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マネーデイの週一短編

せおはやみってなんだろな

作者: ゆまち春

三題噺『林』『人形』『穏やかな廃人』


登場人物

真白(女子高生)

ゆめ(女子高生)

 五蔵(ごくら)高校のとある教室。


 ゆめが国語の先生に指名されて、つくってきた俳句を()みあげた。


「せをはやみ せをはやみって なんだろな」


 ゆめのとんちんかんな俳句に教室が笑いに包まれた。



 国語の授業が終わったあと、二、三の小言を先生に言われたゆめが教卓からまっすぐ真白(ましろ)の机に飛び込んだ。


「怒られたよ!」


 ゆめは憤慨(ふんがい)していた。


「見てたからわかるよ。先生の怒る気持ちもね」


「先生が言ったの。その詩を呼んだ歌人は、()をはやみの意味をわかって使っています。そんなことゆめだってわかってるよ! わからないって私の感想を俳句にしたんだよ!」


「はいはい、よしよし。自分の気持ちを言葉にできてゆめは偉いよ」


「ありがとう。私も一字決まりより先に真白に手を出したいよ」


 その口説き文句で落ちる女子はいないだろう。


「真白は何て書いたの」


 ゆめの質問に、待ってましたとばかりに咳ばらいをする真白。自信満々だ。


「クマは問う ボクを捨てるの つぶらな瞳」


「ああ……」


 一トーン下がったゆめの声音。


「どう? どう? この間、いとこにあげちゃったぬいぐるみの心情を歌ってあげたの。泣けるでしょ?」


 駄作だった。流石のゆめもこれには苦笑い。

 親友の反応から言いたいことを察した真白、少しだけ拗ねる。


「かわいいじゃん、クマの人形(・・)


「絵がないから可愛いかまではわからないよー。でも、真白の言いたいこと、ちゃんと伝わったよ。俳句って難しいね」


「たったの十七音しか使えないのに、表現することが多いからね」


「季語も入れないといけないしね。せをはやみの俳句はなにが季語なんだろう?」


 そもそも俳句じゃなくて短歌なんだけどね、と真白は思ったが言わずにおいた。


「でもまあ、季語は気にしなくてもいいんじゃない。ゆめのいいところは、心の声に実直な俳句を作れることだと思うよ」


「おほめに(あずか)っちゃってまっこと光栄なんです、えへへ。よし、じゃあこれから俳句で会話するよ!」


 真白は思った。ゆめの余計なスイッチを入れてしまったと。

 こうなったらゆめは止まらない。俳句縛りが続きそうだ。


「わが友よ 昨日の夜は 何してた?」


 俳句縛りというか、五七五の音合わせだった。

 ゆめに俳句のセンスがなくて感謝感謝。音合わせくらいなら即興でも大丈夫だろう。


「映画見た 親指立てる 溶鉱炉(ようこうろ)


「サイボーグ ダダンダンダダン 祭囃子(・・)


 映画の効果音を祭囃子(まつりばやし)というんだろうか。たしかに雰囲気を盛り上げるための機械装置であることに変わりはないけど。


 背景を 流るる音だし そうかもね


 それにしても……。


「擬音とカタカナばかりじゃない、その句」


「ああ真白 ルール破りは いけないよ」


 ゆめは五七五縛りを意地でも貫き通すようだ。

 こうなってくると面倒くさい。


 はやく次の授業が始まって欲しい、と思って真白が教室を見回すと、クラスメイトの数が明らかに減っていた。


「忘れてた、三時間目は音楽だ。移動教室遅刻しちゃう」


「立ち上がれ いざ目指そうか 音楽室」


 真白はゆめを無視して音楽の教科書を机の中から引きだす。

 どこにあるのか、真白は手間取っている。

 ゆめは相手にしてくれない真白に俳句攻撃をしかけた!


「窓歌う 風も行こうと 誘ってる」

「……」

「まだ焦る 時間じゃないよ 時計見て」

「……」

「体育館! バスケがしたいです 先生!」


 もうゆめの言っていることはハチャメチャだった。


「ゆめもほら、教科書持って急いでよ。遊んでいたら間に合わない」


「ゆめ拗ねる もう拗ねたから 知らないよ」


 ゆめは拗ねた宣言、もとい拗ねました俳句を詠みあげた。

 きっと千年前の子供は、こんな風に拗ねていたんだろうな。そう思うと可愛げがある。


 ロッカーにあった教科書と筆箱を抱えて、真白はほっぺを膨らませたゆめと音楽室へと向かう。


「謝るよ。ごめんごめん、ゆめの俳句、私は好きだよ嘘じゃない」


「返句なし つんつんつーん ゆめ拗ねる」


 真白はひとつため息。子供っぽいったらありゃしない。

 仕方ないと、真白はお菓子で釣って謝った。


「チョコケーキ あげる貸しだよ」


「……」


 ゆめが真白をきょとんとした顔で見る。


「貸しと歌詞をかけたの。返句」


「ごーひちごじゃないよ?」


 ゆめもキリがいいと感じたのか、ようやく縛りをやめてくれた。


「返句は受け取った俳句に下の句を繋げて返すこともあるって、さっき授業で習ったでしょ。短歌の形にして下の句の七七で返したの」


 まあ、チョコレートは六音だから音足りずなんだけれど、それはご愛敬。


「そういえば先生言ってたね。昔の人はひそやかな恋心を俳句で伝えたって」


「そうそう。だからお誘いの上の句に対して、下の句で返すのよ」


 真白は白磁の指を組みながら恍惚(こうこつ)とした声を出す。


「ロマンチックよね」


 苦笑いのゆめ。お姉さん然としているはずなのに、ゆめより乙女チックな真白だった。


「……そうだね。うーん、他にも何かないかな」


「他にもって?」


「こう、俳句がお星さまパワーで降りてくるの」


「降りてきた?」


「ぴぴぴー。降りてきた。ただいま星間言語から日本語にコンバート中。

 しばらくお待ちください。俳句の形に直します。完了。

 宇宙をヒッチハイクする俳句ポストゆめ号、行きます」


「こと座の君 近頃なんだか 小太りだ」


 廊下で立ち止まるゆめ。音楽室までもう少しだと言うのに、ゆめが騒ぐ予感がした真白。

 そしてその予想は当たる。


「これは大変だよ!」ゆめが慌てる。「間違えて彦星様の愚痴を拾っちゃった! これが織姫様の耳に入ったら二人の不和で七夕が終わっちゃう。俳人サマ。宇宙の平和を護る俳人サマ。なんとか綺麗な言葉に言い直してください」


「ああ、ここで私に振るのね。わかりましたゆめちゃん。宇宙の平和を護る俳人として、重大なお役目引き受けます。この一句、棘を抜いて差し上げましょう」


 真白は少し考えた。

 いい句でなければ、ゆめは動いてくれないだろう。七夕不和物語をチャイムも無視して廊下で繰り広げるに違いない。


 思い悩む真白の目が開く。

 整いました。


「瀬は写す 君への(たけ)を 日に増して」


 ゆめが信じられないものを見た顔をしながら音楽室へ向かおうとする。


「返句まだ ディアフレンド どこ行くの」


 真白の穏やかな声に、ゆめの足が止まる。

 ああ、これは一波乱あるな、とゆめは悟った。


「……ほら、ちょっと頭が抜けているのがチャーミングポイントのゆめちゃんには、真白の俳句の意味がわからなかったから」


 真白は意気揚々(ようよう)と解説をする。


「瀬はさっきも習ったでしょ。これは浅い河のこと。織姫と彦星に関係する河といえば天の川。彦星が詠んでいるんだから君はもちろん織姫のこと。じゃないと浮気になっちゃうからね」


 真白はぺらぺらと喋る。ゆめは死んだ目をしながら一応は耳を傾けている。


「彦星が織姫にむけて歌うの。会いたい気持ちが日に日に増している思いの丈と、少し太っているんじゃないかしらという注意を『丈』という文字ひとつで、二重にかけて表現しているのよ!」


 またもや真白は自慢げだった。


「どうかしら。この(むつ)み言と一緒に、進言を(にじ)ませる手腕」


 ゆめは手放しで称賛した。すごーい!


「流石は宇宙を平和にすることにかけては右に並ぶものなし、穏やかな俳人(・・・・・・)の称号を持つ真白なだけはあるよ」


「そうでしょう。じゃあ、早く教室に入りましょう」


 なんとか(なだ)めたゆめの勝利。

 同時に、勝ち誇った顔の真白。


「ではここで一句」

「一句?」


 ゆめは音楽室に逃げながら返句を詠んだ。

 その顔はにやにやと笑っていた。


「せはうつす せはうつすって なんだろな」


 チャイムが鳴る。それをかき消すように廊下を駆けて叫ぶ真白。


「ゆーめー!」


あとがきその1

 初手謝罪。

 どう頑張っても『穏やかな廃人』はそのまま使えなかったよ……。もしこのキーワードを使ってギャグに出来たら教えて欲しいれす。

 私が使うとどうしてもダウナーな方向に。


あとがきその2

 今回、会話の間も改行してみました。

 読みやすいかはわからんちんです。スマホからだと見やすくなってる?かもしれませぬ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 俳句の勢いが、話が進んでいけばいくほど落ちていくように見えたところ。妙なリアリティーがありました。 [気になる点] 穏やかな廃人って? 私の読み込みが足りなかっただけかもしれませんが。 […
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