赤いライターと云うチケット
ファミレスは人が疎らだ。その風景に見る顔たちは、本当に何だかどうしようもないような色彩を帯びている様に思う。そんな風景もジョーは好きだった。夜明け前の気怠さ入り交じった雰囲気の中でボンヤリとするのが好きだった。
女の子の名前は美香と言った。そして驚いた事に高校に通っているらしい。留年だとか。そんなでなく、現役高校生だ。学校の近くで不味いんじゃないのかと聞くと先生がお客さんだから心配ないと云われたのでジョーは、その話題に触れまいと決め、ライターの話題を切り出した。
「あのライター持ってたら何か良い事、有るの」
「あの店から出てきたから知ってると思ってたのに」
「知らない」
「あの店は本当はカジノ、会員制のね」
カジノバーか、ますます洒落てる。と思ったが、よく考えればそんな健全なはずは無い。ジョーはジッポで火を付け煙を吐き出した後、あの店に対する見解を答える。
「裏カジノ?」
「そう、アル中のヤクザが経営してるね。開いてるのあんまり見たことないけど」
アル中ヤクザと聞いて爬虫類顔が浮かぶ。あの奇妙な表情が浮かぶ。そして苫前はジョーにライターを持っておけと言った。どうにも、きな臭い話だ。
「で、美香ちゃんは何でそんな事知ってるの」
「お客さんでライター探してる人が居てね。近いうちに凄いイベントあるから、その前に手に入れたいって。ねぇ、何処で貰ったの」
ジョーは、拾ったと答えコーヒーを一口飲んだ。美香は不貞腐れている。凄いイベントと云うのは賭け事の事だろう、何だか凄い物を貰った気がする。夢のような暗い世界へのチケット。あの腫れた苫前の顔が思い浮かび、恐らくは爬虫類の仕業だと思うと薄ら寒くなった。爬虫類顔と苫前は一体どんな関係で繋がっているのか、ジョーには全く想像出来ないがロクデモナイ関係だと云う事に間違いは無い。しかし、苫前の様なおとなしい地味な男が何故と思う。
「要らないのなら頂戴よ」
「いや、要る」
「買うから。幾ら?」
「金の問題じゃないんだ」
美香は、ますます不貞腐れツンとそっぽを向いてしまったのでジョーは伝票を持ち、立ち上がった。よくある事の様に当然に美香は何も云わず立ち上がる。
支払いを済ませ、店を出てから美香が口を開いた。
「今度カリプソ行く時は一緒に連れて行ってよ」
「今度ね」
そう言って店の前で美香と別れた。
極天街のアーケードを通り、駅に向かって居ると後ろから自転車のベルを鳴らされたのでジョーは脇にずれた。
「ジョーやぁ、何しよん」
振り返ると往年の悪友、加藤と盛田がニケツで横付けしてきた。
「何もしてないわい」
「今から朝マックしに行くけど行かんか」
腹は減っていなかったが行くと答えると駅の中にあるマクドナルドと云い、二人でさっさと行ってしまったので、とにもかくにも駅に向かった。
そしてマックでフィレオフィッシュのセットを食った。