことが起こってもおかしくないという状況下でのあの行動。そのご褒美としてご主人様を独り占めされたいというお気持ちはよく分かりますが……この一週間彼との時間を我慢していたのは私も同じです。ということで今回お嬢様が行った行動がどれほどの勇気がいるもので、いくらティア様がいるとはいえこの世の中に絶対など無い以上かなりの賭けであったことに変わりはないとはいえ、それだけは相手が誰であろうと譲るわけにはいきませんね」
そうリアーヌが私の言葉に対して言ってきた後小声で
「(ただでさえこの一週間まともにご主人様と会話すらできていないどころか後半の方に関しては朝食時以外で一度でもお顔を見られればどれだけ嬉しかったことか。………ぅん゛~~~、取り敢えずレミア様とティア様だけズル過ぎます! それから確かに現在進行形でお嬢様にはかなりの不安が伸し掛かっている状態なのは分かりますが今回の件に関しては完全にお二人の間での問題なせいでこっちはただジッと見守って差し上げることしかできなくて…兎に角、ご主人様のことで不安だったのはこっちも同じですし、ここまでの頑張りをいっぱい褒めて差し上げたいのも同じですし、何よりも私はこの一週間我慢していた分い~っぱい彼に甘えたいんです!)」
といった独り言というか不満というか、まあ間違いなくソウジ様が心の底から気を許している数少ない女性陣という名の私を含めた婚約者組4人とティア様。それから彼のお姉さんでもあるエメさんと母親であるお母様とアンヌの2人。
そして―――
「ちょっと声が小さくてここからじゃよく聞こえないけどリアーヌは今忙しそうだから放っておくとして、その様子だとソウジ君が洗面所に行っている間にティアが二人に言った問いに対する答えだけでなくあの狂った模擬戦のことも完全に吹っ切れたみたいだね。……ついでにこれからはそういった無茶を過保護に止めさせようとするのではなく、それを黙って見守ってあげながら別の方法でフォローしていく決心がおつきになられたようで。(今までこれに関しては私だけがしてあげられていた特権だったのに、ティアが余計なこと言うから)」
私はリアーヌとマイカさんの間に座っている状態ですのでどんなに小声で喋っていようと全部丸聞こえなのですが、これもソウジ様が自分の意思でやりたいと思い行動を起こしたことによって生まれた成果であり
「自分を犠牲にする方法しか分からないどころかそれを行動に移すことが当たり前になっているせいで本当はそれがおかしいことにすら気付けていないということは今回の計画を通して嫌というほど理解させられました。ですがそれと同時に彼が目指した場所に辿り着くまでの過程がどうであれ一々悲観的に捉えるのではなくまずはその頑張りを認めてあげ、たくさん褒めてあげ。でも決してその行動が正しいのだと勘違いさせないようちゃんと教えてあげながら育てていくと決めましたので」
「はぁ~、本当は明日ミナがするであろうこの間の会議で怒ったことに対するフォローをソウジ君にした後こっそり二人っきりの状態でその内容を聞き出してミナの甘さが出た部分を上手いこと貰っちゃお~♪ って考えてたのにさぁ」
said:ティア
「(ちょっとちょっと? いくらなんでもこれは頑張り過ぎちゃったんじゃないのソウ君? ってママの腕の中で可愛い寝顔をしてる子に言っても無駄なんだけどさ。よしよ~し♡)」
「(先ほどまで一人の女としてこやつのことで熱くなっておった挙句、無理やりわらわが抱っこしておったソウジを取り上げ好き放題しておる者が何を言っておるんじゃまったく。娘共々影響の受け方までそっくりじゃろうて)」
「(まああの子達に関していえば根っこにソウジの為にっていう何があっても変わることのない気持ちがあるお陰で今みたいにこの子の取り合いになっても安心して見ていられるだけでなく、まさかこうやって色んな普通の女の子な娘達を見られる日がくるなんて想像すらしてなかったから…本当この子には感謝してもしきれないわよ)」
「(それに加えて今はちとあれじゃが先ほどのマイカの発言も別に抜け駆けしようとかそういった考えからではのうて、他の者ではできんかった部分を代わりにフォローしてやってという各々の役割をしっかりと理解しておる上でのちょっとした喧嘩じゃからな。まあ少し前のこやつらが今と同じ状況下におったのなら間違いなくミナとリアーヌの二人は例の摸擬戦を認めようとはせんかったじゃろうし、ソウジのあの異常な頑張り方に対していきなり口を挟むのではなくまずはそのことを認めてやり褒めてやり、そこから少しずつでもいいからその行動が間違っておることを教えていくなどという考えには絶対に至っておらんかったどころか……問答無用でわらわを殺しにかかってきておってもなんら不思議ではなかったじゃろうな)」