いちご
真っ暗な夜の路地裏に、一人の見窄らしい少女がおりました。闇と同じ真っ黒な髪に白いワンピース。やせ細った体も相まって、まるで幽鬼のよう。
少女はぽつねんと座っておりました。ぼうっと闇を眺めていて、その瞳には意志が感じられません。
その時、カツ、という小さな音が路地裏に響き渡りました。
「やぁ、やぁ、お嬢さん。どうしたんだい?」
少女の前に現れたのは、ひょろりとした長身の男性でした。真っ黒なシルクハットから零れるのは明るい金髪。上等な黒のタキシードに身を包んでおり、少女と同じなのは、その青白い肌くらい。
「近頃は危ないから、早くおうちに戻りなさい。人喰いのバケモノが出て、お嬢さんのことを食べてしまうよ。グワー、とね」
両手でお茶目に威嚇しながら、男性はそう言いました。けれども、少女は何も反応しません。ただただ、ここではない何処かを見つめております。
(はて、さて……。どうしようか?)
男性がそう考えていると、小さな音がしました。くぅ……。それは少女のお腹から聞こえました。
男性はしばらく呆気に取られたものの、次の瞬間には大声を立てて笑い出しました。
「あっはっは!そうかい、そうかい、君はお腹が空いてるのかい。ふーむ、何かあっただろうか?」
そう言って、男性はガサゴソと自らの衣装のポケットというポケットを漁ります。長い時間かけて見つけたのは、小さな飴玉一つ。
「さぁ、お食べ。飴は食べたことあるかな?」
男性は少女の目の前に飴玉を乗せた手を差し出しました。
けれども、少女はぼうっと眺めるだけでした。
(ふーむ)
しばらく、男性は根気強く手を差し出してましたが、なかなか少女は食べようとはしません。男性は考えて、強引に少女の口に飴玉を押し込むことにしました。
飴玉を口に入れた瞬間、少女は目を見開きました。
「……あまい」
思わず口に出てしまった言葉のようでした。先程までの人形のような雰囲気はどこへやら。まるで道に咲く野花のような、可愛らしい笑顔でした。
男性は笑って言います。
「そうかい、そうかい。いちご味の飴さ」
少女は首を傾げました。
「いち、こ?」
舌足らずなその言葉に、男性は思わず笑って訂正します。
「い、ち、ご」
「……い、ち、ご?」
「うん、そうだよ」
男性はそう言って、笑顔で少女の頭を撫でました。少女はまるで猫のように、喉を鳴らします。
くつくつ、と男性は笑い、少女へ手を差し伸べました。少女はその手と男性の顔を、交互に見比べます。
「ほら、おいで。ここは危険だから、一緒に行こう。僕はお金だけはたくさんあるから、お嬢さん一人を養うことくらい簡単さ」
少女はよく分かりませんでしたが、そっとその手を取りました。