第11話:予想外すぎる……
一通り屋上でやることを終えた俺達は一階に戻ると、いきなり冒険者達が集まってきて
「おい‼ お前は一体何者なんだ?」
「さっきチラッと見た時マリノ王国の姫様かとも思ったが、まさか本物だったとはな‼」
「おいアンタ‼ さっきのはどうやったんだよ!」
うおっ、ビックリしたー。なんだこの騒ぎは…って、どう考えても俺のせいか。面倒くさいから全部無視しよ。あと一番最初の奴、お前こそ何者だよ。人に名前を聞く前にまずは自分が名乗れ。
そんなことを考えながらおばちゃんがいる受付まで行き
「あ~、やっと静かになった。今後は俺の周りにもこの結界を張って歩こうかな」
「これからこの国の王になる人がそんなこと絶対に止めてください」
「そうですよソウジ様。人の上に立つ者、国民の声もちゃんと聞かなければなりません」
「坊主、リアーヌの説教中だけでいいから俺の周りにもこの結界張ってくんねーか」
「あんたら本当に仲が良いね。……それで、次は何の用だい? 次期陛下」
確かにこの3人とは昨日初めて会ったとは思えないほど仲良くなってる気がする。特にお姫様とリアーヌさんは俺のパーソナルスペースに入ってきても全く不快じゃないどころか逆に落ち着くまである。女が相手でこんなことは初めてだ。……だから何だって話だが。
「さっきの緊急依頼を開始してほしいのと、どこか人が集まれる広い場所はないか? 買い取り場は駄目だ。汚すぎる」
「汚いとは失礼だねー。ちゃんと買い取り毎に掃除をしてるんだよ…とは言っても今から来る人達のことを考えたらあんまり良くないか。……ならギルドの隣にある空き地を使いな。あそこはうちの敷地だからね」
「んじゃ、そこ借りるぞ。あとちゃんとこっちで監視してるからズルだけはするなって釘を刺しといてくれ。まあさっきの光景を見てもなお、そんなせこいことをやるような奴はよっぽどの馬鹿だろうけど」
「はいよ。それじゃあ今から緊急依頼を開始させるから場所の指示を頼むよ」
おばちゃんはそう言った後、受付から出てきて緊急依頼のことを宣伝し始めた。それに伴い俺もこの国にいる怪我人、病人の現在地を地図上に表示させたウィンドウを冒険者に付与魔法を使って渡すと……俺が見ている物と同じものが空中に表示された。
それにしてもメニューにマップがあるのは知ってたが、指定したターゲットの現在位置まで表示出来るとは。しかもリアルタイムでターゲットの位置情報が分かるとかストーカーし放題だな。
そんなくだらないことを考えているうちにどんどん人が集まり始めていたようで……
子供の泣き声、助けを求める人の声、何かに苦しんでいる人の声、色んな声が聞こえ始めた。だがこれはまだ良い方だ。……何故なら冒険者が連れてくるのは声すら出せないような人達ばかりなのだから。
「なあ、お姫様。この世界の医療関係はどうなってるんだ?」
「そうですね~、大体の国には病院がありますし、そこには治癒魔法士が何人かいますね」
「ってことは、この国の場合は金が無くて病院に行けなかったってパターンか」
というのも、ここに集まってくる人達はほぼ全員と言っていい程に服装が貧相なのだ。なんで他国はボハニア王国に戦争でも仕掛けて国を占領しなかったのかと不思議だったが……どんな病気持ちがいるかも分からない、占領したとしても労働力として使えないような人が多い国なんてどこもいらないか。
「ソウジ様、どうやら全員集まったみたいですよ」
「ん? ああ、ホントだ。それじゃあ今から俺が範囲型治癒魔法をかけるんで、そこから動かないでくださーい」
そう宣言した後、初めての範囲型治癒魔法を発動させたのだが
「坊主⁉ なんだよこの魔方陣のデカさは!」
「あれ? 一応この空き地の大きさに合わせたつもりだったんだけど……」
「ソウジさんが今使った範囲型治癒魔法、空き地どころかこの国丸ごと覆ってますね。……多分」
「私も範囲型治癒魔法を使えますがあれは魔力量の調節が難しいですから…もしかしたらそういうことかもしれませんね」
「もしかしなくても、今後は範囲型治癒魔法は使わない方が良い?」
「ま~あ正直、『もう少しで敵を倒せる!』みたいな時に味方の為とはいえそれをやられたら最悪だわな」
………今後は緊急時以外使わないようにしよう。
「でっ、ですがソウジさん。今回は皆さん凄く喜んでくださっていますよ!」
「そっ、そうですよソウジ様! それに難しいというだけで、練習すれば良いだけのことですし」
いや、多分練習で何回もあの魔法を使ってたら大迷惑だと思うぞ。そのうちギルドなんかで、『謎のゾンビ現象が発生中!』とか騒ぎになりそうだし。……まあ、今は違う意味で騒ぎになってるが。
「あれ? 本当に怪我が治ってる。というか昔の傷跡も無くなってる⁉」
「あんなにあった子供の熱も下がってるわ!」
「すっ、スッゲー‼ マジであの男何者なんだ」
「うちの子供を助けて下さりありがとうございます‼ 本当にありがとうございます!」
こんな大人数を相手にしてたらキリがない。ということで安定の無視を決め込み、転移魔法を使ってこの国の王城近くまで移動した。
「俺この城に来るの初めてなんだけど、どこに行けばいいんだ?」
「そうですねー。まずは一番広い部屋に行ってみるのが良いんじゃないですか? リアーヌ、この城内で一番大きい部屋はどこだったでしょうか」
「お嬢様含め、私も暫くこちらにはお邪魔しておりませんので自信はありませんが……訓練場かパーティー会場かと」
「この寒い中あの訓練場は無いだろ。当たり前っちゃ当たり前だが、屋根も暖房も無いからな」
「となればパーティー会場か。リアーヌさん、案内を頼む」
「かしこまりました。では私に着いて来てください」
そう言うリアーヌさんの後ろを歩いていくと無駄にデッカイ扉の前で止まり
「私の記憶が正しければここがパーティー会場です」
「ふ~う、中にいるならいるで最初から扉を開けておいてほしいな。……正直開けるのが怖い」
「ぶっははははは。坊主より中で待ってる奴らの方がよっぽど怖いだろうよ」
「確かに。あちら側したらソウジさんはまだ敵か味方かすら分かりませんからね」
「ソウジ様が怖いのも分かりますが、このままここに立っているというわけにもいきませ。なので開けちゃいますね」
「えっ⁉ ちょっま……」
リアーヌさんは俺の声など聞かず本当に扉を開けると……中にいた一人のお爺ちゃんが
「………あなたがソウジ様でよろしかったでしょうか?」
「はっ、はい。私が宗司ですが。えっと、あなたは?」
「これは失礼しました。私、この城で旦那様の執事としてお仕えしておりましたセレスと申します」
「なるほど。あっ、最初に言っておきますが私達は敵ではありませんので」
「いや、この城の主に仕えてた奴に向かって敵じゃないって……。さっきお前がその人の主を牢獄にぶち込んだんだからどう考えても敵だろ」
「いえいえ、とんでもございません。私含め、ここにいる方達は全員ソウジ様に感謝しておりますので。敵なんてとんでもない」
「それは良かったです。ところで、この中で一番偉い方は誰ですか? まずはその人と話がしたいんですが」
そう俺が聞くとセレスさん含め、その場にいた全員がお互いに顔を見合わせ始め……結局最後は困ったような顔をしながらセレスさんが
「大変お恥ずかしい話なのですが、上層階級の方々は全員いなくなってしまったようでして……今は一番年上の私が代表してソウジ様とお話しをさせていただいております」
「…………マジ?」
「ソウジさん。どうやら『マジ』みたいですよ」
それは予想外すぎるだろ‼ ってことは事実上今この国に上層階級が一人もいないってことになるよな。………最悪だ。