第150話:最後の連休はお母さんと
世間では昨日がGW最終日で今日からは普通の平日らしいが、本日の私の予定は三限の授業が休講ということもありずっと楽しみにしていた映画を一人で見に行くことになっている。
その為朝起きた時から自分でも分かるほど機嫌がいいし、当たり前かのようにお母さんが俺達と一緒に朝ご飯を食べていたとしてもそんなこと一切気にならないほどウッキウキな俺はそのまま食後のお茶も飲んで行けよと進めてから一旦自分の部屋へと戻った。
そして服装やら荷物の準備やらを整えた俺は再びリビングへと戻り、まだ食後のティータイムを楽しんでいるみんなに向かって
「んじゃ、俺は行ってくるから。緊急の用事の時は念話の方によろしく」
と言うと各自いつも通りの見送りの言葉やいってらっしゃいのキスをしてきた中、お母さんはというと椅子から立ち上がったかと思えばあらかじめ用意していたのかそれに掛けておいた春物のコートを羽織り、その流れで俺の隣までやってきて
「それじゃあ行きましょうか」
「……………どこへ?」
「どこって映画館に決まってるじゃない。私も紺青○拳見たいもの」
おい誰だ人様の予定を管理してるのをいいことにそこから何の映画を見るのか予測して、それをお母さんに教えた専属秘書は。
「ちなみにどこまで読んだ・見たんだ? コ○ンの映画は毎年原作版に繋がる重要なシーンとかが入ってたり、それの知識がないと分からない部分もあるからまだ途中だっていうなら絶対に連れて行かないぞ」
とは言ったもののコ○ンの映画は原作版を知らない人でも楽しめるように作られているのが特徴で、その人達がそれを見た後に感じた満足度が100%だったのならば、原作勢はさっき言ったようなちょっとしたシーンが出てくることにより120%になる。
つまりコ○ンという作品に興味がある人ならば事前知識がなくとも全然大丈夫なので、どんな返事が返ってこようとも連れて行くつもりではあったのだが
「基本は漫画を読み進めていって黒○くめ編の時はアニメ版をって感じで最新巻の96巻までは全部読んだし、映画もちゃんと当時と同じ流れで見たわよ。異次元○スナイパーのラストで沖○昴が赤○秀一の声で『了解』って言ったシーンの時とかつい声を出して反応しちゃったわね」
「……ちなみに一番好きな男キャラは?」
「ベタな答えなのがちょっとあれだけどやっぱり私は怪盗キ○ド派ね」
ふむ。
「一番好きなキャラの組み合わせは?」
「なんか最近は安赤が流行ってるみたいだけどやっぱり私は安定のコ○ン・キ○ドかしら。何というか上手く説明が出来ないのだけどあの二人が組んだ時のワクワクは他のキャラじゃ絶対に味わえないのよね」
「よし行くぞ! 今すぐ行くぞ‼」
完全にお母さんの趣味が自分と同じだったのと、俺の友達は映画は見るけどアニメ版とかはあんまり見ないという人ばっかりだったのでここまでガチな人と出会ったのが初めてだったことこともあり、兎に角嬉しくてしょうがない俺は小さい子供がお母さんの手を引っ張るみたいにして玄関へと向かった。
そのまま手を引っ張ってマンションの駐車場に行ったり、映画のチケットを高校生料金で買ったりしたのはまあいいとして……
今年も相変わらずの面白さだったり俺の一番好きな怪盗キ○ドメイン回だったのに加え来年の予告が来年の予告だっただけに、そして今日は自分の隣にどんな話を振ってもちゃんと理解してくれる人がいることもあって上手く興奮を抑えられない俺は周りの人に迷惑が掛からないようにすることだけに注力し
「ねえー! ねえーー‼ 来年、来年は赤○秀一だよ! なんの話になるのかな⁉」
「うーん、やっぱり映画でやりやすいのでいうと黒○くめ編だけど売り上げ重視で行くならまた安赤がメインのお話しかしら? というかこれは私だけかと思ってたのだけどソウジも含め映画の感想を話すんじゃなく来年の考察をする人って結構いるのね」
「確かに安赤人気は凄いけどこの前やったばっかりだからなぁ。そう考えると一番あり得そうなのは黒○くめ編なんだけど、今後の進展次第では赤○ファミリー編もありそうじゃね? あと今日は公開日から結構立ってるからそうでもなかったけど、公開日当日なんかはコ○ンガチ勢ばっかだから逆に映画の感想なんて聞こえてこないくらいに盛り上がるぞ」
というかコ○ンの映画で一番面白いのは次回予告だと思うのは俺だけ? 個人的にはあの映像と共に来年のメインキャラが喋るシーンはその年で一番興奮すると言ってもいい程なんだけど。
「うわー、それが映画で来たらズルいわね。私だったら絶対見に行っちゃう、というか何が何でも公開日当日に行くわ」
「来年も一緒に行こう! ってか次は絶対に公開日当日に行こうぜ‼」
「あら、最初は全然乗り気じゃなかったのに来年も私を連れて行ってくれるの? えーと、かごかご……あった」
テンションが上がりすぎて全然気付かなかったがどうやら俺達二人は話しながらスーパーエリアへと来ていたらしく、ショッピングカートに自力で見つけたらしい買い物かごを入れたのを見て一瞬で冷静になった俺はお母さんの目の前に移動し
「ちょっと待て。一体今から何をするつもりだ?」
「何ってお昼ご飯の材料を買うに決まってるじゃない。あっ、お昼ご飯はオムライスとコンソメスープって勝手に決めちゃってたけど大丈夫だった?」
「それ誰が、どこで作るの?」
「そんなの日本のソウジ家で私が作るに決まってるじゃない。何か文句でもあるの?」
「あるよ、大ありだよ」
何たってとある休日にミナと二人っきりでお家デートをしている時に
『今日は私がお昼ご飯を作って差し上げますね』
とか自信満々に言うもんだから俺は買い物の為にスーパーに連れて行くくらいであとは全部任せっきりにしてたら、自称ハンバーグという名のただの肉の塊をアンタの娘が出してきたんだぞ!
しかもそれを自分で食ってなんて言ったと思う?
『なんだか何時も食べているハンバーグとは味や触感がちょっと違いますね。やはり材料の違いでしょうか?』
とか言い出したんだぞ!
なわけねえだろ‼ 普通ハンバーグを作るために必要な材料ってのは合いびき肉と油の他に、玉ねぎ・パン粉・牛乳・卵・塩コショウが必要なのに最初の二つだけで作ったんだから全然違うのは当たり前だろうが。
「そんな娘の母親が昼飯を作るとか怖くて任せらんねえよ! そんなにオムライスとコンソメスープが食いたいなら俺が作ってやるから今すぐそのカートを渡せ」
「ん~、ミナにはリアーヌがいるし、何より料理が出来なくても全く困らない立場にいるからそういうことは教えてこなかったけど…やっぱりある程度は教えておいた方がよかったかもしれないはね」
「なに自分は出来るけどみたいな雰囲気出してんだよ。言っておくが俺は二度と騙されないからな」
「雰囲気も何も私は普通の人間なのだから800年以上も生きていれば暇すぎて料理の一つや二つくらい出来るようになるわよ。幸いなことにアンヌという適任もいたしね」
そう言うと片手でカートを押しながら、もう片方の手で俺のことを引っ張ってまずは一番近くにある野菜売り場へと向かった。
それからお母さんは野菜売り場→精肉コーナー→卵やバター・調味料関係などが売られている場所へ必要な材料などが書かれたメモ等を見ることもなくスムーズに買い物を済ませたかと思えば、慣れた手つきで次から次へと作業を進めていき気が付いたら明らかに俺が作るよりも美味そうなオムライスとコンソメスープが完成していた。しかもなんかケチャップで書いた猫の絵もやたらと上手いし。
あとお母さん曰く『オムライスを作るのは今日が初めてだけど、オムレツの応用だと考えればそんなに難しくないわね』だそうです。
「私的には美味しく出来たと思うのだけど、どうかしら?」
「別にどっちがいいってわけではないけど、いつもリアとかが作ってくれる綺麗な味っていうよりかは家庭の味って感じで…取り敢えず美味い!」
久しぶりに帰省した時に分けてもらった煮物を食った時も思ったけど、やっぱ家庭的な味だろうと何だろうと自分で作るよりも誰かに作ってもらった方が美味いな。
「アンヌに料理を教えてもらう時に家庭的な味に仕上がるのと、一流のシェフやメイドが作るような物みたいな味になるのどっちがいいかって聞かれて私は前者を選んだのだけど、まさかそのお陰で新しく出来た自分の息子にここまで喜んでもらえるなんて…世の中に何が起こるか分からないわね」
「ねえ、スープまだある?」
「まだあるわよ。ほら、お皿ちょうだい」
そう言いながらお母さんがこちらに手を差し伸べてきたので皿を渡すとどこか嬉しそうな顔をしながらキッチンへと向かったのを見てふと
(そういえば俺って昔からコンソメスープが好きで毎回それが出てくる時はおかわりをしていたし、小さい時はうちの母親も同じようなことをしてくれてたけど…あの人はどんな顔をしていたんだろ?)
と思った同時に
(まあ会おうと思えば何時でも会えるんだし、気が向いたら飯でも食いに帰って確かめてみるか)
そう結論づけた俺はお母さんが戻ってくるまでの間残っているオムライスを食べ進めることにした。