第159話:お互いの素の姿
ミナの手で両頬を挟まれ半強制的に目と目を合わせるような格好になったまま二つの宿題を出された後、そのままあっちからキスをしようとしてきたところで全てが繋がった俺は
「ミナがいつも着けてるリップとハンバーグの味」
「ギクッ⁉」
「………………」
大方二代目を病院送りにしたあの日、寝落ちした隙を狙って婆ちゃんがミナ達を呼び出して事情説明。そこからティアの心を読む魔法を使って俺が一番恐れていることを調べようとしたところ副作用かなんかで夢としてあれらが出てきたって感じか。
んで最後に自分達がきたことがバレないよう匂いや残留魔力等を完璧に消してから帰った……と見せかけてこっそりミナが抜け駆けして俺にキスしていたってところだろうな。
「うー、貴方のような勘のいい子供は嫌いです。そんな子にはもうキスしてあげません!」
どうもさっきの言葉はあまりよろしくなかったらしく完全に拗ねてしまったミナちゃんはそう言いながらも優しく頭を撫でてきた後、そのまま部屋を出て行った。
「んーーーっ! あそこまでしたならちゃんとキスしてから行けよ‼」
「意外とソウジ子供。でもティア達が気に入っているのも納得」
「確かにこのギャップはズル過ぎるね。しかも狙ってやってるわけじゃなく全部素でやってるっていうのがも~~~う、こんなの誰でも母性本能を刺激されちゃうよ」
最初から隠れて俺達のことを見ていたのは知っていたが、どうもミナの差し金っぽかったので敢えていないことにして無視していたのだがそんなこと関係なしにリゼ・ロゼの二人はそう言いながら俺の前に現れた。なのでこちらも意識を切り替え
「多分さっきの駄々も全部俺の素だと思うんだけど、あれでよかったか?」
「ソウジ勘良すぎ。ここまで完璧だと実は心を読まれていると言われても普通に信じる」
「それよりも私はソウジちゃんの切り替えが早すぎてさっきのは全部演技だったんじゃないかって疑っちゃうんだけど。………演技じゃないよね?」
「さぁ、実は凶悪殺人鬼ってのが本当の姿かもな。ってことで俺は今から娼館に行ってくるからお前ら二人は訓練場なりなんなり好きなところに行ってこい」
そう言うと既にウチの訓練場を使ったことがあるのか色々と設備が整っているのが気に入ったらしく、早速そちらへと向かって行った。
ちなみにミナが言うにはこの二人は騎士団の人間としてではなく初のヴァイスシュタイン専属として雇ったらしく、肩書としてはヴァイスシュタイン家直属の特殊部隊所属。主な仕事はこちらが依頼した場所の監視と何かあった際に他国へスパイとして潜入、そして俺の専属護衛の三つである。
ユリー達も似たような仕事をしてくれているが前者は影、後者は光みたいな感じでやることは全然違うので今回の採用は結構大きかったりする。
なんてことを考えながら出掛ける準備を整えた俺は早速二代目のところへ行き、今回の件についての説明。ミナ達を納得させるためにまずはここの兵隊の力量を確認させてほしいと伝えると約束が違うと責めてくるわけでもなく、一言返事ですぐに玄関前へと集合するよう呼びかけてくれた。
「ほら、ウチの兵隊合計50人全員集めてやったぞ。暗殺部隊も集めた方がよかったか?」
「いや、そっちはいい」
「あっそ。んなら俺は自分の部屋にいるから用があったらそっちに来てくれ。あっ、間違っても病院送りになんかするなよ。面倒くさいから」
そんな不安を煽るような言葉を最後に二代目は娼館へと戻っていったものの流石と言うべきか、それくらいでは動揺しないとでも言いたげな総勢50人の男達が黙ってこちらを見つめていた。
「説明とか面倒だから簡単にまとめると、今からお前ら全員で俺を殺しにこい。んでそこから合格ラインに達した奴は来週の土曜日から新しい仕事に就いてもらう。もちろん給料も大幅にアップさせるから本気で来い。……オッケー?」
「はい‼」×50
そんなドスの聞いた返事を聞いたと同時に俺は収納ボックスからいつもティアが使っている木刀を出し
「よーし、じゃあ遠慮せずにかかってこい‼」
その言葉と同時に様々な武器を持った合計50人の厳つい男達が一斉に襲い掛かってきた。
「コイツとコイツ、あとコイツもー、で終わりだな」
あれから30分後。俺は二代目の部屋で先ほど行ったばかりの模擬戦の結果を元に合格ラインに達した奴らを写真の中から見つけ出してはテーブルの上に置いて、を繰り返していた。
「コイツらに割り振る予定の仕事内容とかはアンタから聞かされたから一応把握してるつもりだけど、近いうちにちゃんと計画書なりなんなりをまとめて持ってきて来てくれよ。あとから話が違うとか言われても嫌だからな」
「はいはい。んなことよりも次は娼館を運営するにあたってよくある問題とか、国がそれを正式に認めるだけでなく運営していくことによって出てくるデメリットもしくはメリットを考え付くだけ言ってけ」
「俺は別にいいけど、そろそろ帰らなくて大丈夫なのか? アンタがいなくなったって騎士団の連中がウチに乗り込んでくるとか絶対に嫌だからな」
そんな二代目の言葉を聞いて俺はポケットから懐中時計を出して時間を確認すると、時計の針が夜の六時半過ぎを指していた。
「今日夜ご飯いらないって言ってないから一回帰るわ。ってことで20時くらいにまた来るからよろしく」
「もう好きにしてくれ」
【自国の代表を集めての会議まであと6日】
昨日は一度城に帰って夜ご飯を食べた後再び二代目のところを訪れ今の時点でどういった問題があるのかに重点をおいて話し合った結果
① 幸いなことに今のところは大丈夫だがもし従業員か客のどちらかが病気持ちだった際、国が運営しているとなると面倒なことになりかねない。
② それの確認を行う方法がない。
③ もし従業員が病気になってしまった時、それが完治するまでの仕事や給料をどうするのか。
④ 個室に入られると中で何か問題があったとしても中々気付くことができず助けに行くのに時間が掛かってしまったというケースが既に何回かあった。
⑤ 今まではそういった客が見つかり次第こっそり殺していたが今後はどうするのか。
⑥ キャバクラみたいなことも取り入れたいのならこの建物自体を改装する必要がある。
⑦ 新人を採用する時は毎回俺を呼んで相手が嘘をついてないかの確認をするのかどうか。
の七つが出てきた。
そのため今日は朝からそれらの解決案+昨日頼まれた計画書を持って二代目の部屋に行き、今はそれらを読み終わるまでレジメの続きをやっていた。
「一通り読み終わったぞ」
「うん。どうだった? なにか気になるところとかあったか?」
「基本的には文句ない。ただこの内装のデザインについては口を挟ませてくれ」
「あー、それに関しては完全素人設計だから是非意見をと思ってたんだ。最初は好きに意見を言ってくれていいからどんどん案を言っていってくれ。そしたらそれらを組み合わせた簡易図面を見せて、何か気に食わないところがあればまた直してってのを繰り返していくから」
「分かった。ならまずはここのエリアだが―――」
【自国の代表を集めての会議まであと5日】
結局二代目との話し合いは夜中まで続いてしまったもののその分お互いが納得いくものにはなった。しかし予定よりも時間が掛かってしまったことも事実であり、俺はそのあと急いで建築魔法を使って話し合ったばかりの新しい娼館を作るようデザイン等のデータを入力。気付いた時には朝の六時過ぎとなっていた。
そのため自室にある洗面所で顔を洗ったあと鏡で自分の顔を確認し、そのまま騎士団用の女子寮へと向かいインターホンを押すと中からロゼが出てきて
「何か仕事?」
「お前化粧とかってできるか? できるなら目の下にあるクマをこのコンシーラーで隠してほしいんだけど」
「やったことないけど多分大丈夫。任せて」
「よし分かった、今すぐユリーを呼んでこい」
「むぅ、それくら私でもできる」
どうも俺の返しが気に食わなかったらしくムキになったロゼが無理やりコンシーラーを奪おうとした時
「ロゼさん、そろそろ朝ご飯の時間ですわ……あら、朝からどうなされたんですかソウジ様。何か街の方で問題でもありましたか?」
「ナイスタイミングだユリー。ちょっとこの負けず嫌い吸血鬼をどうにかしてから俺のクマもどうにかしてくれ」
「クマ? ………って、なんですかその酷いお顔わ⁉ クマどうこうの前に少し顔色も悪いじゃないですか!」
「それだけ今ソウジが頑張ってくれている証拠。ユリー、怒っちゃ駄目」
そんな抽象的な言葉じゃ全然伝わらないだろ、っと言おうとしたのだがどうやらユリーには何のことか分かったらしく
「はいはい、分かりましたからロゼさんは先に食堂に行っててくださいな。私もすぐに行きますので」
「うん、了解した」
ロゼが何歳かは知らねえけど間違いなくお前の方が年上だよな? なんで昨日の今日でもうユリーの妹みたいになってんだよ。……いや、でも俺に対しても似たような感じだし、これは特別二代目が嫌われてるだけであってこっちが素の状態なのか?