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第144話:腐った○○○をどう扱うか

上手くいけば誰かしらがこの状況を止めるために動き出すだろうとは思っていたし、別にこの人がそれをやろうとしているからといって何も思わなかったのだが、現在進行形でティアの殺気に耐えながら何とかして自分の考えを伝えようとしていることには少し驚いていたりする。


まあだからと言って何かが変わるわけではないけど。………今は。


「しま……す。……戦争――どこか………で、憎し――の連鎖…を、止めないと……永遠――続きま…す」


(コイツの言葉、信じても大丈夫そうか?)


(んー、うむ。少なくとも今のところは信頼してもよさそうじゃな。流石にわらわでも未来までは読めんから今後どうなるかは知らんがの)


取り敢えずはこれで駒が揃ったか。


「おいティア、この調子だと次の予定に影響するからその人に向けてる殺気を一旦納めろ」


「……ほれ、これでよいかの?」


そう言った瞬間さっきまでとんでもない殺気を向けられていた女の人は前のめりに倒れそうになったところ何とか両手を地面につけて回避し、それから思い出したかのように勢いよく呼吸を始めたがちょっと時間がないのでそこら辺は無視させてもらい


「貴方がさっき言ったことは正しいし、それは俺の考えとも一致するが…言葉だけじゃ足りねえな。ってことでもう二度と自分の大切な人を戦争で亡くしたくないのならお互い恨みや憎しみをぶつけ合ってないでサッサと妥協点を見つけろ。じゃないと何時まで経っても同じことの繰り返しだぞ」


「そんな綺麗事を言えるのは俺達の苦しみが分からねえからだろうが! ふざけやがって‼」


はい、俺の勝ち~。


「突然話が変わって悪いんだけど日本には腐ったミカンの方程式ってやつがあってな。あれはみかん箱の中で一つのみかんが腐ると周りのミカンをどんどん腐らせていくってやつなんだけどさ、これの解決策ってなんだと思う?」


「………………」


「答えは簡単。できるだけ早いうちに腐ったミカンを箱の中から出しちまえばいいんだよ。今の状況で例えるなら俺の提案に納得のいっていないお前と、それをすることによって騒ぎ出しそうな奴ら全員を殺してしまえば問題解決……。なんてね~」


「さっきも注意したばかりじゃというのに、なんでお主はスグそうやって自分を犠牲にしたがるかのう。立場上仕方がない時もあるとはいえ、わらわ達がそんなことをして得た結果など求めていないことはレミアに怒られて分かっただろうに」


(生憎俺はそれ以外の結果の出し方なんて知らないし、関係ない話をするなら少し黙ってろ)


「俺に今から腐ったミカンとして処分されるのか、この人みたいに今回の件を機に戦争という負の連鎖を断ち切るために理解のある純スロベリア人と新部署を作り仲介的な仕事をしろとまでは言わねえけどその為の努力を自分なりにやっていくのか…どっちにするんだ?」


「………………」


チッ、こっちは時間がないって言ってるのに黙ってんじゃねえよ。蹴っ飛ばすぞ。


「あ、あの……、いつから私はそのような部署への配属が決まったのでしょうか?」


「んー、じゃあ今。ああ、ちゃんとヴァイスシュタイン王国直属の機関として部署を作る予定だから身の安全は勿論お金の面でも全面的に支援していくから安心していいよ」


ちなみに旧クロノチアは一応隣にあるスロベリア王国に吸収された形をとることになってはいるが、それは形だけで実はこの国のトップは俺だったりする。


では何故そんなことをしているかというと、単純にうちの国とここが離れているせいで運営するのがかなり面倒くさいので副隊長的なノリでスロベリアの国王に基本運営は任せることにしたのだ。


まあアイツが直接何か仕事をするとすれば、視察か俺から直接頼まれた仕事をこなすくらいで他のことは領主かなんかを用意してその人にやらせるんだろうけど。


なんてことを考えているとその国王ことアラン・スロベリアが護衛を引き連れてこちらに向かってきた。しかも何故か滅茶苦茶嬉しそうに。そしてあたかも当然のように抱き着いてきて


「ソウジ様ーーー‼」


「よくこの異常な空気感の中そんな笑顔で俺のところまできたな、おい。取り敢えず謝罪しろよ、謝罪」


「えー、こんな鶏並みに残念な脳みそをした部下の尻拭いの為に僕が頭を下げるなんて絶対に嫌なんですけど。というか旧クロノチアの皆さんの方が優秀みたいですし、いっそのことコイツら全員クビにして総入れ替えしちゃっていいですか?」


自分の部下に対する脅しのつもりなんだろうけど、可愛い顔してポル・ポトの『腐ったリンゴは箱ごと捨てなくてはならない』みたいなことをサラッと言うとかおっかねぇ。


まあ事情があったとはいえ12歳という若さにして国王なんて立場についてる時点でただの無能なのか、それとも最低でもある程度は使える人間なのかの二択であり…アランの場合はティアが認めるほどの人材だってのに自分の部下の脳みそが鶏レベルじゃそうも言いたくはなるわな。


だからって冗談でも許可するつもりはないけど。


「ここまでボコボコにされてなお逆らうって奴ならまだしも、考えを改めた人達まで一緒に切ったらまた新しい戦争が始まるかもしれないんだから駄目に決まってんだろうが。それに後者に関してはこっちから頭を下げてお願いするレベルで貴重な人材なんだから絶対にそんなことすんなよ」


「はぁ、正直僕としてはこういう馬鹿共にもう一度チャンスをあげるとかいう甘っちょろい考えは嫌いなんですけど、ソウジ様がそう言うのでしたら仕方ありませんね」


とここまでのアランは国王とはいえやはり年相応といった感じだったのだが、俺から離れて真正面を向いた瞬間自身の顔やオーラを本物のそれへと変えて見せ


「ここからは私がコイツらを躾けますのでお二人からすればお遊びにもならない程生ぬるいであろうその殺気をお納めください」


「これは……王としての風格や威厳だけで言えば完全に今のお主より上…と言いたいところじゃがソウジ・ヴァイスシュタインという男はそんじょ其処らの者達とは格が違うのじゃし比べるだけ無駄じゃな」


なーんか最近ティアに褒められる回数が増えたような、そうでもないような。……いやーでも、ゆってさっきも怒られたばっかりだしやっぱ気のせいか。






あれからアランによる説教だったり、新しい部署についての軽い打ち合わせなどをその場で済ませた後俺達は急いで家の玄関へと転移したのだが、今度は何故かリビングに置いてあるテレビの前でしゃがんでいるブノワの親父がいたので背中越しに声を掛けると…やっと帰ってきたのかみたいな顔をしながらソファーに座ったため俺もその向かい側へと移動し


「んで、このクソ忙しい時に一人だけこっちに来てるってことはやっぱりサボりか?」


「その忙しい時期に息子の口から出た一言目がそれとは…私もお前の気持ちが分からないわけではないが、そういうことは程々にしておかないとそのうちリアーヌ辺りが監視役に付きかねないぞ」


「それが嫌だからこうやって今日も授業があるってのに朝からブラック企業の社員のごとく働いてきたんだろうが」


しかも昨日はみんな頑張ったからという理由で俺とティア以外の城内メンバーには有休を与えているというこのホワイト具合。もはや『プロフェッショナル 仕事○流儀』に取り上げてほしいくらいだね。


あ、でもなんかよく分かんないけどアベルに向かって


『明日はわらわが騎士団の面倒を見ておくからお主も有休を取ってよいぞ』


などと一見いい上司風なことを言ってるけど丸々午前中サボってたティアは取り上げなくて結構です。流石にこっちに帰ってきたらそのまま真っすぐ自分の仕事をしに行ったけど。


「それにしてもあそこに飾ってある賞状。お前が六年間で一番本を読んだと書いてあったが一体何冊読んだんだ?」


ブノワの親父はさっきまで自分がしゃがんでいた辺りを指さしながらそう言ってきたのでまさかと思いそっちへと目線を移すと……昨日マイカが俺の部屋から勝手に持ってきた賞状が宣言通りテレビ台の上に、しかも全面ガラスで出来ているタイプの額縁に入れられ立て掛けられていたどころか、ちゃんと盗難・劣化防止の魔法まで掛けられていた。


それも今の俺では絶対に解除できないどころか一ミリたりとも動かせないくらい強力に。……そしてあそこから感じる魔力がティアのものな時点でこれはもう抗うだけ無駄であると言われているようなものである。


「確か文部科学省の決まりで小学生の一年間あたりの授業日数が200日前後だったのと、毎年夏休みはお盆以外図書室を開放してたはずだから、その期間毎日図書室で二冊ずつ本を借りたとなれば約1320冊ってところだな。まあ流石に毎日必ずってのは物理的にあり得ないからもう少し減るだろけど、自分で買った分も合わせていいならそれよりも数十冊くらい多くなるんじゃないか?」


「7~12歳までの間にそれだけの本を読んだ息子に驚けばいいのか、普通の子供が自分の年齢にあったものを、しかも自由に読めるだけの数が揃っている環境に驚けばいいのか分からない数字だが同時に今の息子がある理由もほんの少しだけだが分かった気がするな」


なんて言った後ブノワの親父は誇らしげに『これはレミア達にも見せてやらんとな』とか言い出したが、もう俺にはどうすることもできないので完全に諦めて次の話へと進めることにした。

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