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第154話:初めて○○をしたあの日と浸食され続ける今

この数ヶ月で俺は何百何千という人間やモンスターを殺してきたが、それらは全員殺されても文句を言えないやつ奴らだった。


それに対して今日俺がボコボコにした二代目がやってしまった行いは婆ちゃんも言っていた通りそう簡単には納得出来るものではなかった。


しかしだからと言って昔の自分なら絶対にあそこまでのことはしなかった…というか文句の一つ二つ言えたかすら怪しかっただろう。つまりこの短期間で俺は人間性が全くの別人に変わってしまったどころか、少しでも気を抜けば白崎宗司という人格自体がなくなってしまったのではないだろうか? という段階にまできてしまっていたのかもしれない。と今回の件を通して思わされ、


初めてドラゴンを殺したあの日。俺は自分が振るった刀で肉を切り裂く感触を、攻撃された痛みによる大きな悲鳴を、斬るたびに起こる血飛沫を己の五感を通して感じて、数日間も今後どうするか悩んでたっていうのに。


初めて人間を殺したあの日。ドラゴンを斬った時とはまた違ったあの感触を、自分の顔や体中に数秒前まで生きていた人間の生暖かい脂と血がべっとりと付いたことによって感じたあの独特の嫌な臭いを、いくら逃げ回ろうが命乞いをしようが仲間を盾にされようが女子供だろうが泣き叫ぼうが関係なしに殺しまわったことに心が耐え切れずにゲロ吐いて、あと少しミナ達が来てくれるのが遅ければ正気を保てずに今日という日をこんなにも幸せな環境で迎えることができなかったかもしれないほどの恐怖感を抱いたというのに。


初めて誰かを助けてやれなかったあの日。城に住んでる人達が幸せに暮らせればぶっちゃけ国民なんてどうでもいいと考えていたというのに、今日の俺はマイカ達がとか関係なく孤児院で暮らしている人達が危険にさらされていた状況に我慢できず…気付けば殺さなければ何でもいいと怒りを露わにし、二代目の頭を踏みつけていた。


そして先ほどの怪我人を引きずって病院へ来た挙句新人の子達の足元へ投げ飛ばすという非人道的行為とそれを見た三人の怯えた表情。いくらここまでの行動には全て国王としての仕事という側面やこちらが気を利かして婆ちゃんに協力してやったとはいえ、今回ばかりは魔王と呼ばれても言い訳できないかもしれない。


いや、これも全ては計画通りなことを考えればティアの言う通り本当に国王ではなく魔王と呼ばれる日も近いかもしれないな。


そう思った瞬間この計画は誰にも相談せず全部自分一人で考え実行していることとはいえ、着々と一般人の白崎宗司が元一般人の白崎宗司へと変わりゆく時の流れが


日本人は人間を殺さない人種なのではなく周りの環境がそういう風になっているだけであって、それが少し変わるだけで平然と人殺しが出来るようになってしまうという真理が


約22年間ずっとそれが当たり前だと疑いもせずに守り続けてきた倫理観がたったの二週間で完全に侵食されてしまったという事実が同時に押し寄せてきたとともに、とある疑問が生まれた。


もしこのまま歩みを止めず突き進んだ先に()()()はいるのだろうか…と。






「………………」


「おはようさん。よく眠れたかい? ってソファーに座ったまま寝てた子に聞くのもちょっとあれだけど、私もさっき治療室から出てきたばっかりだから許しておくれ」


確かに最近は仕事をしながら来週の月曜日にある卒研の中間発表に向けて今まで集めた資料をまとめたりレジメを書いたりしてて睡眠時間が少なくなっていたとはいえ、何か作業をしてる時に寝落ちするなんて久しぶりだな。


「………婆ちゃん達の他に誰かここへきたか?」


「さっきも言った通り私は治療室から出てきたばっかりだから確実なことは言えないけど、少なくともこの建物はソウちゃんのおかげで不審者なんかは一歩たりとも入れないのはもちろんのこと、他の子達には緊急時以外は近寄らないよう言っておいたし…私ら六人以外の魔力が近くで感じ取れた感覚もなかったから誰もきてないと思うけど。何か気になることでもあったのかい?」


そう聞かれた俺は自分の唇を右から左へと一舐めしてから


「……それなら別にいい。んで、二代目はどうなった? こっちとしてはまだ話したいことがあるから明日にでも復帰してくれると助かるんだけど」


「あんなにしたのはソウちゃん自身だっていうのに、鬼でもそんなこと言わないよまったく」


「俺はそころの鬼と違って忙しいんでな。進められることはどんどん進めていかないとこの国自体が回らなくなっちまんだよ」


「はーぁ。ソウちゃんが地球の学校に通いながら国王様の仕事もやってることは知ってるけどね、スロベリアのところの国王様なんかは重要な仕事以外は全部自分の部下に任せて学校に通ってるんだし少しくらい他人に任せてもいいじゃないかい? それにソウちゃんは知らないかもしれないけど当時のミナちゃん達なんかは学生時代にしか学べないことも沢山あるってことでよっぽどのことがない限り仕事の場には出ることはなかった、なんてことが数年続いたこともあったんだよ」


その話なら両方とも知ってるし、ミナ・リア・アベルの三人だけでなく母さん達にも少し仕事の量を減らしてもいいんじゃないかと言われたことがある。


その為普段ならそう簡単に折れたりはしないのだが、この件に関しては何かあった際に被害を被るのが自分一人だけでは済まないということを考慮し素直に受け入れることにした結果


少し前からエメさんに言われていたメイドの仕事を増やしてほしいという要望を受けて空き時間を子供達の勉強時間に充ててもらっていたのものの、約一名大学生の俺よりも普通に頭の良い子が暇過ぎて意味の分からん数式と睨めっこしていたのでセリアを将来の王妃としての勉強という体でこっちの仕事を手伝ってもらっていたり、セレスさんのところで働いてもらっている経済部の子達に数字関系の仕事を割り振っていたりする。


するのだが、何故俺が城内ならまだしも外で寝落ちするくらい疲れていたのかというと


「折角周りの人達に協力してもらって俺自身の仕事量を減らしてもらったんだ。その時間を有効活用しない手はないだろうが」


「有効活用ねえ。私には兎に角ミナちゃん達に認められたくて、何か凄いことを成し遂げてやろうっていう風にしか見えないんだけど…これは老婆の気のせいかい?」


「………………」


「確かにソウちゃんがこの国にきてからしてくれたことはどれも凄かったし、私含め多くの国民が感謝してる。そしてその中にはソウちゃんが独断でやってきたこともいくつかあるんだろう?」


「………………」


「ソウちゃんがここまでしてきた本当の理由。それはミナちゃん達に見捨てられないよう常に何かを成し遂げ続けなければという気持ちがソウジ・シラサキの、いや白崎宗司という人間の根底にあるから―――」


「ふんっ。生憎俺はそんなもの知らん。それより早く二代目の容体を教えろ」


別にこれは話を逸らしたいとかそういうわけではなく本当にそんなつもりで仕事をしているわけでもなければ、いくつか独断で事を進めたわけでもないので膝の上に乗せていたノートPCを閉じながらそう言うと最初からこれ以上突っ込む気がなかったのか特に何かを言うわけでもなくいつも通りの口調で


「今はまだ治療室で寝てるからあれだけど一応治療は全部終わってるし、あとはレオンが起きてから直接本人に何か違和感がないかどうか聞いて特に問題なければ帰すつもりだから、遅くとも明日の朝には例の娼館にいると思うよ」


「そうか。んじゃあ最後の質問だけど、結局この病院は引き続きうちとの契約を継続してくれるってことでいいのか?」


「まああれが一般人相手だってんなら話は別だけど今回は初代のガキンチョが作ったところの人間だし、何より理由が理由だからね。それにあのガキンチョも昔はしょっちゅう似たようなことをやってはうちに怪我人を連れてきてたんだ。あれくらいで一々怒るような性格なら私はとっくにこの国から出て行ってるよ」


「なら契約は引き続き継続ということで」


どうも婆ちゃんは初代や二代目のことをあまり好きではないようだが特別嫌いというわけでもなさそうなのでこちらからそれについて聞くこともなく、最後に『二代目から治療費をふんだくることだけは忘れるなよ』と言い残し病院を後にした。

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