第133話:やきもちティアちゃん
あれから約一時間。ミナが俺の隣に座ってきてリアと同じように腕を絡めてきたり、ティアが如何にも玉座! みたいな椅子を収納ボックスから出して偉っそうに座っていたら簡易テントの中で降伏者やその関係者の心のケアなどを行っていた婆ちゃんが出てきて
『一応仕事としてソウちゃんから依頼されているとはいえ、そんなに暇なら少しはこっちの手伝いをしてほしかったんだけどね』と言われたので
『手伝えって言ったってこの中でまともに治癒系の魔法を使えるのはリアだけだし、何も出来ない奴がいたって邪魔なだけだろ』と如何にも今どきの若者みたいなことを言い返したら
『荷物運びに患者の列整備、他にも雑用はいくらでもあるんだからそんな言い訳は通用しないよ』と普通に怒られた。
一応怒られたこの四人って国の最重要メンバーでこの戦争での最大戦力だったり、俺に関しては婆ちゃん達の雇い主でもあるんだけど…こうやって周りの大人が遠慮せずに叱ってくれるのはありがたいことだと考えている側の人間なので特に文句を言う気はない。
しかし今回俺にはこうやって堂々と座っているという大事な役目があったのだから、悪いのはそこで大人の姿で女帝みたいに足を組んで玉座に座っているティアだけだと言ったところ
『ティアちゃんが女帝なら、自分のお嫁さんを両脇に侍らせて敵陣が蹂躙されていく様を暇そうに見ているソウちゃんは魔王だよ』と言われてしまったので、丁度お昼ご飯をこっちに運び込もうとしていたエメさん達の代わりにそれをやり、ついでに準備も手伝わせていただいた。
ちなみに女帝様は騎士団の戦術顧問的ポジションの人間でもあるのと、万が一うちが押され始めても即対応できるように…とかもっともらしいことを言ってそのまま偉そうに座り続けていたのだが、少々不機嫌なご様子だったのでそっとしておくことにした。
今日のティアちゃんは『おかわわわわわわわ‼』である。
てなことがあって現在の時刻は午前11時50分。
敵の死者69名、降伏者が32名に対し我が軍の死者・負傷者は0。それどころか最初にリアが言っていた通りかすり傷を負ったものさえ一人もいなかったという完璧な結果でこの戦争は終わった。
その為俺はその死体から金目の物を全て頂いてからそれらを転移魔法でクロノチアの王城の前に送り付けてやったり、返り血などで汚れた部分を魔法で綺麗にしてやった後、一気に鎮静魔法をかけた。
最初は回復系の魔法は完全に使い物にならないと思ってたけど、場合によっては結構使えるな。
「あーあー、……はい、皆さんどうもお疲れさまでした。ということで今からお昼ご飯の時間にするけど、この後は俺達だけで行くからアベル以外は好きなだけ食べていいよ」
一応今日の夜飯は特別に俺が用意する予定だけど、ここで腹いっぱいにさせて出来るだけ打ち上げ代を削ろう…なんてセコイ考えで言ったわけじゃないですよ。いやホントに。
なんか朝ご飯の時に三角形のやつではなく食パン丸々二枚使って作られたサンドイッチを一人三個+大盛りの野菜スープのセットをペロッと食べた挙句普通にみんなしておかわりしてたけど、なんか朝より用意されてるご飯の量が倍以上に増えてたけど…別に何人前の飯と飲み物を用意して、いったいそれらで幾ら飛ぶんだとかこれっぽっちも考えてないし。
「まあこの人達は騎士団の中でも実戦部隊っていう一番体力を必要とする人達だから食べる量が多いのは当たり前だし、日頃からいっぱい食べて体を作るのも仕事のうちみたいなものだからね。そんな人達相手にお昼ご飯を沢山食べさせて~っていうのはあんまり意味ないと思うよ」
「当たり前のように人の心を読むのやめてくれません。あと、耳はもう聞こえるから自分の口元を見せてこなくても大丈夫だぞ」
「心を読むも何も、ソウジ君ってばさっきからずっと騎士団の人達がお昼ご飯を受け取ってるところをさり気なく見ながら、『おいおいマジかよ、君達そんなに食べるの?』みたいな顔してるんだもん。夜の打ち上げのことを知ってる人達なら誰だって分かるよ」
別に俺は誰がどんだけ食おうと何も思わないし、食いたいだけ食えばいいと思っている人間なのだが…流石に今日の打ち上げに関しては若干気になる。主にお金の面で。
「お金なら今回の戦争で敵の死体から回収した防具や武器を売って得たお金を打ち上げ代に回せばよかろう。なんせうちは全員無傷どころか装備の修理や調整をする必要もなさそうじゃしのう」
なんて不機嫌そうな声でそんな言葉が聞こえてきたので後ろを振り向くと相変わらず玉座に座っているどころか、なんか頬杖をついてそっぽまで向き始めちゃったティアちゃんがいた。
「この後の作戦ではいつも通りティアとは相棒として行動するんだし、なんなら明日一人で行く予定だった釣りにも連れてってやるからいい加減機嫌を直せよ」
「何が釣りじゃ。どうせ今から殺しに行くスロベリアの兵士の関係者が沢山おる場所にお主というデッカイ釣り針を垂らしに行くだけじゃろうに」
「なんのお話ですか? あ、これはティアさんの分のお昼ご飯ですのでどうぞ」
どうやら自分とティアの分のお昼を貰ってきたらしいミナがそう聞いてきたのでここまでの話を簡単に教えてやると
「なるほど、そういうことでしたか。ティア様がいかないようでしたら代わりに私がソウジ様と一緒に行ってきましょうか? どのみちそんな危ないところに一人で行かせるわけにはいきませんからね」
「ここまでソウジを育てたのはわらわなのじゃから最後まで面倒を見るのも、その成長を一番近くで見届けてやるのも全てわらわの役目なのじゃ。それを成果の部分だけ持っていこうなんて相手が誰じゃろうと絶対に許さんぞ」
「まあ私も別の分野ではソウジ様を教育と言いますか、支えさせていただいておりますのでお気持ちは分かりますが…ここまでムキになるなんて珍しいですね。なにかあったんですか?」
あれ、この弁当箱まだ温かい…ってことは作りたてか?
「なにかあったのかじゃと? 少なくともお主ら四人には言われとうないわ。(人の隣で二人してイチャイチャしおったり、自分の好きな者のためにこんな血生臭いところにまで手作りのお弁当を持ってきたりと……) んぅ~、なんなんじゃもう!」
ミナとマイカには聞こえてなかったみたいだけど、どんだけ声を小さくしようと今日の俺には丸聞こえだぞ。既に婚約者が四人もいることによって女の子の扱いが急速に上手くなった今の俺はそんな無神経なこと言いませんけどね。
「でもティアだって私達のいないところではソウジ君に色々してあげてるんでしょ? 何だかんだで毎日一定以上の時間を一緒に過ごしてるし」
「そうですよ。こっちはソウジ様の予定によって一緒にいられる時間が変わってくるっていうのに、ティアさんは一緒にいられる時間が一定数確保できるのに加えてその時間は基本独り占め状態じゃないですか。少しくらいその時間を私達にも分けてほしいくらいですよ」
聞こえた部分と今までの状況を組み合わせて瞬時に的確な答えを導き出すとかマジ凄いな。まあそんだけこの三人は仲がいいってことなんだろうけど。
なんてことを考えながら口に入れていた分を飲み込んだ後、ティアの前に置いてある野菜スープへと自分の箸を伸ばして一番近くにあったソーセージを掴み取り
「ほら、口開けろ。あーんだ、あーん」
「…………」
無言どころかご不満そうな目でこっちを見ながらもちゃんとあーんされるのかよ。こりゃー、五人の中で一番年上のティアが一番ヤキモチを焼きやすい子なのかもな。
「あはははは、陛下~、女性相手にあーんしてあげるのに自分の分からじゃなく相手の分を…なんてちょっと食い意地張りすぎじゃないですか?」
なんて地雷をぶち抜いてくれちゃったのはたまたま俺達の近くを通りかかった一人の男性騎士団員だった。
「……実は俺ってパンが嫌いでな。この弁当を少しでも誰かに食われると夜ご飯まで食べるものがなくなっちゃうからケチったてのは確かにあるんだけど……今度からそういうアドバイスはこの子達がいないところでしてくれるか。ほら、今回みたいな状況が続くともしかしたら宗司よりも○○さんの方が素敵かも…みたいなことになるかもしれないだろ? そんなことになったら俺はもう二度と立ち直れん」
「一つくらい欠けてる部分があってもそれを軽く補えるくらいの魅力があるんですから、そんなことで奥様達の気持ちが揺らぐとはとても思えませんが…分かりました。これからはちゃんと周りを確認してからにさせていただきますね」
言葉ではそんなことを言いつつも顔と声は満更でもなさそうじゃねえか、おい。俺なんかふとした瞬間に…もしかしたらこの子達が好きでいてくれるのは今だけで、スグに愛想を尽かされるんじゃないかって不安になって、たまに泣きそうになる日もあるってのによ。
どうやったらそんな『僕、女の子の扱いは完璧なんで』みたいな感じで俺に話しかけてきた挙句、ちょっとあり得るかも? みたいな思考に至るのか教えてほしいんですけど。