港町 アブド 2:変わったゴブリン
続きです。
「死ぬかと思った。弩砲はなんとなく見えるのになんで板は透明なんだ」
「いやー!弩砲は飛ばすだけだから別にいいですけど板は万が一のために強度を上げているんです」
「そ、そうなのか……」
ペンルトは納得したようなしていないような返事を返しながら安全だったとしてももう乗りたくないなと思った。町の広場には突如として空から飛んできたドロ達のせいで人がちらほらと集まってきていた。
「まあ、無事着いたからいいだろ?ほら飛んできた騒ぎで村長も来たし」
集まってきた人達の中から急いでこちらに向かってくる人影がある。村長だ。
「おお、お早いお帰りでしたな。駄目でしたか?」
と村長が開口一番そう言った。
「そんな訳ないだろ、ちゃんと討伐の証として角と牙とってきたぞ」
ドロはそう言って布袋に入った大量の爪と牙を見せる。
「な、なんと!逃げ帰ってくるだろうと送り出したのにまさか本当に討伐するとは!いやはやありがたい!ん?おやペンルトも一緒にいたのか?」
「助けてもらったんだ。見事2人で退治していた」
「そうかそうか。一番困っていたのはペンルトだったな。これでゴブリンもいなくなるといいが」
「話の途中に悪いんだけどここのゴブリンは皆あの色をしているのか?」
ドロが真剣な表情で問いかける。答えたのはペンルトだった。
「ああ、赤だったよ。他の色は見てない。一番この町で森に行っている俺が見ていないのだからまず町の者はゴブリン自体あまり見ていないだろう」
「そうか……」
ドロは真剣な表情から難しそうな顔をして黙りこむ。
「どうかなさいましたかな?」
「……いやなんでもない。明日また森を見に行くよ。流石にあれだけの数のはずがない」
「まだいるのですか!?」
村長は驚き広場にいた町人達はざわざわと不安そうに声を上げる。
「……あれくらいなら何匹いても大丈夫だ。だから今日はまず休ませてくれ」
「おお、そうですな。じゃあ宿はどこに……」
「んーどうするか。ウツワは?」
「僕はどこでも大丈夫だよ」
「そっか、じゃあ適当に……」
「ドロ君、ウツワ君良かったら家に泊まらないか?」
ドロとウツワはその提案に目を瞬くと笑い
「助かる」「よろしくお願いします」
と2人は同時に言った。
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「ここは自由に使っていい部屋だ。2人とも同じ部屋じゃない方がいいか?」
「いや、いい。明日の作戦会議もあるからここで大丈夫だ。ありがとうな、ペンルト」
ペンルトに案内されドロとウツワが入って来たのはペンルトの家の2階、広場が一望できる広い部屋だった。白い壁に簡素な藁ベッドが2つ敷かれ慌ただしく整えたといった体だ。
「すまないな。家に泊まらないかと言ったくせにこんな粗末な部屋で」
「いやいいんだ、これくらいがちょうどいい」
「うん、ただの床じゃないから全然助かります。雨の野宿よりはね」
最初の言葉はペンルトに最後の言葉はドロに向けられたものだった。
「しょうがねえだろ、寝具類が全部あの時はずぶ濡れで魔ペットも乾かすのにどれほど大変だったか。覚えてるだろ?」
苦々しい表情でドロは言う。
「まあね、飛んだ先が海なんて本当にびっくりしたよ。錆びるかと思った」
ペンルトにはあまり想像のできない話が飛び交い首を傾げる。
魔ペットってなんだ?錆びるって鉄じゃああるまいし。
「それで?ゴブリンについて聞いた時、何を考えていたんだい?」
「いや、ゴブリンって赤かったかなと、そう思ってな。ちょっと気になったんだ」
「ゴブリンってお話でしか知らないから今日見たゴブリンは新鮮だったなあ。一応ゴブリンって緑色してるんだよね?」
「そこなんだ、赤いゴブリンは聞いたことがない。それに見たのも初めてだ。明日は森をしっかり散策しないと駄目そうだな。ペンルト案内頼めるか?」
「私で良ければ」
「よっしゃ、じゃあ明日また飛んでいくから物は最小限に持ってくれ」
「了解〜」
「ま、また飛ぶのか?」
ペンルトは嫌な顔を隠さずに言う。
「当たり前だろ?俺とウツワなら最悪半日もかからないで行けるけどペンルトもってなると1日はかかる。早く付ける方法があるなら早い方がいいだろ?だから今日はさっさと寝て明日に備える。飛ぶのは決定事項だからな」
「そんな」
「ほら、ペンルトは案内役なんだ。森で何かあった時にへばられたら困る。今の内に休んでてくれ」
「分かったよ。私は1階にいるから何か入用だったら言ってくれ」
「分かった、その時は言うよ」
「そうか、じゃあ、明日はよろしく」
「ああ」「はい」
ペンルトが扉を閉め部屋から出る。部屋から出るのをすぐさま扉まで近づきドロは1階に降りるのを確認する。それにはウツワは怪訝な顔をしてドロを見つめる。
「何してるの?ドロ?」
「ん?ああちょっとな。ウツワには言っとく。実は………」
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結局2人はすぐに寝てしまったようであの後降りてくることはなかった。だが村の方では何か騒ぎがあったようだ。騒がしかったようだが余程疲れていたのかその騒ぎに私は気づかなかった。それにはドロ君は呆れた表情をしていたがウツワ君はなんだか悲しそうな表情をしていた。ただそれに気づいたドロ君がウツワくんの腹を小突いたのでウツワ君は自分の表情に気づいたのか少し強張ったように笑顔になった。何故そのような顔をするのか気になったが聞いてはいけないような気がして何も言えなかった。その後弩砲に乗って飛んでいくまで会話はなかった。
「ここらへんだな最初にゴブリンを見たのは」
ペンルトがドロとウツワを連れて来たのは少し開けた森の中だった。そこかしこに切り株がありどちらかといえば森なのに寂しい雰囲気のする場所だった。木漏れ日は多くて明るいのにまるで夜の森にいるような静けさが漂っていた。
「ここらへん動物がいないね。鳥の声がしない」
「ゴブリンに食われたんだろ。お、見つけた」
ドロが草むらに走り出す。飛び出してきたのは1匹の赤いゴブリンだった。ゴブリンは覆いかぶさるように飛びかかるがドロはゴブリンの片腕を掴むと近くにあった木に思い切り叩き付けた。ぐえっという声とともにゴブリンはピクリとも動かなくなる。
「よし!まずは1匹」
「もうちょっとやり方なんとかならない?結構グロいよ」
「身の回りの物を使って戦う。これ大事だぞ」
「はいはい」
「お、終わったのか?」
ゴブリンを見るやすぐさま木の陰に隠れていたペンルトは顔を出して聞く。その様子にドロは少し笑いウツワもつられて笑う。
「笑うことないだろう。で、終わったのか?どうなんだ?」
「あはは、いや悪い。終わったって言いたいけど今ので来たみたいだ」
そこら中からガサガサと音がし続々とゴブリンが姿を表した。木の上からウツワに奇襲をかけたゴブリンはウツワに届くすんでのところでもがくように苦しむと口から泡を吹いて倒れた。ドロはウツワを見て嫌そうな顔をする。
「なーにがやり方なんとかならないか、だ。ウツワの方がよっぽどえげつないぞ」
「苦しまないようにってなるとこれが一番かなって」
ウツワは肩をすくめ次々と襲いかかるゴブリンを淡々と相手する。ドロは「なんかずれてる気がするんだよなあ」と言いながら1匹のゴブリンを掴むと寄ってくるゴブリン達に向かって叩きつける。
「ほい次」
掴んだゴブリンが動かなくなると次の近くにいるゴブリンを掴み同じように叩きつけ振り回す。一方では泡を吹きバタバタと倒れ、一方では掴んでは叩きつけられ、残されたゴブリン達は後ずさりぎゃっぎゃっと鳴く。
「1匹以外はここで潰すぞ」
「了解」
ドロは持ちやすい木の棒を手にとり、ウツワは何処から取り出したのか銀色の先端のない短槍を片手に持つ。
そこからはゴブリン達の悲鳴が響き、あっという間にゴブリン達は倒された。
「後はお前だけだ。さあどうする?」
木の棒で軽く肩をポンポンと叩きニッとドロは笑う。最後に残ったゴブリンはぎぇっぎぇっと鳴くと一目散に逃げ出した。
「追うぞ。この先にゴブリン達の巣があるはずだ。追跡は…」
「できるよ」
「よし。行くぞ」
ドロとウツワは走り出す。がドロは「忘れてた」と踵を返し木陰に未だ隠れているペンルトの元に走る。
「ペンルト行くぞ。後は巣に行くだけだ」
「わ、私はいい。2人でいってくれ」
「ここにいるとまた襲われるかもしれないぞ」
「うっ、わ分かった!行くよ」
ドロはそう言ったペンルトを見て首を傾げた。
「?どうかしたかい?ドロ君」
「いやなんでもない。案内はウツワがしてくれるからしっかり着いてきてくれ」
「ああ分かった」
ペンルトは恐怖で硬直した体を深呼吸で落ち着かせる。
「行こう」
「合わせて走るからそんな心配するな」
そう言ってペンルトの肩をポンポンと叩くとドロは遠くで立ち止まるウツワに向かって走り出す。ペンルトも「年下に励まされるとは」と小声で言い苦笑するとドロ達を追いかけた。