第116話:形勢逆転…だな(笑)
あれから二週間が過ぎ、また新しい週がきてしまったということで俺は一限目の経済の授業を受けていた。
「であるからして、GDPの求め方は―――」
もう関係ないとはいえ一応俺が通ってるのは建築学科であって経済学部じゃないんだけど、これって受ける意味あんのか? まあ経済学部向けの授業を取ったのはこっちであって文句を言える立場じゃないんだけど。
……あー、暇。来週から一番後ろの席で仕事でもしようかな。
なんてことを考えながら机の上に置いてあったスマホに目を向けると、誰かから連絡がきていたらしくランプが点滅していたので先生にバレないようコッソリ確認してみると
ミリー:『陛下~、後でお金払うからシュークリーム買ってきて』
ユリー:『では私はチーズケーキをお願いいたします』
リサ :『じゃ、じゃあ私はフルーツタルトをお願いします』
………クソ、この前仕事とはいえ俺の安否確認をしてくれているご褒美にケーキを買って帰ろうと思ってグループL○NEで何がいいか聞いてからというもの、ちょくちょく日本にいる日を狙っておつかいを頼むようになった挙句、今日は三人同時かよ。
こういうのを職権乱用って言うんだぞ、ったく。
なんて悪態をつきながらも俺は『おーけー』と一言返し、スマホを見ている間に進んでしまった黒板を急いで書き写そうとした時…今度はスマホではなく直接頭に
(あの、ちょっとよろしいでしょうかソウジ様)
(なに? お土産のお願いなら今日はケーキ屋で買えるものにしてくれよ。この後は5限まで空いてるとはいえ仕事を片付けなきゃいけないんだから)
(いえ、実はそれどころではなくてですね……。先程うちの正門前にクロノチアの勇者を名乗る女性が来ていると連絡が入ったので私が対応に赴いたのですが…これがどうも本物のようでして、話をお聞きしたところソウジ様と一度面会をなさりたいと。一応本人に確認してくると伝えて今は門の前で待たせておりますが、どうなさいますか?)
(すぐに帰るからそいつを通せ。警備部には俺から連絡するからミナは城内メンバー全員をリビングに緊急招集させろ。あと待合室の様子は俺がいつも飯を食う時に座ってるテーブルの引き出しに入ってるタブレットで見れるからそれでマイカが監視。んで勇者の相手は必要最低限に抑えてあとは全員リビングで待機)
そうミナに念話で伝えた後板書しかけのルーズリーフや教科書を急いでリュックの中にしまい、教室をそっと抜け出したと同時に誰もいない廊下を走り研究室へと向かった。
それから城のリビングに直接転移した俺はリュックを居間のソファーの上に置きながら魔法で見た目等を異世界Ver.に戻したり、インカムを右耳に刺しながらスマホを警備部に繋げたり、それを通して指示を出しながら監視を任せていたマイカにホワイトボードを使って質問をし、その答えを空いている左耳で聞き取り情報を集めたり、その他にもリビングにいる人達に指示を出したりなんなりと兎に角並行思考魔法をフルに活用して準備を整えた。
そして今、初めて使う謁見の間にて俺はクロノチアの勇者と対面している。
「……初めまして、私クロノチアという国の勇者をやっております坂本香織と申します。本日は突然の訪問にも関わらずお会い頂きありがとうございます」
第一印象としては礼儀正しいってところだが、こういう奴に限って裏に何か隠してたりするんだよな。
「私はこの国、ヴァイスシュタイン王国の国王をやっておりますソウジ・ヴァイスシュタインと申します。また日本では白崎宗司という名前ですのでお好きな方で覚えてくださると幸いです」
などとお互い上辺だけの挨拶を済ませた後、勇者様はこういう場には慣れていないせいか早速本題に入ろうとそれっぽい前置きをしてから
「単刀直入に言います。この国は私達クロノチアの傘下に入ってください」
「ちなみに理由は?」
「理由…ですか。今まで貴方がこの国に来てからやってきたことを振り返れば分かりそうなものですが」
それから勇者様による俺の悪事ついてのお話しが始まったのだが、あまりにも長いので簡単にまとめると
・俺がこの国を乗っ取る為に元いた王族貴族を一斉に牢屋送りにした
・騎士団に関しては自分に都合のいい人達で固めるために真面目な十人がクビにされた
・その十人が途方に暮れているところを自分の仲間に引き入れた際に捕まった王族貴族の話を聞き、助け出そうとしたものの全員俺に殺されて失敗
・そのことに怒った元騎士団の十人が勝手に武器庫から手榴弾を持ち出し復讐しに行こうとしたものの失敗
・その後自分に歯向かう者が出てこないように元騎士団の十人や犯罪者などを利用して見せしめの公開処刑を執行
・上記のことは全て人工衛星で確認済みなので言い逃れは出来ないぞ‼
という感じだった気がする。
「なるほどなるほど……。そこまで言われてしまったら答えはもう一つしかありませんね」
「分かって頂けましたか。では―――」
「はい、もう十分分かりましたのでどうぞお引き取りを。そしてクロノチアで一番偉い人にはこうお伝えください。交渉は決裂したと」
そう言った瞬間勇者様は如何にもこの手は使いたくなかったのにみたいな顔をしながら
「白崎さんも既にご存じだと思いますが私達地球人がこの世界にやってくる際には必ず一つだけ特別な力が貰えます。そして私はある女性に最新鋭の軍用武器等が好きな時に好きなだけ使えるというものを貰いました。ちなみに白崎さんは何を貰ったんですか?」
「………………」
自分のことを自慢げに喋る奴は自信がある証拠だとミナから教わってはいたが、こりゃー完全に自分の力を過信してるな。しかも相手は自分と同じ条件のはずと決め込んで脅しを掛けようといるんだろうけど
「無視ですか。まあ貴方が貰った力ではどうやっても勝てないのですから仕方ないと言えば仕方ないですけど、国王ならもう少しはったりをかますなりなんなりしてほしかったんですがねぇ。その為にこちらは何週間も前からその対処法を練習してきたんですし」
「………………」
ほら、俺の予想が当たってただろ。
「また無視ですか。ではこちらで勝手に話を進めさせて頂きますが悪しからず……。ということでじゃあ白崎さんが貰った力は何なのか。残念ながらご本人から回答はいただけませんでしたが十中八九自分が思い描いた建物を建築するというものでしょう。その証拠にこのお城なんかはこの世界の物とは明らかに見た目が違いますし、何より人工衛星で録画していた映像を確認したところ数日は掛かったもののあり得ない速度でこのお城が出来上がりましたからね」
「……どうやら勇者様は人工衛星も使えるようですので既に知っていると思いますが、私は人前でちょくちょく魔法を使っているんですよ。それはどう説明なされるおつもりですか?」
「なるほど、苦し紛れにしてはいいことを仰る…と言いたいところですが、何故貴方が魔法を使う時は必ず誰かが近くにいるのでしょうか? 答えは簡単。本当は近くにいる誰かが魔法を使っているだけなのに、あたかも自分がその魔法を使っているかのように見せ掛けているからでしょう?」
もしこれが全部ハッタリなら評価したんだけど、残念ながら本気で言ってるみたいですねぇ。
「つまり私は建物を建てる以外何も出来ないから仲間に頼りっきりのハッタリ国王だと?」
「言い方は悪いですが間違ってはいませんでしょ? ということで大人しくクロノチアの傘下に入ることをこの場で約束してほしいんですが」
勇者様はこれまた如何にも『これが最後のチャンスです』みたいな感じで今度は銃をこちらに向けてきた。
「随分と物騒な物をお持ちですね。そんな物を堂々と私に向けてしまっていいんですか? 先ほど貴方が言った推測が正しいとすれば、この部屋に私と貴方の二人っきりなんてあり得ないと考えるのが妥当だと思うんですけど」
「ふっ、残念ながらこの部屋に隠れていた白崎さんのお仲間は既に全員制圧済みですよ、私の仲間がね」
そんな自慢気に自分の耳に刺さってるインカムを指で叩かなくてよかろうに。そういうお年頃なのかな? でもお兄さんは嫌いな奴にはトコトン厳しい屑人間だからお遊びはここまでにするね。
そう考えた瞬間勇者の後ろにいるアベルとティアが『うーわ』みたいな反応をするくらい意地悪な笑みを浮かべながら
「へー、もしかしてそのお仲間ってさっきからお前の後ろで俺の仲間にボコられたり、拘束された挙句魔法で動けなくされてる間抜けのことか? にしてもこのギリースーツ凄いな。どういう仕組みかは知らないけど、これを着た奴は自動で背景と同化し続けるとか聞いたことないぞ。もしかしてお前の能力って実験中の物でも自由に使える感じなのか?」
「―――――ッ⁉」
「おっと、あんまり動かないでくださいね嬢さん。先程から貴方が動くたびに内心冷や冷やしているんですよ。私の早とちりでそのか細い首を折ってしまうんじゃないかって」
俺のことで怒ってくれてるのは嬉しいけど、さっきまで余裕ぶっこいてた勇者様がセレスさんの殺気にビビッて顔が真っ青だぞ。あとここで殺されると今後の計画がパーになるから止めてくれ。