第99話:神か悪魔か死神か
それから少しするとブノワの親父とレオンの親父が自国の貴族様方を迎えに行くと言い出したので着替えを理由に全てをアベルに任せ、着替えた後の最終確認をお願いしていたセレスさんに苦笑いされながらも時間ギリギリまでゆっくりと着替えた挙句直接訓練場の王族席へと転移したのだが、先に来ていたミナ・リア・セリアの3人は物凄く上機嫌だったため怒られずに済んだ。
その代わりに親父二人とミナの護衛で来ているアベルには滅茶苦茶文句を言われた。ちなみに今日は結構真面目な日なのでティアも俺の護衛としてついてきているし、一応セリアにはセレスさんを、リアにはエメさんをつけている。
二人が世話していたお姫様は表向きには死んだことになっているとはいえ実際は生きているわけだし、何よりその子が婚約発表するというのだからそれを一番近くで見せてあげても罰は当たらないだろう。
そしてここにはいないマイカ達五人は俺達の向かい側にある身内用のVIP席に、あとついでにマリノ王国の貴族様方はその隣にあるVIP席にいるのだが、マイカ達には危ないから誰かが来ても絶対に扉を開けるなと注意しておいた。
特に隣にいる奴らに関しては一切信用していないので何か外に出る用事が出来たなら俺かティアに連絡してくれれば直接転移して迎えに行くとも伝えてある。
また王族席、VIP席ともに地上ではなく野球場にあるVIP席と同じような場所にあるので直接攻撃をするのが困難なのは勿論のこと、王族席以外は前面が魔法で魔改造されたガラス張りになっているので無駄でしかないどころかただの自爆である。
まあ王族席に関してはそこにいる人間がありがた~いお話をしなきゃいけない場合があるせいで前面のガラスがないことが殆どだけど。
さて、なんで俺がこんなにも長い解説みたいなことをしていたかというと……
「であるからして、この国の繁栄と安全を―――」
ブノワの親父の話が朝礼時の校長もビックリするレベルで長いのだ。
あ~、飽きたを通り越して疲れてきた。よくみんなはこんなクッソ長い話をお行儀よく聞いてられるな。俺もさっきから前面に張られてるガラスをフェイクモードにしてお茶してるマイカ達に混ざりたいんだけど。
ちなみにフェイクモードとはその機能を使えば中でどんなことをしていても一部の許可された者以外は見ることが出来ないだけでなく、中にいる奴が指定したシュチュを超高性能立体映像で流し続けるので絶対にバレることはない。
それに加えあれには魔法と科学を合わせて作ったスーパーAIが使われているので何か想定外のことがあっても自動でそれっぽい動きをしてくれるのでやろうと思えば騎士団の訓練中にA○でよくあるマジ○クミラー号みたいなことも余裕で出来る。
………お行儀よく座ってるの疲れてきた、足組てえ。 つか、頬杖ついていい?
などと考えながらコッソリと頬杖をつこうとした瞬間
(ソウジ様にとっては退屈で仕方ないのは分かりますが自分達が暮らしている国の王や、それと密接な関係を持っている他国の王からのお言葉というものは国民からしたらとてもありがたいものなのでもう少しだけ我慢してください)
(なんだその胡散臭い宗教みたいな考え方は。俺なら金を払ってでも聞きたくないぞ)
(まあ現代日本ならばそうなるのじゃろうが、この世界では王=神みたなところがあるからのう。まあそれも王自身の人柄によって国民の考え方も変わってくるが)
ふ~ん。つまり百年以上国王をやってるブノワの親父はそれだけ自国民からの支持があるわけで、その噂は他の国にも伝わっているはずだから…普通の人間(寿命的に)からすればもはや神すら越えた何かからのお言葉を聞いてる感覚か。
ソウジ神は道端でいきなり店の看板娘を名乗る奴に客引きされた挙句サラッと一緒に飯を食っただけでなく交渉までされたり、サインを求められたりしたけどな。随分と安い神もいたもんだぜ。
その後も長々とありがた~いお話が続き、マジでそろそろ俺も魔法を使ってお茶でもしようかと思い始めた頃、ようやく終わったかと思えばいきなり新国王として挨拶をしろと言われた。
さて、どうせ挨拶なんて考えた所で少し前まで普通の大学生をしていた奴のものなど高が知れているということで一切考えていない俺はこの後なんと言うでしょうか?
正解は……
「これからこの国、ヴァイスシュタイン王国の国王として頑張ります。以上」
「「「「「「………………」」」」」」
沈黙。ただただ沈黙。俺と一緒に王族席にいる奴らは勿論のこと、観客席にいる国民達も全員沈黙。………やっぱこれだけじゃ駄目か。
「というのは嘘でして、私みたいな若輩者はやはり皆様に行動でこちら側の考えを示すのが一番かと思いますので早速いくつかそれをやっていきたいと思います」
ということで俺は指を一度鳴らし、観客用にいくつか設置していた大型モニターに家庭用台所・T○T○の最新型トイレを映し出し
「私がこの国の王になったからには出来る限り皆様の安全を確保したいと考えておりして、それを実現する為の方法としてまず一つ目にご用意したのがこちらです」
それから俺は大型モニターを使って水道の使い方やそれを今から全ての家・店舗に設置することを説明したり、会議で話し合った額でのお金の配布をその場で終わらせ、最後に一年間の税金の免除を伝えると
「「「「「「うおおおおお‼‼‼‼‼‼」」」」」」
ソウジ神が今日ここに爆誕したと言わんばかりの歓声が上がった。
ちょろいなこいつら。
(どうせお主のことじゃから『ちょろいなこいつら』とか思っておるんじゃろうが、王という者はそれだけ途轍もない権力と影響力を持っておるということを忘れるでないぞ。それの使い方を間違えれば大事故にも簡単に繋がりおる。現に今も浮かれすぎて少々危ない気配が漂い始めてきておるしのう)
(はいはい、分かってますよ)
俺が上げるだけ上げてそのまんま、なんて甘い考えなわけないだろうが。今日まで短い期間とはいえミナとティアの二人には王としてのいろはを叩き込まれたからな。
ということで今度は何もない訓練用スペースをモニターに映し出した後俺はそちらへと転移し
「さて、先程も言いました通り私は出来る限り国民の皆様の安全を守りたいと思っております。ですのでここからは公開処刑のお時間とさせていただきます」
そう言い終えた直後に再び自分の指を鳴らし、今まで魔法でみんなには見えないようにしていた死刑確定済みの者が5人、そしてこの式典中に何かしらの問題を起こして牢屋に自動転送された者が20人。合計25人が姿を現し、そしてモニターへと映し出された。
その瞬間さっきまでのお祭り騒ぎはどこへやら。動揺し始める者もいれば、自分の知り合いでもいたのか泣き叫ぶ者、正義心からか怒声を飛ばす者と色々である。
だがそんなもの今の俺にはなんの関係もない。何故なら俺はもう白崎宗司ではなく、ソウジ・ヴァイスシュタインなのだから。
「はい、ではまずこちらの金属の棒に両腕、両足を結ばれている5人ですが…右からレイプ未遂、レイプ未遂、金目当ての殺人未遂、子供の誘拐未遂、あと残りの10人は国王(予定)を殺そうととした元騎士団の連中。とまあこの10人が昨日までに事件を起こそうとしたところをうちの警備部が捕まえた連中であり、死刑囚です」
そんな軽い感じで紹介を終えた後俺は武器庫からムラマサを出し、なんの前振りもなく順番に首を斬り落としていった。
そのせいで更に客席が荒れているようだが今の俺は耳が聞こえないのでそれらを全て無視し、今度は牢屋へと近づき
「ん~、じゃあまずはお前」
適当に中にいた一人を魔法で一切動けないようにしてから外に出し
「お前は一体何をしようとしたんだ?」
『べっ、別に俺は何もしてないぞ! お前が勝手にあんな所に入れただけだろ!』
「はい、嘘。んで本当は?」
などと聞いたところで正直に答えるはずもないので俺は死刑囚候補の男に向かって右手を翳し、自白魔法をかけると虚ろな目をしながら
『人が多く集まる今日を狙って仲間と小さい子供を攫いにきた。攫った子供は全員金持ちの変態とかに売るつもりだったし、既に買い手はついていた』
「なるほどね~。ちなみに残りはどいつだ? あとそれは全員いるのか?」
それからも幾つか質問をし、聞きたいことは全て聞き終わったので魔法を解いてやると
『はっ⁉ 俺は今まで何を?』
『なんで知らない間に全部喋らされてるんだよ‼』
『あっ、悪魔だ‼ こいつは絶対に悪魔だ○※△□※△○※‼⁉⁉‼‼⁉』
などなど皆さん言いたい放題である。
まあ確かにこいつらから見れば俺は悪魔か死神みたいなもんだけど……。