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第126話:少年と算数

一人ひとりに掛ける時間は短かったものの人数が多いためどうしても時間が掛かってしまい、ようやく最後の子を相手してるところだったのだが……


入ってきた時の嫌そうな顔から何となく想像は出来てたけどこのレベルの計算問題で三十点か。まあこの子はこの施設で最年少みたいだし、何より学校の勉強なんて最低限基礎さえ覚えておけばよくて、その基礎知識を使って学校では教えてくれないことを自力で学ぶことの方が大切だと思ってる人間なのでぶっちゃけどうでもいいのだが…他人に自分の考えを押し付けるもんじゃないし、何よりこういう子の気持ちは痛いほど分かるからな。


えーと、今回のテストは答えが二桁の数字になる足し算が多く出されていてそれは全て不正解。しかし答えが一桁になる問題は全問正解と。


「みんなには隠してるんだけど実は俺って滅茶苦茶馬鹿だから算数とか全然分かんなくってさ、えーと……この問題ってどうやったら答えが3になったか教えてくれないか?」


いくら小学校低学年くらいの男の子が相手とはいえこんな大根役者をも超える下手くそな嘘ではやはり不振に思われてしまったらしく少し戸惑いながらも自分の両手をテーブルの上に広げて見せ


「えっと、これは1+2なのでまずこっちの手をグーにしたあと指を1にして…そのままもう一回1・2ってやったら、答えが3…になります」


「んーと、右手をグーにしたあと1で、その後にもう一回1・2と…おおー、マジで答えと同じ3になったわ! じゃあこの6+4って問題は…指を6にした後1・2・3・4だから答えは10で……当たってる当たってる! スゲェなこの方法、初めて二問連続で当たったぞ。この調子ならレンが間違えた問題でも解ける気がしてきし、ちょっとこの6+7ってやつをやってみるか」


そう言いながら俺は両手がグーの状態から指を6にした後1・2・3・4とやっていくと当たり前ながら指の本数が足りなくなるわけで、ここからどうやってレンの指も使えば足りるということを気付かせようか迷っているとレンが自分の両手をグーにしたかと思えばその状態の右手を俺の手元に近付けてきて


「ここまでが6で、ここからが1・2・3・4だから5・6・7でえーとえーと、1・2・3・4・5・6・7・8・9・10・11・12・13……。分かった! 答えは13、13だよソウにい‼」


「はあ⁉ おい、どうやって13って数字を出したんだよ? ちょっと俺にも分かるように教えろって」


「まずねまずね、ソウにいのここからここまでの指を合わせたら6で、ここから1・2・3・4って数えた後に僕の指を使って5・6・7。それであとは僕達の指を最初から数えたら?」


「1・2・3・4・5・6・7・8・9・10・11・12・13……。ホントに13じゃんか! こんな凄いことに気付くとかお前天才かよ! おい、もしかして他の問題も二人の指を合わせてやれば解けるんじゃねえか? ちょっと一緒にやろうぜ」


そう言うと最初の嫌そうな顔はどこへやら、完全にイケイケゴーゴー状態のレンは自分から進んで問題を解き進めていき……最後の方などまるでゲームをやっているかのような感覚で楽しそうにしていたという、俺には全く理解できない域に達していた。


俺なんか数学はもちろん算数の授業の時ですら楽しいと思ったことが一度もないどころか、毎回先生に当てられないかビクビクしながら早く授業が終わることを祈り続けてたぞ。あと出された問題を解く時間の時に先生が自分のところに近づいて来たら腕でノートを隠しながら考えてるフリをしたりな。


「見てみてソウにい、最初から解きなおしたら全問正解だったよ!」


「俺も同じ問題を一緒にやってたってのに途中からレンが一人でどんどん解き進めていくようになったから、指が足らなくて困ってたのに全問正解だと? 早くどうやったのか教えろよ」


「そんなの簡単だよ。こんな風に自分の指が10までいっちゃって両手ともパーの状態になったのなら、今度はこうやって一本ずつ折り曲げていけばいいんだよ!」


これは完全に自己流を押し付ける形になってしまって申し訳ないのだが、算数や数学の計算問題なんかは他人からやり方を教えてもらうよりも自分で何かいい解き方がないかを考え見つけ出した方が何故そうすることでこの答えが出るのか、というところまで確実に理解出来るのでそれをレンが無意識のうちにやるように仕向けてみたのだが…どうやら成功したみたいだな。


「はいはいはい、なるほどねー。やっぱお前天才だわ、これから毎日授業で覚えたことを俺にも教えてほしいくら……そうだ! ちょっとレンの部屋に連れてって欲しいんだけど、ダメか?」


「ん? 別にいいけど…なんで?」


「まあまあ、それはレンの部屋に行ってから説明するから、早く行こうぜ」


「わわっ⁉ いきなり僕の手を引っ張らないでよ~」


そんな言葉とは裏腹に満面の笑みで俺の手を握り返してきたあと、今度は逆にこっちが引っ張られる形になり


「ここが僕の部屋だよ」


「えーと、じゃあこの机でいいか。………よし、ちょっとこの机の上に自分の右手の手のひらを乗せて…そうそう。んで、そのままの状態で『電話、ソウにい』って言ってみ」


呼び方に関してはレンに合わせたとはいえ、自分でソウにい言うのは結構恥ずいな。


「電話、ソウにい……っ⁉」


そうレンが言うと先ほど魔法で改造した学習机が反応し、レンにとって丁度いい高さの所に画面が浮き出したのを見て驚いてるのを横目に


「そこに映し出されているのは普段俺が使ってる部屋なんだけど、明日から毎日授業があった日はこれを使ってその日覚えたことを何でもいいから兎に角教えてほしいんだ」


「いいよ! さっきの算数みたいに僕が教えてあげる」


ありがたいことにレンは心の底から嬉しそうにそう言ってくれたので、最後にこの件に関しては俺が馬鹿だとバレると恥ずかしいから二人だけの秘密にすることを約束してからみんなの元に向かわせた。


まあこの方法は今後レンと同じような子が出てきた時に使いたいのでこっそり魔法でこのことに関しては誰にも言えないようにしてあるのだが、本人は絶対に気付かないのでなんの問題もない。


このことを知っている一部の人間がバラさなければな。






ということで先ほど言った一部の人間の一人である院長さんに念のため口止めをした後レンを含め孤児院のみんなに帰ることを告げ、外に出た直後自分の左手をマイカに向かって差し出すとそんなもの見えていないと言わんばかりの態度で俺の右手を握ってきた。


「別にこれは嫌がらせとかじゃなく君達が建物側を歩けるようにって意味でやってるのに、どうして右手を握ってくるかなぁ。四人中四人にそれをやられると、もはや嫌がらせなんじゃないかって思えてくるんですけど」


「だって二人っきりで歩ける時はよっぽどじゃない限り本当のソウジ君の手と手を繋ぎたいし、その気遣いに関しては反対側を歩けば解決することじゃん」


回答も全員同じかよ。ったく、こっちの世界ならともかく日本でそれをやろうと思ったら態々信号を渡る必要があるわ、魔法を使えないから一々遠回りしなきゃいけないわで結構面倒くさいんだぞ。


ちなみにその話をセレスさんとバーで酒を飲みながら話したところ、『確かにそのお心遣いは素晴らしですが、そこでさり気無く右手を出せたのなら更によかったと思いますよ』と言われた。


言われたのだが、ちょっとだけ性格が変わっている宗司君はもし可能なのであればどんな些細なことであろうとも楽をしたいと考えてしまうクソ人間なので一応マイカにも確認の意味でやってみたのだが、こういう結果が出てしまった以上今後はセレスさんのアドバイスは絶対に聞くようにします。

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