第113話:俺はいったい何をしてやれる?
その後時間が経てば経つほどショックが大きくなっていき終いには泣きたくなってきたので体育座りのまま顔を伏せていると
「何故セリアは靴も履かずに裸足のまま廊下に座っておるこやつの頭を撫でておるんじゃ?」
「ちょっと中で色々あって無理やり子供達に追い出された挙句鍵まで閉められちゃったのよ」
「確か今日は坊主の部屋で子供達の下着を買うとか何とか言ってたは………、まあまあ元気出せって。ちょっと時間は掛かるかもしれねえけどエメ達が上手いことやってくれるから大丈夫だって。それにそういう反応に至ったってことはそんだけ心が成長し始めてるってことなんだから、よかったじゃねえか」
やっぱりそういうことなのか……。クソッ、まさかこんなにも早く娘に嫌われた父親の気持ちを味わうとは。あの子達に関しては俺じゃなくアベルかセレスさんにそういう感情が向かうと思ってた分尚更ショックだ。
しかしだからと言ってこのまま廊下にいるわけにもいかないのでそろそろ移動しようと思った俺は顔を上げるとセリアと目が合い
「あらあら、目の下を真っ赤にしちゃって。服の袖なんかで擦るからよ、まったく」
「別に泣いてないし」
「誰もそんなこと言っておらんじゃろうに。取り敢えずセリアは部屋の中に戻っておれ」
そう言うとティアは合鍵を使い子供達によって閉められてしまった部屋のドアを開けると割と素直に中に入ったセリアはベッドに向かって歩いて行った。そしてドアが勝手に閉まってから少しすると…再び鍵が掛けられる音が鳴り響いた。
「「「………………」」」
「ま、まあ取り敢えず地下にあるバーにでも行こうぜ。今ならセレスの親父も暇してるだろうし、そこで相談にでも何でも乗ってやるって」
「まだ夕方には早いが一、二杯くらいならリアーヌ達も多めに見てくるれるじゃろ」
ということでアベルが作れ作れ五月蠅かったので地下に作ってやったバーにやって来た俺達三人はセレスさんに入れてもらったカクテルなりなんなりを一口飲んだ後
「つい流れで来ちまったけどなんで俺の慰め会みたいになってるわけ? 別に何も気にしてないし。よくよく考えれば俺の配慮が足りなかっただけだし。逆にああいう反応をしてくれるまでに成長してくれたって分かって嬉しかったくらいだし」
「ぶっははははは、最後の言葉に関しては俺が言った言葉じゃねえかよ。無理して強がるってんじゃねえよ坊主」
「まあわらわ達三人で初めて飲んだ時にそれについて心配をしておったことを考えると確かに嬉しいことではあるがの。……オレンジスピリタスお代わりなのじゃ」
こいつ、酔いにくい体質とはいえシャンパングラスに入ってた分をもう飲んだのかよ。確かあれってアルコール度数96とかだろ。逆にどんな酒を飲んだら酔うんだ?
「かしこまりました。……ちなみに旦那様は今後どうなさるおつもりなんですか? 一応彼女達はこの宮殿のメイドとして雇われているわけですし、仕方ないこととはいえ仕事に支障が出てくる可能性もございますが」
「俺的にはメイドだからっていう理由であの子達にとって大事な時期を潰したくはありませんし、もしあれならこっちでカバー出来ることはそうしようかな~って思ってるんですけどね。ミナとリアはアベルと親父達という犠牲のお陰であそこまで成長したみたいですし、何より子供達を孤児院から引き取ったのは俺なんだからやっぱりそこら辺は責任持たなきゃなと」
「なーにガキが一丁前に教育論について語ってんだよ。ガキはガキらしく大人や周りの人間にもっと頼れって」
こいつ、ボトルごとウイスキーを頼んだかと思えばロックで飲んでたのかよ。完全に酔い始めてやがるぞ。
「酔っぱらうのは勝手だけど人の頭を撫でてくるんじゃねえ」
「アベルの言うことはちと上から目線であれじゃが皆で協力してというのは普通にアリじゃな。どうせ既にエメとマイカ辺りが上手いことカバーしてくれておるじゃろうし」
「お嬢様は兎も角ミナ様とリアーヌ君も入れて差し上げないとはお厳しいですね」
この人ただ喋りながらお酒を飲んでるだけなのになんかカッコよ。隣でだる絡みしてくる男&見た目のせいで場違い感が半端ない俺達二人とは大違いだな。……ティアは大人の姿になれば逆に似合いすぎるくらいになりそうだけど。
「あやつらは人間で考えればまだまだ子供じゃし、何より経験値が違いすぎるからのう。それにあの二人は自分達が弟扱いしておる男によって少しでも普通の女子としての生活を送れるようにと結構気を配ってもらっておったりするしのう」
「その点でいえばあのお二人だけでなくお嬢様はもちろんのこと、私やエメ君だって自分の仕事上の立場以外の…自然体の私達を求めてくださっているお陰でここに住んでおられる方々とは本当の家族のように接しさせていただけておりますし、それはティア様やアベル様も同じでしょう?」
「そうじゃのう。お陰様で今は周りの目も気にせず自由に動き回れておるし、何よりコヤツといると毎日退屈せんからのう」
そういえばティアって一体何者なんだ? 俺が知ってることといえばたまたまこの国にいて、その流れでマイカ達を助けたってことぐらいだぞ。家事スキルがかなり高いことを考えるとやっぱり一般の出か? のわりには王族としての立ち振る舞いとかに詳しいし元はそれのメイドをやっていた……なわけないか。
「坊主を認めるのはなんか癪だが…確かにこっちに来てからの姫様達は生まれた時から背負ってきた責任という重りから解放されたかのように毎日活き活きとしているのが分かるし、それは俺も同じだからな。……こっちが坊主の世話をしてやってると思ってたら実は俺達が面倒見られてるのはマジで気に食わねえけど」
「それは過大評価が過ぎるってもんだろ。ただ王族貴族、それの従者が揃っているところに元一般人というイレギュラーが入ってきたことによってたまたま上手くいっただけだっつうの。それにここに住んでる人達がみんないい人だったから良かったけどこれが頭の固い奴しかいなかったらお互い反発しあって駄目になってただろうしな。つまりみんなが人間出来過ぎの超人だったから今の俺があるわけでただ運が良かっただけだよ。……もちろん俺がな」
そう、俺は本当に運が良かった。軽い気持ちで異世界に来たらこんなにもいい人達に出会って、こんなクソガキの為にみんなが協力してくれて、三人もの女の子が自分のことを好きになってくれて、それぞれが婚約者だからこそ出来ることで手助けをしてくれて。
そんな人達を大切にするのは当たり前のことであり、俺なんかが出来ることなんて限られてるけどそれをしてやるのが恩返しみたいなものであり…この先捨てられないための努力でもある。
そして今マイカは宰相兼秘書としてだけでなく、婚約者としてあの三人では出来ない部分を支えようとしてくれている。しかし俺はそれに対して一体何を返してやることができる? ミナやリアと違って立場による重りがあるわけでもなければセリアみたいに本当の家族として、兄として一緒にいてやる必要もない。
「お主はもう普通の人間ではないのじゃからこれからのことを考えたうえでそやつの存在は自分にとって都合が良いのか悪いのか、ずっと一緒にいたいほど好きなのかどうかで決めてしまえばよかろうに。それで相手に結婚してほしいと伝えOKが出ればそれはもう覚悟を決めておるということじゃから、別にお主が何か恩返しをし続けんでも支え続けてくれるじゃろうよ。……だいたいそのような覚悟もない者はわらわ達が絶対に認めんしのう」
「お生憎俺は幼少の頃から王族というものについての教育を受けてきたわけでもなければ、どこぞの頭の中ハッピーセットな物語の主人公と違って『私は貴方さえいてくれればそれでいい』・『私は貴方を支えたいだけだから』とかいうヒロインの言葉を鵜呑みにする程馬鹿じゃないんでな」
「別にもう十分与えてやってるじゃろうに。逆にこれ以上何を与えてやると言うんじゃ?」
だからこうやってどうするか迷ってんじゃねえかよ。
「なんだ坊主、もう嫁さんを増やすのか? 国王とはいえ流石に早すぎだろ。本当に五人だけで済むのかこれ」
「ほほほっ、旦那様は兎も角…残りの二枠を狙っておられる女性は既におられるようですし、案外すぐに五人揃うかもしれませんよ」
その女の子達が俺の考えてる子達と一致しているのならそうかもしれないな。……なんたってこの五人が揃えば俺が求めている都合の良いハーレムは完成するのだから。