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どこかの上空 :フリーフォール中

1話完結です。

ヒュオオオオオオオオオオオオオオ


バタバタと服が下から突き上げるような風で揺れる。眼前には見たこともないような広々とした世界が広がっているし、空に浮かぶ日に手が今までで一番届きそうに近い。絶え間なく続く浮遊感に若干の吐き気を覚えながら数十秒……彼らは落ちていた。赤髪の少年は吐き気に耐えながら大の字で落下し、黒髪の少年は自由落下に任せて落下している。


「なんでこんなことになったんだっけ」


黒髪の少年、ウツワが言う。


「それは……」


赤髪の少年、ドロは口ごもる。


ドロとウツワの移動手段はドロの持っているピョットビ石というへんてこな名前の石でしている。投げてキャッチするとワープが出来るという凄い石だが若干の使いづらさと制約があった。投げた回数で距離が変わる石、ワープする場所が固定の石等々あるが今回ドロ達が使った石は、投げて掴むまでの高さでワープする場所がランダムに決まるという代物だった。

宝を盗み家々の屋根を飛び移り逃げる道中ドロが使おうとピョットビ石を投げて掴む瞬間、屋根伝いに走るドロ達を目掛けて撃ったその国の兵の銃弾が石を掠めた。石が壊れはしなかったが掠めたことでドロの手には落ちなかった。慌てたドロはそのまま地面に落ちそうになったすんでのところでキャッチし事なきを得たのだがワープ場所が空だった。


「空は飛びたいとは言ったけど落ちたいとは言ってないよ」


くるくると前転するように空中で回りながらウツワは言う。


「分かってるよ!悪かった!」


半ば叫ぶようにドロは言う。


実際問題ドロ達は絶対絶命の状態に陥っていた。ピョットビ石は投げて使う物だが投げたら一緒に落下するので掴めるかが怪しい。素早くキャッチしなければ今度は深い深い海の底にワープなんてこともあり得る。

ピョットビ石を使わなければこのまま落下死。見事なまでの自滅、ということになる。ドロは先程盗んだ金貨を指で軽く飛ばすが金貨と自分の距離が縮まらずとてもじゃないがキャッチが出来ない。


「案外落ちるのも悪くないね。これはこれで面白いや」


そんなドロとは対称的にウツワはこの状況を楽しんでいた。


「呑気なこと言ってないで何か考えてくれ!!このままじゃぺちゃんこだぞ!」


「違うよ僕の場合は、ぺしゃんこじゃなくてグシャグシャだよ。ん?ロボットだからバラバラ?まあどっちにしろガラクタだね」


「グシャグシャでもバラバラでもいいから!このままじゃ本当になる!」


ドロが叫ぶと「あれ?」とウツワは回転するのを止め一方向を見据える。


「ドロ、あれ鳥かな?こんな高さにもいるんだ」


ウツワが指さす方向をドロも見ると確かに鳥の影が見える。


「いやだからってどうするんだよ。鳥だぞ。別に今の状況を打破する程のことじゃないだろ」


「でもこっちに近づいてくるよ」


鳥の方向を見ると確かに鳥がドロ達の方に飛んできている。じっと見ていると何かおかしい気がしてドロはピョットビ石を出す。


「ウツワ、あれ鳥は鳥だけど」


「大きいね。僕らくらいなら丸々飲み込めそう」


「怖っ!いやヤバイだろ!一か八かピョットビ石投げるから掴むぞ!」


「いやでも鳥って光る物とらないっけ」


ウツワが言い終わる頃にはドロはもう石を投げていた。


「あ」


「あ」


巨大な鳥が石を嘴で咥えるとグニャンと鳥を中心に歪み石だけが残され巨大な鳥が掻き消えた。その直後遥か上空から焼け焦げた何かが遠くに落下しているのが見え2人は沈黙する。


「石には触らない方向で」


「うん」


落ちるものが1つ増えただけで事態が好転した訳ではなくただ地面だけが近づいてくる。


「いや待て!このまま死ぬのは困る!ただの好奇心で投げた石で自滅だなんて冗談じゃない!」


「これからは細心の注意を払うかい?」


ウツワがじっとドロを見て言う。


「当たり前だろ!こんなことになってんだから!」


「よろしい」


ふふんとウツワは得意げに笑うとドロの腕を掴み片手に短槍を持つ。


「短槍で何するんだ?」


「こうするんだよ」


ウツワはそう言うと短槍を地面に向ける。すると短槍の先端から透明な刃が飛び出しみるみると長くなっていきついには地面に刺さった。ガクンと地面に短槍が刺さったことで2人の体が止まる。


「生きてるよ」


「うぷ、本当だ」


短槍が元の長さに戻り地面に2人が降り立つ。ドロは青ざめて今にも吐きそうな顔をしているがウツワはぴんぴんしている。


「どうしてこんな方法があったのに教えてくれなかったんだよ」


「ほら好奇心は猫を殺すって言うじゃない。ドロにはその教訓が必要かなと」


ウツワは肩を竦めて苦笑する。ドロはいじけたようにじっと睨むと観念したようにウツワは話す。


「魔ペットにも言われたんだよ。このままじゃどうでもいいところでご主人様が死んでしまうって。だからその教訓になるような事をしてほしいってさ。そう言われて丁度よく今回の事があったから身に沁みるかなって思ったんだ」


「そうかよ」


「だって約束を果たすまで死ねないでしょ?」


「当たり前だ」


「じゃあこれからは」


「注意する」


「素晴らしい」


わざとらしくウツワは拍手し笑う。ドロは、はあっとため息を吐いて頭を掻いた。


「じゃあ気をとりなおして行くか」


「その前に石を回収だね」


ウツワは自分達より先に落ちたピョットビ石を拾い上げドロに手渡す。


「大事な物だよね」


「ああ、メリンが作った物だからな」


ドロは背中に手を回しポンポンと叩くと魔ペットの口の中に石をしまった。


「今度こそ行くか」


「うん、ここどこだろうね」


「さっぱりだ」


「次は町かな国かな」


「魔ペットに入れた財宝も換金したいからどちらかといえば国がいいな」


「そうだといいね」


「ああ」


2人は話しながら次の目的地を目指す。好奇心に負けないように。


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