第110話:宗司が考える今後の予定
俺とクロエの前に前菜が置かれた後料理の説明をされたが全く意味が分からないので適当に聞き流しているとそれも終わり
「それとソウジ様に関しましてはカトラリーではなくお箸の方を…と事前にセレス様からお聞きしておりましたのでお気になさらずそちらをお使いください」
「わざわざ自分なんかの為にありがとうございます」
そうお礼を言うと店員は一礼してから離れていったためお互い料理を食べ始めながら
「こういうお店ではいつ日本人の方が来られても大丈夫なように予めお箸を用意しているっていう話は聞いたことがありましたけど、あれって本当だったんですね。私お箸を使ってる人なんて初めて見ましたよ」
「ミナがテーブルマナーを教えてくれた時に箸のお願いの仕方も教えてくれてはいたんだけど、先にセレスさんが手を回してくれてたみたいでな。今日家を出る前にそのことを伝えられてメッチャ感謝したわ」
マジであのお爺ちゃん有能。あの人を超える執事は絶対にいないね。
その後も雑談や世間話などが続き、アントレだかなんだか知らないが取り敢えず肉料理が出されそれを食べ始めてから少しするとクロエが少し真面目な顔で
「仕事がなく働きたくとも働けなかった方々のための救済案についての説明は私も直接聞きましたし、素晴らしいと思いました。ですがこの噂を聞きつけた他国の人達が自分もこの国でならという感じで大勢集まってきたらどうなされるおつもりなんですか?」
「まあどう考えても土地や仕事には限りがあるわけで、ましてやむやみやたらに国民を増やし続ければちょっと前の状況に逆戻りだ。じゃあどうするか。一番簡単なのは早い者勝ちで移住してきた人達がこの国での仕事を見つけては就職という自然な流れを続けさせ、浮浪者などが出始めて犯罪者が増え始めたところで大々的に公開処刑を行う。すると『今更あの国に行っても結局仕事が貰えずに待っているのは自分が犯罪者に落ちて処刑されるだけ』という噂が広まり移民は減る。同じ盗人をするなら警備体制が馬鹿みたいにガチガチなうちよりも他の国の方が確実にやりやすいからな」
「ですがそれをしてしまえば今はよくとも数十年後、数百年後、この国に住める人はお金持ちの人だけになってしまいますよ」
今回も怒鳴りだすのかと思いきや意外にもちゃんと落ち着いて自分の意見を言ってきたので俺は自分とクロエのグラスにワインを注いだ後、一口だけ飲んでから
「だからこの方法はナシだ。となればどうするか。俺のおバカな頭で考えられることはマリノ王国みたいなデッカイ国と友好関係を築いて地球の技術を使った施設・店舗等を作り労働者の一点集中を避けるなんだけど、これがそうも簡単にいかないわけですよ。まずそんなことをすれば間違いなく金目的の王貴族共がうちの国にもとなるし、下手をすればそれを国ごと奪おうと戦争が起きる。ということでこの案は没だ。んで次の案として挙げられるのは各国の安定化を実現させる…なんだけど、別に俺はこの世界を征服したわけでもなければそんな面倒なことをするつもりもないのでこれに関してはそれぞれに頑張ってもらうしかない。つまり俺がしてやれるのは出来てこの世界から戦争をなくすことぐらいだ。どのくらいの国がそれをやってるのかとかは知らねえけど」
「………最後なんて言いました?」
「どのくらいの国がそれをやってるのかとかは知らねえけど」
「じゃなくて! その前‼」
「戦争をなくす」
聞かれたから答えてやったいうのにクロエは何も喋らずに数秒ほど固まった後、今までで一番真剣な顔をしながら
「陛下は知らないかもしれませんが過去に呼び出された勇者様のうち何人かは戦争をなくそうとしたそうですが全てが失敗に終わっています。つまり―――」
「つまり、俺も失敗する可能性の方が高いだけでなく、自分が大切に想っている子達を不幸にさせてしまうかもしれないって言いたいんだろ? だがこのまま黙って行動せずにいたとしても遠い未来同じことが起きる。じゃあどうするか? 解決案は全部で二つ。俺がこの世界からいなくなるor戦争をなくす。そして残念なことに前者はもう出来なくなってしまった」
「そうは言っても一体どうやってそれを実現させるつもりなんですか? 少なくとも私が考えられるのは世界征服だけなんですが」
「さあ? そこはこれから頭のいい人達と一緒に考えるんじゃないか。知らないけど」
本当に方法なんてこれっぽちも思いついてないんで本音をそのまんま伝えると今度は呆れたような顔で『そういえば陛下はそういう人でしたね。真面目に聞いた私が馬鹿でした』と言われてしまった。だが彼女的にはそれで納得いったようでこれ以上この話が続くこともなかった。
結局あれから戦争云々の話を振られることはなく他愛もない話をしながら食後のデザート・締めの紅茶へと進み……そろそろ帰ろうかという雰囲気になったので二人並んでレジへと行くとオーナーが対応してくれたので俺はこの前覚えたばかりの小切手を使って支払いを済ませ、挨拶をしてから外に出た。
すると来た時と同じ馬車とティアがいたので俺達はそれに乗り込み、クロエの家へと向かいながら
「こやつは建国宣言の後に行われたパーティーをわらわに押し付けてサボりおったから、テーブルマナーなどが必要になるの場での食事等は今回が初めてじゃったのだがどうじゃった?」
「陛下は魔法を使って二週間で無理やり詰め込んだと言っていましたが、少なくとも私が見ていた限りでは最初から最後まで堂々としていらっしゃって…とても初めてとは思えないほどでしたよ。本当は私がご馳走する予定でしたのに気付いたら逆にご馳走されていたのが癪ですが」
「どうせそれって経費だろ? んなもんで奢られたって嬉しくねし、一応こっちにも立場ってもんがあるんだよ」
しかも俺がクロエに選ばせたワインとか凄い値段だったし。確かに値段は気にしなくていいとは言ったけど、あの爺さん絶対にあの店で上位レベルの物を出してきやがっただろ。
「この前わらわ達とデートした時はあんなに文句を言っておったというのに、クロエ相手には随分とスマートな対応をするんじゃのう」
「俺は日々成長し続ける男だからな。同じ失敗を二度もするわけねえだろ」
「とまあソウジは基本変人じゃがこういう真面目な一面も持ち合わせておるゆえ、今後も何かしらの問題があるかもしれんが出来れば仲良くしてたもう」
そうティアが言い終えたと同時にクロエの家の前に着いたらしく、扉が自動で開いたので俺が先に降りて店の前でやったのと同じように手を差し出すとそれを軽く握ってから馬車を降り
「ご自分がクエストを受けられないことを知っていながらそれを勝手に行った挙句、報酬を寄越せと普通に言ってくるような方の対応を他の先輩方にやらせるわけにもいきませんし、何より陛下自身から嫌いになろうが何だろうが文句があればご自由にどうぞとまで言われましたので……。こんなことをサラッと言えてしまうような方とならこちらからお願いしたいくらいですよ」
「そう思ってくれてるなら引き続き態度で示してくれ。そしてそれを続けている限りはwin-winな関係でいられるだろうよ」
「……やはり気付いてらっしゃっいましたか」
「当たり前だ。俺達とこの国のギルドは仲良しこよし関係の前によくて同盟関係みたいなもの。そしてどこぞの小娘が相手側に喧嘩を売って帰ってきた挙句そっちの勘違いだったともなればご機嫌取りをするのは当然の流れ。まあ俺が超絶心優しいということを知っていたおばちゃんはこのことに関してあんまり重要視してなかったみたいだけどな」
「お主の場合立場など一切気にせず全ての者から意見を聞こうとしおるからのう。この前のひな祭りの時じゃって孤児院に寄せられた意見全てに答えておったし」
多分おばちゃんがクロエをすぐに謝りにこさせなかったのは俺の情報を集めてから対策を練るためだったんだろうけど、そう考えればあれはタイミングが良かったな。
「確かに今回は陛下のご機嫌取りという理由もありましたが…今日は本当に楽しかったですし、これからも仲良くさせていただきたいというのは本当ですので……」
「んなこと言われなくても分かってるし、俺も何だかんだで楽しかったからもう気にすんな。それより何時までもそんな恰好で外にいると風邪ひくぞ」
もう三月とはいえ夜はまだまだ冷えるのに加えクロエはドレスを着ているためそう言ってやると、どこか嬉しそうな顔でお礼と別れの挨拶を言い、家…というか多分ギルド職員用の寮へと入っていった。