第104話:強者達によるお見舞い
お母さんが俺の髪の毛を整えたついでに冷え○タを貼りかえてくれた後、布団を目元まで引っ張り上げ
「さっきのことは絶対に誰にも言うなよ」
「さっきのことってどれのことよ。熱や空腹で頭が上手く働いていないのは分かるけど、もう少し詳しく喋ってくれないかしら」
「………泣きながら謝ったこと」
お母さんの言う通り確かに体調不良のせいで頭が上手く働いていない気もするが、あの件に関しては恥ずかしいという感情がちゃんと働いていたため小声でそう言ってしまったのだが…それでもちゃんと聞き取ってくれたらしく
「はいはい、誰にも言わないから取り敢えずその布団を顔に掛けるの止めなさい。たでさえソウジは表情に出さないようにして無理することがあるのに、そんなことしたら尚更分かりにくくなるでしょうが」
「ううん~、いーやーだ! そもそも俺は人に寝顔を見られるのが嫌いなの」
「嫌じゃなくて大人しく言うことを聞きなさい。……こう考えるとミナって結構手が掛からなかったわね。逆にあれで大丈夫だったのかしら?」
ちょっ、力強くない? って今の俺は体が小さくなってるんだった。ティアのやつ、本来の仕事は一切しないくせに余計なことばっかりしやがって。
それから数秒後……
いくら女性とはいえ相手は大人、それに対してこっちは子供の姿ともなれば力勝負で勝てるはずもなく一瞬で布団を持っていかれいてしまった挙句ちゃんと掛け直されてしまい、もう一度同じことをやって駄々を捏ねるわけにもいかなくなった俺は暇つぶしに
「……ミナのことだけど、別にお母さんの教育は間違っていなかったと思うぞ。まああの子が普通の家庭の子供なら厳しすぎるとは思うけど」
「子供が何偉そうに親としての教育について語ってんのよ。ソウジはまだまだ私達に教育される側でしょうに」
「確かにお母さん達から見れば俺は子供だけど、これでも一般人から見れば十分大人なもんでね。それに最近は―――」
これからが重要な話だったのだが、誰かがこの部屋の扉を申し訳程度にノックしたかと思えばそのまま見覚えのある十人が一斉に雪崩れ込んできた。そしてそれを見たお母さんは、あちゃ~みたいなリアクションをしながら
「なんで貴方達が来るのよ。というかどうやって来たわけ?」
「なんでですか? そんなの旦那様に昨日の件についてのお礼とお見舞いに決まってるじゃないですか。それとこの後も何回かに分けてうちのメイドがこちらに来ると思いますよ。みんな旦那様にはとても感謝していますからね」
マリノ王国の宮殿で働いているメイドさんに感謝されるようなことをした覚えは全くないけど、そこまでお礼を言いたいなら取り敢えず俺に何か食い物をくれ。
「ちなみに私達はたまたまキッチンで仕事をしていたらメイド長の所にお兄ちゃんが来て、ソウジ様が目を覚ましたという何だか不穏な話が聞こえてきたので無理やり問い詰めて…そのまま連れてきてもらいました! あっ、これ私が剥いたリンゴですけど良かったらどうぞ」
「えっ、マジで? ありが―――」
「今のソウジは昨日の朝ご飯から何も食べてないどころか、水分すらまともに取ってないんだからそのまま食べたら最悪吐くわよ」
おいー! 人がありがたく皿を受け取ろうとしてるのに没収はないだろ。この人人間の血じゃなくて悪魔の血でも流れてんじゃねえのか?
「あっ、それでしたら私すりおろし器を持ってきましたのですりおろしリンゴにしましょうか?」
そんな天使の一言を聞いた瞬間俺はお母さんに向かって、あのリンゴを食わせてくれなきゃ一生恨むぞと言わんばかりの視線を送ると
「はぁ、じゃあお願いしてもいいかしら? あと誰かキッチンに行ってお湯とシナモン、それから底が深い皿と子供用のスプーンを貰ってきてくれる」
「それならリアーヌ先輩が持たせてくれましたよ。凄く不満そうでしたけど」
「そりゃあソウジ陛下のお昼ご飯を作ろうとしてたところにいきなり私達が押しかけてきた挙句、イリーナがリアーヌに向かって自慢げに『ソウジ様にリンゴを剥いてきたんだけど、念のためにお湯とシナモン頂戴』なんて言い出したら不機嫌にもなるでしょ。しかもワザと宮殿のキッチンから持ってきたすりおろし器を見せびらかしている子もいたし」
昨日のお礼をしにきたっていう要件に加えてそこまでされたら流石のリアでも断れないだろ。こいつら可愛い顔して結構エグいな。あの宮殿にいる人達は何かしらの理由で全員長命種らしいし、リアとの付き合いが長いからこそ出来る技なんだろうけど。
「ほら、本当は水分補給も兼ねるためにくず湯にして飲むのだけど…それだと文句を言いそうだからお湯は少なめにしといたわよ」
「………いただきます」
「ソウジ様のあの顔は図星だったみたいだね。可愛い~♡」
君達兄妹は人のことを子供扱いしないと済まない病気にでもかかってるのか? 言っておくけど今お前が撫でてる頭はこの国で一番偉い人間の頭だからな。
「おい妹、用が済んだのならさっさと帰れ」
「妹じゃなくてお姉ちゃんでしょ、ソウジ様。それとまだお礼を言えてないのに無理やり帰らせようとしないでくださいよ」
「ソウジの姉を名乗る割には様付けだったり、ため口を使ったと思ったら敬語に戻ったりと統一性がある分アベルの方がマシな気がするのは私だけかしら?」
「知らん。あとおかわり」
体が小さくなっているお陰で食べられる量が減っているとはいえ、渡された量が少なかったため空になった皿をお母さんに差し出そうとしたら何故か他のメイドさんが同じ物を作ってくれて
「はい、どうぞ旦那様」
「……ありがとうございます」
未だによく分からないのだが取り敢えずお礼を言いながら皿を受け取ると、その子が自分の周りにメイドさんに向かって
「旦那様って下心とかなしに自然とお礼やお褒めの言葉をくださるからいいよね~」
「それに私達メイドと接する時ですらご自分と同じ立場かそれ以上の扱いをしてくださるからこっちもモチベーションが上がるっていうか、この人の為ならもっとお世話してあげたいってなりますよね」
「まあそんな人だからお兄ちゃんも気に入ってるんだろうけど。あのクソ貴族共も少しは見習ってほしいよね。二人はそれで自爆していったけど」
ん? ちょっと今気になるワードがあったぞ。
「それで、私達の子供を虐めてくれたあの馬鹿二人は今どんな感じなのかしら? 昨日の夜から色んな層からの批判が続いていたり、それの対応に私の旦那やレオンが追われているみたいだったけど」
「私も自分の仕事しながらだったので確実ではないですけど、このままいけばもうあの国にはいられないでしょうね。なんたって他国の王様、それもミナ様の婚約相手であり超危険人物認定されているソウジ様を怒らせただけでなく土下座までさせたんですから」
おい、なんだその超危険人物認定って。それ絶対にブラックリストのことだろ。
「それにお互いの国で今回のことは周知の事実ですし、何よりヴァイスシュタイン王国に住んでいる多くの方々が旦那様を支持しているだけでなく、私達を含めマリノ王国でもかなりの支持率があります。そんな状況下であの二人を庇うような馬鹿は流石にいなかったようですね」
「それとソウジ陛下のことを嘲笑ったり、ニヤニヤしてた奴らに関してですが、全てバッチリ映っていたようであの二人程ではないですけど風当たりは大分強いので当分は大人しくしているかと」
「当分っていうか、ソウジ様が生きている限りはずっと大人しくしてるんじゃない? 私が会議室にお茶を持って行った時なんて陛下が見たことない程怖い顔して怒ってた…と言うよりも怒鳴ってたし」
「そりゃああの人でも怒るでしょうね。なんたってこの世界で今一番危険な存在だと一部で囁かれているこの子にあそこまでさせたんだから。というか今回は先にミナがソウジと婚約してたからよかったけれどそれがなかったら国内で責任問題に発展したか……」
何故かそこで言葉を切ったお母さんはこちらを見てきたので一旦食べるのをやめ
「なんでそこで止めるんだよ。そういうことされると余計気になるだろうが」
「………問題を揉み消すためにお詫びとして自分の娘を、つまりはミナを手土産にあの人がマリノを代表してソウジの所へ謝罪しに行ってたでしょうね。じゃないと周りが五月蠅いでしょうし」
その言葉を聞いた瞬間既にミナが自分の婚約者なのも忘れ、皿をナイトテーブルに叩き付けると同時に部屋を飛び出して玄関に向かって裸足で走り出していた。
貴族様ってのは随分と面白いことを言うじゃねえか。そんなのは俺がどっちの立場でも絶対にお断りだってことを言葉じゃなく体に教え込んでやるよ。
そんなことを考えながらこっそり自分の部屋のクローゼット内に作っておいた隠し武器庫からムラサメを左手に呼び出し、それを握りしめたと同時に玄関前へと辿り着いたまではよかったのだが……玄関扉の前でイリーナが両手を広げて通せんぼをしており
「はい、ここは行き止まりで~す♪ ということでベッドに戻りますよ、ソウジ様」
「邪魔だどけ‼」
たたでさえ熱で頭がおかしくなっているのに加えて頭に血が上っている俺は無意識に殺気の籠った怒鳴り声を上げながらムラサメを抜こうとした瞬間
「そんなものを無闇に振り回したら危ないですよ、旦那様。ということでこれは没収で…って、なんですかこの化け物スペックな武器は⁉」
「なになに、どんな武器なの? 私陛下がどんな武器を使ってるのか凄く気になるんだけど」
………おいおい、嘘だろ?