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第164話:お利口さんと悪戯っ子と強さの秘密

side:ミナ


次は誰が子供ソウジ様の親をやるのかで言い争っている中、会話の内容はよく分かっていないもののちゃんとこの三人が喧嘩をしているとかではなく女友達同士のおふざけであることが感覚的に分かっているらしくそのままおやつの苺ムースとコーヒー牛乳を自分の口に運び続けること十分。


特に苺のムースに関してはソウジ様が一番好きなおやつということもあり一口ひと口ゆっくりと大事そうに食べている間に落ち着いたらしい三人は一旦ソウジ様を私達に預けた後


エメさんは和室での休憩を終えメイドの仕事を再開したであろうセリアさん達のところへ


お母様とアンヌは実はこの部屋の様子をずっとマリノのお城で見ていたせいで今のソウジ様の元に行くのが怖くなったというか…何かトラウマのようなものが蘇ったらしく中々こちらに来ないお父様達を迎えに行くと言った後何故か私とリアーヌの方をチラッと見てから


『はぁ、あの二人があの頃のことを思い出しちゃうのも無理はないけど今回は相手が男の子なだけまだマシでしょうに』


『まあレミアちゃんが言いたいことも分かるけど今回のに関してはまだ五歳の子供()だからね~。ソウ君のお父さんがどんな人なのかは知らないけど、こんなに小さい時から現在進行形でこんな態度を取られ続けてるって考えると普通に同情しちゃうし、本人の前ではあんなことを言いつつも裏ではアシルとかに息子自慢しまくりの二人が怖気づくのも無理ないとは思うけどね』


という会話をしながら玄関へと向かって行ったのを受け私とリアーヌは顔を見合わせながら『いったいなんのことでしょう(か)?』と不思議に思っていたのもつかの間、その間に歯磨きをしていたらしいソウジ様がまだ洗っていない歯ブラシを右手に握った状態でこちらに近付いてきて


「ティア姉、しあげしてー」


「ふふっ、まったく…お主は何歳になっても変わらんのう。ほれ、わらわがソファーの上に乗せてやるから靴を脱ぐのじゃ」


そうティアさんが言うとソウジ様はそうするのが当たり前かのような感じで特に返事をすることもなく黙って靴を脱ぎ、そのまま彼女に抱っこされ、膝枕されといった感じで行われる一連の流れ一つ一つに年相応の可愛さがある中に垣間見える普段のちょっと背伸びをした時特有の何とも言えぬ彼の面影。


「それじゃあ、あーんするのじゃ。あーん」


「………………」


そして本当はもっと子供らしく大人に甘えたいだろうに無意識のうちに自分の中にあるそういった気持ちを……。


「今度はいーじゃ、いー」


「………………」


いえ、恐らくこの人は本当に小さな頃から自分がどうしたいのかすら分からずに…ただただ子供特有の生き抜くために必要なことを直感的に感じ取る能力を駆使し続けてきた結果が…今のソウジ様に繋がっているのでしょ―――


「お主という男は何歳になってもそうやって時折背伸びしおって、可愛くない奴じゃのう。わらわがしあげ中に『あーん』と言ったら『あーん』と言いながら口を開け、わらわが『いー』と言ったら『いー』と言いながら歯をいーっとするのじゃ!」


「んー」


―――――っ⁉


「誰が口を閉じろと言ったか! はよあーんせい、あーん」


「んふふふふふっ」


………………。


「ここまでずっとお利口さんを演じ続けていたソウジ君がいきなりふざけ始めて、そしてこうやって本当に楽しそうに笑っているのを見て、驚いたって感じだね…ミナ」


そんなマイカさんによる的確な問いにビックリしすぎて何も言えずにいるとそれに続き今度はリアーヌがどこか複雑そうな顔をしながら


「まだ私達がマリノにいる時は主に自分の両親に、このお城に来てからはご主人様に対して…それも前者にいた時とは比べ物にならないほどの頻度で今のご主人様と同じようなことをしていたことに……気付いていましたか?」


「えっ?」


頭で考えるよりも先にそう発したと同時かそれよりも早く私の頭の中でマリノにいた頃の、それこそ今のソウジ様より小さかった時からたまにとはいえ一国の王女としてではなく一人の女の子として接してくれていた自分の両親やリアーヌの両親といった身近な人達との色んな、380年分の記憶が蘇り始めた。


蘇り始めたにも関わらずそれに負けず劣らずの勢いでこの四ヶ月間の間にあった普通の女の子っぽい自分の言動や行動といったものが次々と頭の中に思い浮かび続け、気付いた時にはこの国での思い出ばかりが―――


「『ミナやリアが今まで自分の立場のせいで抑え込んでたであろう感情とかを自然に出せるような環境は用意したつもりだし、それのお陰か二人とも年相応の態度を取ることが多くなったから安心しろ』これは少し前にソウジがレミアに対して言った言葉だそうじゃ。まあ最初からお主らの両親はもちろん、わらわ達もそのことには気付いておったし感謝もしておるが…何故こやつはここまでのことを……これ以上のことをも平気な顔で毎日やって見せていると思う?」






side:リアーヌ


そんな意味深なことをティア様が私達に向かって仰ったのが今から約十分と数秒ほど前のこと。


そしてこの化け物じみたスピードを一切緩めることなく刀と木刀が何百、何千、何万回とぶつかりあっているの見始めてから一時間が経とうとした頃。特に魔法などを使用して何かをするわけでもなくお互いの武器をぶつけ合いながら


「流石はわらわが毎日面倒を見てやっておるだけあってただの剣戟ごときでは体が小さい状態であっても全然余裕そうじゃのう。これはそろそろ次のステップに移っても問題なさそうじゃな」


まるでさっきまで足し算の問題を解いていた子供に向かって『今度は引き算の問題にチャレンジしてみましょうか』みたいな雰囲気で喋り終えた瞬間、ティア様は今までと全く同じように木刀を振り、そしてそれをご主人様が刀で完璧に受け止めた。


そう二人のことをずっと見続けているお嬢様・アベル・マイカ様・私の四人が思ったにも関わらず


「―――――ッ‼」


『『俺は今完璧にティアが振るった木刀を自分のムラマサで受け止めたはずなのに何故か胸を斬られた。いったいどんな魔法を使いやがった? いや、でもこいつが模擬戦中に魔法を使うはずがない』そう頭の中で考えるよりも先に今までの戦闘で培ってきたに経験と己の勘に従ってわらわよりも早く移動し、わらわよりも早く刀を振るい、こちらが木刀でお主の攻撃を防ぐしかない状況を作り出し続けるというこの選択……はなまるをあげるのじゃ♪』


「毎度のことながら坊主が模擬戦の中で少しでも成長した姿を見せるとめちゃくちゃ嬉しそうに『はなまるをあげるのじゃ♪』とか言うくせに、その直後にそんなアイツをいとも簡単に上回るだけじゃなくこんな風に本気で殺しにかかるんだぜ…姫様、リアーヌ」


「私達に比べてアベルは年上なだけでなく基本的には年齢相応な男性だということは知っていたものの、エメさんがソウジ様を抱っこしている状況に対してなにも言わないのは流石におかしいのではないかと疑問に思っていたら……いったいあなたは何時からこのふざけた模擬戦が行われていることを知っていたんですか?」


「二ヶ月くらいま―――」


「例の脱獄事件があった日」


「おいっ、止めろマイカ‼」


恐らくアベルは私達が本当のことを知るにはまだ心が幼すぎると判断したために嘘をつこうとしたのでしょうが、そんなこと関係ないといった感じでマイカ様は普段なら絶対にしないであろう冷たい表情、声でそう喋りだしたのを受け彼はただの自国のお姫様とそのメイドを守るためではなく、今日までずっと一緒に行動を共にしてきた仲間としてでもなく、ただの兄として。


そんな彼らしからぬ気持が込められた怒鳴り声にも似た制止の声も空しく


「つまりはソウジ君が自分の左腕を失ったその日からだよ」


「「「………………」」」


「お主ら四人で勝手に盛り上がってるとこ悪いのじゃが、ちとお邪魔させてもらうからの」


そうティア様が言った瞬間、私達がいる王族用の観覧席の前面ガラスに左腕の義手を失い、両足はもう使い物にならないであろうことが素人でも簡単に分かるほどまでにボロボロになり、その他にも頭からつま先まで至るところに大怪我を負った血だらけのソウジ様が背面から思いっきりぶつかってきたというショッキングな事実に一瞬とはいえ自身が反応できずにいたせいであの方はこのまま観客席に真面な受け身を取ることもできずに落ちてしまう。


もしこれが実戦であったのならば私は自分のご主人様を、初めて好きになり結婚の約束までした男性を目の前で失うことになったであろう。


そう回復した自分の頭が、今までの経験で培ってきた戦いに関する知識と勘が、嫌というほどまでに絶望という感情の波が押し寄せてきていたその時


「「―――――っ⁉ 」」

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