港町 アブド 1:討伐依頼
1つ目の町です。国巡りって書いたのに国じゃありませんね。すいません。
ちょっとした小話風なのも混じります。
ドロボウ、全てを盗み、攫い、奪う者達の総称。ある時は宝を盗み、ある時は攫い、ある時は命を奪う。自由気ままで奔放。誰にも縛られず捕らわれず掴めない。いつ現れいつ消えたか、いつ消えていつ現れたか、誰も知らず知ることもない。結局の所簡単に簡潔に言ってしまえばドロボウはそう……悪い奴らだ。
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「ふわああああああああああああああああああああああああああああ!なんでなんでなんで!こっちにくるなああああああああああああああああああああ!」
港町アブド
静かな潮騒が耳を優しく撫で森と海が両立する小さな町。ゆるやかな時間を豊かな自然と町と共に。
町のキャッチフレーズに息を切らしながら舌打ちをする。何がゆるやかな時間だ。こんなのこんなの。
「全然ゆるやかじゃねえーーーーーーーーーー!」
叫ぶ青年の後ろにはぎゃっぎゃっとぎゅっと絞りだすような声を上げる赤い小人達。頭には2本の角を生やし耳まで裂けた口からは腐ったゴミの匂い、黒々とした目。赤いゴブリン達は手に手に木で出来た棍棒を掲げ青年を追っている。
森に、つい最近ゴブリン達が住み着きゆるやかな時間を過ごすどころではない。町にはゴブリンを倒せるような者はいないし、そもそも森に行く者など町の中でも数える程しかいない。何度も村長に討伐を依頼してもらっているが他の町まで何日もかかるこんな辺境な村にゴブリンを討伐しようという酔狂な人物はそうそういなかった。
森に近づかなければいいが青年、ペンルトは木こりで生計をたてていた。お金を稼ぐには毎日森に向かわなければならなかった。森に行けば毎度の如くゴブリンに見つかり、追われる。ペンルトは毎日毎日追われ疲れ果てて家に帰っていた。
だが今日は違う。ゴブリン達は日に日に学習し朝襲っていたのに夜襲うようになり夜襲うようになったら次は木を切っている間にひょっこりと現れは消え現れは消えを繰り返すようになっていた。ゴブリン達は日に日に学習し今日ついに成果が出ようとしていた。青年は毎日馬車を使っている。馬車の馬はゴブリン達にも恐れず木こりの青年が戻るまで静かに待っていたが、今回は馬車を壊され馬はゴブリンに襲われ死んでしまったのか上手く逃げられたのかいなくなっていた。ゆえに青年は全力で走って帰路についているのである。後ろにはゴブリンを引き連れて。
「も、もう無理だ!馬車でやっとなのに!こんな距離走ってじゃ無理だよ!ぐあっ!」
ゴブリンの手に持っていた木の棍棒で殴られ青年は走っていた速度のまま地面を転がる。青年の目には数十のゴブリンの群れが黒々と血走った目を向け口からは涎を垂らしている。先頭を走っていたゴブリンが一歩近づき喜ぶようにぎゃっぎゃっと鳴き棍棒を掲げる。必死にペンルトは後ろに下がろうとするが幾つもの黒い目に凝視され動けない。喜ぶのに飽きたのかゴブリンはペンルトに近づき棍棒を振り下ろす体勢に入った。
「死んだ」
ぎゅっとペンルトは目を瞑るとぎゃあっぎゃえっとゴブリンの悲鳴のような鳴き声が聞こえるだけで棍棒は頭には振り下ろされない。恐る恐る目を開くと何十もいたゴブリンは全て倒れ中心には2人の少年が立っていた。
「よし、討伐終了」
「これで終わり?」
「これ以外にも森にいそうだけどな。まあそこは追加料金ってことで」
「ええ、それいいの?」
「いいんだよ、あとゴブリンの角か牙は討伐の証としてとっとかないとな」
「へええ、角とか牙って何かに使えるの?」
「一応薬になるらしいぞ。麻痺毒?だっけかな?とにかくなんかの毒によく効くらしい。余ったら貰って後で何処かに持ってくのもありだな。薬師か錬金術しあたりに持ってけば買い取って貰えそうだ。」
「じゃあ、全部の牙と角はとっとくね」
「頼む」
ポカンと少年達のやりとりを見ていると赤髪の少年がこちらに歩いて来る。
「大丈夫だったか?襲われてたみたいだったから焦って飛んできたんだ」
「あ、ああ大丈夫だ。ありがとう助かったよ」
少年が手を差し出してくれたので手を掴んで立ち上がる。
「君らは……」
「ゴブリン退治を頼まれたんだ。所であんたはアブドの人か?」
「そうだが、何か関係があるのかい?」
ペンルトが首を傾げると赤髪の少年は髪を掻いて困った表情をした。
「それが心配されてな。少年2人で本当に大丈夫なのかって」
赤髪の少年は村長の真似をするような口調になって言う。
「そういうことか。私が一緒に行って見事退治したことを言おう」
ペンルトがそう言うと赤髪の少年は「よっしゃ!」と言って笑った。
「全部取り終わったよ。襲われてた人は……無事だったみたいだね。良かった」
「おかげさまで助かったよ。改めてお礼を言おう。えーと」
「ドロだ」「ウツワです」
「そうか、ドロ君とウツワ君ありがとう。私はペンルトという、よろしく。家に迎え入れて歓迎したいところだが生憎馬車が無くなってしまってな。申し訳ない」
ドロとウツワはペンルトのその言葉に顔を見合わせ悪戯っぽく笑う。
「?どうしたんだ2人とも?」
「いや?多少寿命が縮む思いをするかもしれないけど町まであっという間につける方法があるんだ。どうする?それで帰るか?」
「寿命が縮む思い?まあすぐに帰れるのであれば別に構わないぞ」
「そうか、じゃあウツワ準備だ。また弩砲作ってくれ」
弩砲?ペンルトはとても嫌な予感に顔を引きつらせる。
「ちょっと待ってくれドロ君。弩砲で一体何を……」
「飛ぶんだよ町まで。言っただろ飛んで来たって」
「飛んでって本当に飛んできたんだな」
「もちろん!」
ニンマリとドロは悪く笑う。
「出来たよ!後は糸だけ」
「分かった。まあもう糸は出してるから巻くだけだな。ほいウツワ。ほいペンルト」
「この糸をどうすればいいんだい?」
「体に巻いてくれ、町の鐘に頭から突撃したいなら巻かなくてもいいぞ」
「そんなことはしたくない。巻くよ」
「よーし!弩砲は引き絞った!命綱良し!ゴブリンの角と牙良し!」
「じゃあ板にしっかり掴まってね」
「板なんて何処にあるんだ?」
「ごめんなさい、透明で見づらいですよね。ちゃんとここにあるんで弩砲の上に寝そべれば大丈夫です」
ペンルトが弩砲の上に乗り透明な板があることに驚きながら寝そべる。ドロとウツワはペンルトを挟み込むようにして寝そべった。
「よしウツワいいぞ!」
「了解!じゃあ、発射ー!」
バヒュンという音を残して3人は町目掛けて飛んでいった。
こんな感じで書いていきます。
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