第142話:残された者の恨み
今日は三限に授業があるためいつも通りの時間に朝ご飯を食べた後、約束通りティアを連れて戦争に負けたいせで暗くなっているクロノチアの街中で釣りを始めると早速一人の女性がこちらに近づいてきて
「私のアンドレを殺したのは貴方達でしょ‼ なんとか言いなさいよ‼」
釣れた。
「なんとか言いなさいよと言われましても、そもそも私達は貴方のことなど一ミリも知りませんし、アンドレという人も存じませんので何とも言えないのですが……」
「よくこの状況でそんなことが言えたわね‼ どう考えてもお前らの国とウチとの戦争で殺された私の婚約者に決まってるじゃない!」
「いや、戦争のくだりまでは確かに予想できておったが…婚約者じゃということまで分かったらエスパーじゃろうて」
……こいつ今回の目的の為にワザと煽っていると見せかけて素でやってんじゃねえだろうな? まあどっちにしろ助かるんだけど。
「それはお気の毒でしたね。ご冥福をお祈りいたします」
そう言い終えた後に頭を下げた瞬間どこからかナイフを出すような音が聞こえ、そのまま俺に向かって例の女性が叫びながら走ってきたのだが珍しく護衛の仕事をしたらしいティアがナイフの刃を親指と人差し指の二本だけで抑えたまま
「他国の王を殺そうなどとは随分と思いっきりがよいのう。動きは悪かったがの」
「離せ‼ 私は絶対にそいつを殺すんだ! アンドレを私から奪ったくせに自分は三人の女と楽しく暮らしてるなんて許せない‼ だから私がこいつを殺して三人にも同じ思いをさせてやる‼」
「さっきから殺すじゃの、こいつじゃのと失礼なやつじゃのう。なんならわらわが先にお主を殺してやってもよいのじゃぞ」
お前も十分失礼だけどな。……さて、だんだん人も集まってきたしそろそろいいかな。
「そいつの望み通り離してやれ。どうせこんな雑魚じゃ俺のことは殺せない…いや、この国の人間が全員でかかってきても余裕だな。ふっはは」
「だそうじゃ……。ほれ、好きにしてよいぞ」
「だったらまずはアンタから死ねえええええ‼」
そんな女性とは思えないほどの、そして途轍もない恨みがこもった叫び声を上げながら目の前にいたティアに向かってナイフが振り下ろされた。
その為俺は二人の間に割り込む形で転移し
「あらら、私を殺すためのナイフが壊れちゃいましたね。何か人を殺せるレベルの魔法とか使えます? あっ、今から家に帰って何か武器を取ってきてもいいですよ」
「――――――っ⁉」
「別にたかだか素手でナイフを握り潰した程度でそんなに驚くこともなかろうて。……はぁっ、まさかお主の婚約者とやらはそんなこともできんん弱っちい男じゃったのかの?」
そろそろ野次馬の我慢も限界ってところか。
「………よく聞け敗者共‼ 俺を殺したい奴は今すぐここに来い! そして満足するまで好きな武器で、魔法で攻撃してこい! 冒険者ギルドで俺の殺しを依頼してきてもいいぞ! どうせお前らのお馬鹿な頭の中では大勢で一斉に攻撃すれば殺せるとか思ってるんだろうからな‼ 結局最後は時間と依頼料の無駄だったと認識することになるんだけどな‼」
煽りに煽りまくった俺は自分の周りに防御結界を張り、アイテムボックスから椅子を出して座るとティアが勝手に人の首に噛みついてきた。
なんでこいつは俺の血を吸ってんの? 意味分かんないんだけど。……あと毎回吸血時にエロい声出すの止めてくんない。
「んんくっ、んむ、んむぅん、ぷはぁああん……。ん、ちゅっ♡」
「その最後に首筋にキスするのなんなの? それをやり始めたのは最近だから必ず必要っていうわけでもないよな」
「さあのう……。血を吸った理由は念のため地面の下にも結界を張るためじゃ」
なに拗ねてんだこいつ。しかも拗ねてるくせして後ろから抱き着いてきてるし。まあこれは何時ものルーティンなんだろうけど。
「…………。おい、なんで何も喋んないんだよ。いつもは触れてほしくない部分を的確に抉るような問いかけをしてくるくせに」
「お主も大分成長したようじゃからのう。少なくとも今のわらわが言ってやれることは褒め言葉以外何もないのじゃ」
「そいつは良かった……」
それから三時間程が経ち、最初は威勢よく結界を壊して俺のことを殺そうとしていた連中は時間が経つにつれてスタミナ切れなのか続々と地面に座り込んだりし始め、ようやく最後の一人がバランスを崩して勝手に倒れてくれた。
そんな様子を確認した俺は次の計画に移行する為に結界を広げた後、指パッチンをしたと同時に千人程の集団を椅子の後ろに出現させ
「さあ、俺を殺せると思い込んでいた馬鹿共の皆さんにお知らせです‼ なんとここからは反撃のお時間ですよ~! と言っても反撃するのは私ではなく、貴方達の大切な人に大切な人を殺されたスロベリア王国の皆様ですがね」
「「「「「………………」」」」」
「おいおい、なんでみんな黙ってるんだよ。こっちはみんなやる気満々なんだからなんとか言えよ」
どうやら俺が言いたいことに気付き始めた奴もいるようだけど、止めてあーげない。
「ということでまずはそこのお前。お前はさっき私は婚約者を殺された可哀想な被害者ですみたいな感じで俺のことを殺そうとしてきたけどな、アンドレとかいう男は銃という地球の兵器を使ってこの人の旦那さんを、この子の父親を、この人の一人息子を、そしてこの人は来月生まれる予定だった赤ちゃんを婚約者に見せてあげる前に殺されたんだよ。こっちで確認しただけでもアンタの婚約者に殺された人間は四人いる。つまり今からお前はこの四人に恨みごとを言われ、苦しみながら殺されることになるけど…精々その体力が完全になくなって真面に動けない体で楽しんでくれよ」
「きっ、汚ねえぞ‼ お前が好きなだけ攻撃しろっていうからこっちはやってたのに、疲れ切ったところを狙い撃ちなんて卑怯過ぎるだろ!」
「おいおい、いつ俺がタダで殴られてやるって言った? 勝手に自分の都合の良いように解釈してんじゃねえよ。つか、約300人でたった二人の人間をリンチしようとした奴らが卑怯云々とか片腹大激痛なんですけどー」
見た感じ冒険者ギルドかどっからか雇われてきた奴も何人かいるみたいだけど、そいつらはこの場が怪しくなってきたことを察して撤退し始めたな。
「ふ…ふん、そこにる四人がアンドレに殺されたからなんだっていうの? 悪いけど私は家に帰らせてもらうわよ」
「おいおい随分と自分に都合の良い解釈をするじゃねえか、アンドレの自称婚約者さんよう」
「なんですって? 私がいつ都合の良い解釈をしたっていうのよ⁉ 婚約者とはいえ結局は赤の他人であるアンドレのせいで私が殺されるなんて御免だから、その前に家に帰るだけじゃない‼」
「さっきまでアンドレとやらを殺された恨みを晴らそうと無駄な努力をしておった者とは思えん発言じゃのう。こんなのが元婚約者とは男の方も見る目がなかったようじゃし、ある意味お似合いなのかの?」
こいつワザと煽るために笑い出したぞ。お前役者の才能あるぞ、マジで。
そう思いながら再び指パッチンし、俺らの後ろにいた約千人の姿を消し
「あと一分後の十二時ピッタリにクロノチアという国は無くなりスロベリア王国に完全吸収される。つまりさっきお前らの前に現れた人達とも今後は同じ国の人間として頑張っていかなきゃいけなことになる。……ってことで今後も俺を殺す為に無駄な努力をし続けて人生を棒に振るのか、お互い敗戦国として妥協点を見つけて新しい人生を送っていくのかは自分達で考えてくれ。まあ少なくとも後者を取れば二度とお前らが戦争に関わらずに済むことは保証するぞ」
「「「「「………………」」」」」
俺が二つの選択肢を提示してやり、それを聞いた奴らが一斉に黙り込んだ瞬間……それを狙っていたかのようにスロベリア王国の国王がクロノチアを吸収することを宣言した。