ソロ、旅に出る
今回はソロの方の話です。
のどかな平原を、のんびりと歩いて行く人影が3つ。魔王を倒す旅路の途中、勇者ソロとその一行である。
「サーリア殿、ヘンリエッタ殿、疲れてないでありますか?」
先頭を歩くソロが、後ろを歩く2人に声をかけた。
「もちろんです勇者様。このサーリア・デリンノーリス、かつては流れの傭兵をしていたこともあるのですよ。この程度の旅は慣れっこです。」
元気よく返事をしたのは、長い髪を後ろでまとめた美女。その髪は雪のように白く、肌の色も透き通るように白い。まるで雪の化身であるかのように白くたおやかな見た目に反して、その身体は無骨な胸当てに守られ、肩には重そうな長槍を担いでいる。彼女はヴァータリア王国親衛隊の副隊長にして、槍の達人・・・その名を「サーリア・デリンノーリス」という。王の命により、勇者の旅に同行することになった騎士である。その歳はすでに50を超えているが、どうみても20代前半・・・いや、10代後半にしか見えない。彼女の髪や肌が透き通るように白いのは、北方に住むエルド族の血が入っているためであり、そのために寿命も普通の人間の3倍近くある。
「・・・平気。」
ボソリと呟くように返事をしたのは、黒いローブに身を包み、目深にフードをかぶった背の低い少女。その顔はフードに隠れてよく見えないが、ショートカットにした青い髪がチラリと覗き、時々顔を上げると、その度に美しい光をたたえた大きな瞳がキラリと光った。まだ15歳ほどだろうか。幼さを残したその顔は、美しいというよりは可愛らしい。しかしそんな見た目に反して、彼女こそヴァータリア王国の筆頭魔道士「ヘンリエッタ・マグニカル」・・・つまりこの国における最強の魔法使いであり、勇者召喚を成功させた張本人である。魔法の天才として王国に仕えていた彼女は、自ら進んで勇者の旅に同行しているのだ。
「はっはっは・・・まだ旅は始まったばかり。あまり無理はしないようにしてほしいのであります。ドロシー殿はどうでありますか?」
ソロが声をかけたのは、最後尾についてきている1頭の馬である。いや、実際のところこれは馬ではない。見た目をホログラムで誤魔化している4足歩行モードの棺桶であり、ソロの相方であるドロシーの本体だ。
棺桶は戦場における移動式拠点という役割があり、こうして4本の脚と頭を生やして移動することができる。ホログラムで誤魔化していない時の見た目は鋼鉄の馬・・・少々胴体がずんぐりしているのであまり格好良くはないが・・・とにかくメタリックな馬、あるいは長い脚の生えた棺桶である。通常、棺桶が移動する時はこのようにノソノソと歩いたりはしない。四足歩行は速度が出せないため、これはあくまで緊急用の移動手段である。無限軌道ユニットや、高速飛行ユニットといった移動用のオプションを衛星軌道上の母艦から地上に撃ち込んでもらうのが普通なのだが・・・ご存知の通り、母艦は200年前にはるか遠い宙域で無数の宇宙ゴミと化してしまっているので、歩く以外に移動する手段はない。
「んー・・・このあたりの土はよくないわね。」
馬の身体からふわりとスカートをひらめかせ、身長10センチほどのドロシー(もちろんホログラムである)が飛び出した。女性2人の間まで飛んでいき、難しい顔をしたまま腕を組んで宙に浮かんでいる。女性たちもドロシーの存在に慣れたようで、特に驚いたりすることなく微笑ましそうにドロシーを見ながら歩き続けた。ドロシー本人は至って真面目だが、小さな姿の彼女が悩んでいる姿は可愛らしく、まるで物語に出てくる妖精のようなのだ。そんなドロシーの本体である馬は、時々立ち止まり、モソモソと道端の草を食べている・・・ように見えるのだが、実際には草ではなく、草の近くの土を口に運んでいた。
「万能液体金属の充填率は5%・・・まるで増えてないわね。」
万能液体金属とは、ソロとドロシーの燃料であり、武器や弾薬の素材にもなる液体の名称である。棺桶にはこの万能液体金属を生成・保管する機能があるのだが、それには原料が必要だ。ドロシーは土を食べることで、その中から原料となる希少な物質を抽出して万能液体金属の生成を試みていたが・・・しかし、あまり成果は上がっていなかった。
悩んでいるドロシーと対象的に、ソロはいつも楽観的だ。
「5%もあれば、まだ5年ぐらいは余裕で活動できるでありますな。」
「そうね・・・ただ、武器がないのは痛いわ。拳銃以外の兵器はみんな、宇宙を漂流してる間の棺桶の補修とか燃料に使っちゃったし・・・。もし今ひどいダメージを受けても、すぐに修復はできないわよ。」
ソロたちの目下の課題はこの万能液体金属不足解消であった。これさえ十分にあれば、棺桶内で新しい兵器や弾薬を生成することや、ソロがダメージを受けても修復することが可能となる。今の状態でソロや棺桶が重大なダメージを受けた場合、現状では修理する手段がなく、身を守るための武装を作り出すこともできないのだ。
だがソロはそんなことは問題ないとばかりに笑い、腰に下げた大剣を抜き放った。
「はっはっは・・・ドロシー殿は心配性でありますな!自分には王様からいただいたこの名剣があるのであります!」
それは旅立ちに際して、ヴァータリアス王から賜った素晴らしい武器である。希少な鉱物をふんだんに使用し、ヴァータリア王国でも屈指の名工の手により三日三晩かけて作り出されたその剣の名は【テラ・ヴァータリア】。王国の名を冠するにふさわしい性能と美しさを兼ね備えた名剣であった。
ドロシーは日を受けて輝く刀身を見て、ボソリと呟いた。
「その剣、希少な金属を沢山含んでいるわね・・・それを食べたら、少しは万能液体金属が増えるかもしれないわ。」
「ンア゛ッ!?なんてことを言うでありますか!こんなにカッコいいのに!」
「だってその剣・・・どうせソロが本気で振り回したら折れるわよ?」
「ンア゛ア゛ッ!?マジでありますか!?大事にしまっておかなきゃいけないでありますな!」
「使わないなら食べさせてよ。ほら、早くよこしなさい。」
「ンア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!?ドロシー殿はロマンをわかっていないであります!吾輩だって剣と魔法で戦いたいのであります!だから自分はこうしている間にも、ヘンリエッタ殿に教えていただいた火球魔法の練習を・・・」
「火花のひとつも出ないじゃないの。ソロにはきっと使えないのよ。」
「そんなこと、ないでありますぅぅぅぅぅ!ねぇ、ヘンリエッタ殿?」
話を振られたヘンリエッタは、フードを深く下ろして顔を隠した・・・返答に困っているのだろう。
「勇者様はふつう、剣と魔法の達人の、はず・・・。ソロ様だって、きっと、たぶん・・・。」
いや、だって勇者じゃないし・・・ドロシーは言いかけるが、言葉をグッと飲み込む。例の「本物の」勇者のことは、なんとも有耶無耶になっていた。少なくともヘンリエッタは、目の前で本物の勇者が召喚され、ソロに潰されたのを見ているはずなのだが・・・。勇者の死体はいつの間にか片付けられていて、ドロシーやソロが聞いても「なんの話です?」という具合にかわされてしまったのだ。
今やソロは本物の勇者・・・少なくとも、ヴァータリアス王国としては・・・なのであった。だがあくまでただの戦闘用ロボットに過ぎないソロとドロシーが、なぜ勇者として旅をすることにしたのか。話は数日前、ソロたちがこの惑星に墜落してきた日に遡る。
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「いい、状況を整理するわよ。ちょっとそこ座りなさい。」
「ええっ・・・ちょっと、何かイス的なものが欲しいのでありますが」
「早く座りなさい。」
「・・・はい。」
ここはヴァータリアス王城の中庭。魔族の襲撃を退けたソロは「自分の妖精とふたりで話がしたい」と要望し、人気のない中庭に、ドロップシップとともに抜け出してくることに成功したのだ(ドロシーのホログラム出現で、また人々が大騒ぎしたのは言うまでもない)。暖かな日がさし小鳥の鳴く美しい庭園には大きな棺桶と明らかに怒っているドロシー、そして正座するソロの姿だけ。ちゃんと人払いされているようだ。それだけソロの機嫌を損ねないように王国全体が注意しているのだろう。
「まず、私たちのやるべきことは何?はい、言ってみなさい。」
「・・・速やかな部隊への復帰。そのために、この惑星でもっとも通信状況の良い高地にSOS信号を発信するためのアンテナを設置する必要があるのであります。」
「はい、よくできました。・・・で、アンタのやったことは何?」
「・・・ります。」
「ブツブツしゃべらない!」
「勇者ぶったのであります!」
「そうよ!アンタ・・・なんで勇者ぶってるのよ!ロボのくせに!」
「だって・・・だって・・・」
「だってじゃない!」
「ひぃぃっ!」
体長10センチほどで実体すらないドロシーに怒鳴られ、2メートル超えのソロがビクリと身体を震わせる。ふたりの立場はほとんど対等だが、実際の力関係はこんな感じである。ソロに涙腺があれば、とっくに涙目になっていたであろう。
「あんた、無関係の惑星の戦争に参加してどうするつもりなのよ!?いい?もうこうなったらすぐにこの国を去るわよ!」
「ええ・・・?でも・・・」
「でも何よ!?あのキレイなお姫様に手を出そうなんていうんじゃないでしょうね!他の文明のお姫様を傷物にするなんて、この国にどれだけの影響があるか分からないわ。そんなことしたらアンタ、100%プレス機行きよ!」
「いや、あの・・・」
「なによ!?大体ソロはそうやっていつもいつも・・・」
「待って・・・ドロシー殿。話を聞いてほしいのであります。」
ソロの真剣な声に、ドロシーの説教が止まった。
「・・・なによ。」
「これを、分析してほしいのであります。」
ソロが差し出したのは、魔物の爪や表皮の一部など・・・つい先ほど仕留めた魔物たちの身体の一部である。ドロシーはそれを見て、首をかしげた。
「なんでよ。ここの動物の死体を調べてどうしようっていうの?」
「お願いであります。」
「・・・むぅ。なによ。わかったわよ。」
ドロップシップからニョキニョキと馬のような首が伸び、ソロに向けて大きく口を開いた。ソロはその口に、魔物の一部を投げ入れる。
ドロシーはしばし分析に集中するため目を閉じていたが、驚きとともに目を開いた。
「これは・・・ゲノム・・・?いいえ、似ているけど違う。一体、これは・・・?」
ソロたち地獄案内人の宿敵「ゲノム」はスライム状の生命体であり、しばしば他の生き物に擬態して出現する。今、ドロシーが分析した細胞はスライム状ではなく、ゲノム特有の不死身と思えるような生命力もなければ、まるで普通の動物のようであるが・・・だが、ドロップシップの分析結果は確かに、この細胞にゲノムの片鱗を発見していた。それはまるでゲノムと他の生物が融合したかのような、そんな不気味なもの。長い地獄案内人の戦いの中でも、このような細胞はまったく知られていない・・・初めて発見された細胞だった。
「ソロ・・・あなたまさか、この惑星の生物にゲノムの片鱗があることに気づいていたの・・・?」
驚愕するドロシーに、ソロはフッと不敵に笑ってみせる。
「やはり、そうでありましたか。となればドロシー殿、我々のやるべきことがもう一つ増えるのであります。」
「ええ、そうね。部隊への復帰は当然目指すものとして、可能な限りこの惑星の生き物について調べる必要があるわ。もしこの惑星の生物が本当にゲノムか、それともゲノムと関係のあるものなら・・・私たちはその正体を知り、もし必要ならこの宇宙から消滅させる必要があるわ。」
「ゲノムを消し去ること・・・それが我々地獄案内人の使命であり、存在意義でありますからな。それともうひとつ、『勇者』という存在。」
「勇者?」
「自分の見立てでは、『魔族』とか『魔物』と呼ばれている生物種にゲノムの片鱗があるようなのであります。国王様や姫様といった普通の人々にはそれはない。であれば、『勇者』という存在はひょっとしたら、ゲノムを効率的に滅ぼす力を持っているのかもしれないのであります。」
ソロの言葉を噛みしめるように、ドロシーは腕を組んで考える。
「『勇者』はゲノムキラーの可能性がある、ということ・・・。なるほど、一理あるわね。私たちが交戦した魔族という存在は、明らかにこの国の人間より遥かに高い戦闘能力を有していた。それに勝利できる人間が実在するのであれば、それはゲノムを効果的に消滅させる力を持っている・・・ゲノムキラーといってもいいのかもしれない。」
「もし本当にゲノムに有効な力などというものが存在するのなら、それは自分たちにとって最高の情報であります。確認しないわけにはいきますまい。それに・・・。」
「それに・・・?」
「ドロシー殿も気づいているのありましょう?我々が『勇者』と呼ばれる人物を殺してしまったことを。」
「う・・・そうね。」
ドロップシップを中庭に動かした時点で、当然ドロシーは見ている。ベットリとドロップシップに貼り付いた血糊と、正視に耐えない状態で潰れていた人間の死体を・・・。
「事故ではありますが・・・『勇者』を殺してしまった以上、本来は有利に動くはずだった『魔族』や『魔物』との戦争が、一気に不利になってしまうかもしれないのであります。我々には、本来の勇者の代わりを務める義務があるのでは?」
「それは・・・うーん・・・でも・・・。」
煮え切らないドロシーに向けて、ソロはさらに続ける。
「どのみち、魔族や魔物、それから勇者について調べるためにこの惑星をうろつきまわることになるのでありますから・・・ついでに魔王とやらの顔を見てきても良いでありましょう。・・・どうでありますか?」
ドロシーは考える。
ソロの言うことも分かる・・・ソロがただ、この星で勇者ごっこをしたいだけのような気もするが・・・。しかし魔物の細胞に見つかったゲノムの片鱗や勇者については調べなければなるまい。
それに実際のところ、クソ真面目にSOSを打とうとしているが・・・200年も宇宙を飛んできた自分たちがSOSを打ったところで、今さら救援が来るとも思えない。そもそも自分たちの母艦はすでにないわけで、母星はさらにはるか宇宙の彼方である。たぶん自分たちはこの先ずっと、この惑星で生きていくことになるのだ・・・。
ならば、もう少しゆるく考えてもいいかもしれない。
ソロの言い分は一応筋が通っているし、彼がやりたいのなら勇者ごっこに付き合ってやったっていいではないか。
ドロシーは悩んだ末、そう結論づけた。
「わかったわ。ソロ、アンタに従うことにする。勇者としてこの王国に協力しながら、部隊への復帰とこの惑星の調査を行うってことね。」
「さっすがドロシー殿、話がわかりますなぁ!それでは話もまとまったところで、誰かに話を聞きにいくのであります。RPGの基本は情報収集でありますからな!」
「なによ、ゲームじゃないのよ・・・?それにしてもソロ、その場のノリで勇者ぶったのかと思っていたのだけど・・・最初から魔物の中のゲノム反応に気がついていて戦うことを選んだのね。すごいわ。」
「ふふん。照れるでありますよ。」
「それにしても分析もなしにどうやって気づいたの?あたしも参考にしたいわ。」
ドロシーの言葉を、ソロは正座から立ち上がって伸びをしながら聞いている。ドロシーはダメな相方の時々見せる鋭さ、そのギャップに軽く胸を高鳴らせて返事を待っていた。
そんなドロシーに、ソロは申し訳なさそうに言った。
「・・・まぁ、そうだったら嬉しいなって思っただけでありますが・・・。」
「願望かよ!死ね!」
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そのようないきさつで、ソロたちは勇者として「魔王を倒す」というベタな目的のために旅に出たのだ。
ソロは歩きながら、旅の仲間たちとのんびり会話することが多い。一応は情報収集という名目なのだが、ドロシーにはもちろん分かっていた。若い女性と旅をするのが楽しくてしょうがないだけだと。
「サーリア殿。この旅は、まっすぐに魔王のところに向かうわけではないのでありますな?」
質問された槍の達人サーリアは、白く美しい髪をなびかせながらハキハキと質問に答えた。
「はい、勇者様。これは伝統的に定められている『勇者の足跡』を辿る旅になります。」
「『勇者の足跡』・・・つまり、先代までの勇者様と同じ旅路につくというわけでありますな?」
「おっしゃる通りです。これは歴代の勇者様と同じ旅路を経ることで勇者としての力に慣れ、魔王を打ち倒す力を身につけるという意味と、それから魔王を倒した後に王として君臨するため、見聞を広める意味があると聞き及んでいます。」
「ふぅむ・・・なるほど。あ、そろそろ最初の村が見えてきましたな。」
「ちょうどいい時間です。今夜はこの村で宿泊しましょう。」
こうして勇者一行は王都に比較的近い場所にある「ザックス村」へ到着した。
村に入った勇者たちを待っていたもの・・・
それは・・・
凄まじいまでの歓迎であった。
村で一番大きな食堂が貸し切られて宴が催された。
食べきれないほどのご馳走に飲みきれない量の酒(もっともソロはロボなのでどちらも口にしないが)。
次々と催される出し物に、次々とやってきてはにこやかに握手を求めてくる村の有力者たち。
疲労など感じないはずのソロがグッタリしはじめると、隣で静かにナッツをかじっていたヘンリエッタが教えてくれた。
「勇者様はほぼ確実に未来の王となることが決まっている。だからみんな、取り入ろうと必死。今夜は眠れないと思ったほうがいい・・・勇者様がその気なら、だけど。」
「それはひょっとして・・・ベッドの上の話でありますか?」
ソロの言葉に、ヘンリエッタは深くうなづく。
「もし娘が勇者の子を孕めば、その一族は10代先まで安泰。若い娘はこぞって勇者様の部屋にやってくる。」
「それは・・・ほほォウ・・・?」
ロボであるソロの表情は読めない。ヘンリエッタはその言葉をどう受け取ったのか、チラリとソロを上目遣いに見上げ、少し頬を染めた。
「勇者様が嫌なら、その・・・私やサーリアの部屋で寝るといい。私たち勇者の同行者は、そういう役目もあるから・・・。それに、その・・・私は魔法で避妊もできる。」
「ほ・・・ほほォウ・・・?」
ソロは平静を装っているが、そのテンションは一気に有頂天である。旅に出てから今日まで、どうやってヘンリエッタやサーリアのラッキースケベに遭遇しようか策略を練っていたが・・・まさかフルアクセスが許可されていたとは・・・。しかも今夜はどうもオールナイト確定。ソロのドロップシップは来るべき作戦のためにスタンバイを開始した。
宴の席は早々に辞し、ソロは今、あてがわれた宿の広い部屋でひとり、落ち着きなくウロウロと歩き回っている。彼の拳銃は来るべき村娘の襲来を今か今かと待ち構えていた。
そこへ、ノックの音が響く。
「ドドドドド・・・どうぞ。開いておりますよ。」
「勇者様・・・失礼いたします。」
ドアを開けて入ってきたのは、美しい娘であった。村の有力者の娘などが優先され、もの凄いゴリラみたいな女性が来るのではないかと心配していたが・・・それは杞憂だったようだ。豊満な身体を薄手の寝間着で包み、恥ずかしそうな面持ちでソロを見る娘は、完全にソロのど真ん中ストライク。今夜の勝利は確定したようなものだ。
「勇者様・・・突然の訪問、お許しください。あの、もしお嫌でなければなのですが・・・この私にご寵愛のほどを」
「待ちなさい・・・娘よ・・・。」
突然、部屋に厳かな声が響いた。それは不思議な残響音を響かせながら、娘の言葉を遮った。
「な・・・この声は・・・ドロ」
「娘よ・・・勇者と交わってはいけません・・・彼は、その、あれ・・・そう、呪われているのですですですですです(残響音含む)」
その時、娘の目の前に、神々しい光に包まれた少女が現れた。それはうっすらと透けていて人間味がなく、この世のものではないことをヒシヒシと感じさせる。その言葉は適当で明らかに考えながら喋っているが・・・それでも村娘的には十分に神々しかったのだ。
娘は知らず、胸の前で手を組んでいた。それは祈るようなポーズだった。
「か・・・神様!?女神様ですか!?」
もちろん、現れたのはドロシーである。ちょっと透けているのはホログラムを拡大表示しているからだ。彼女の本体は馬屋にあるが、無線通信でソロのボディを経由して無理やり出現したのである。
「ちょ、ちょっとドロシー殿・・・今、いいところで」
「娘よ・・・危ないところでした・・・もし今の勇者と交われば、貴方は大変なことになっていたでしょうしょうしょうしょうしょうしょうしょう(残響音含む)」
ソロが何か言おうとすると、ドロシーはすかさず残響音を響かせながら被せるように喋る。娘はもうソロのことなど見ていない。目の前の女神様(雑)に夢中である。
「一体・・・勇者様と交わると・・・なにが・・・?」
「えっと、あの、なんだろ・・・そう、頭が爆発しますますますますますます(以下略)」
「ちょ、そ、そんなわけないであります。変なウイルスに侵されてるんじゃないんでありますから」
「ばぁくはつしますますますますますま()」
「爆発・・・ひ、ひぃ!!」
「残念ですが、それがこの勇者ソロの運命だめだめだめだめだめ()」
だめだめと残響音を響かせるドロシーの言葉をソロが慌てて遮ろうとするが・・・。
「いや、そんな、ちょっ・・・何を勝手に運命と書いてさだめと読む感じの設定を付け足してるんでありますか・・・」
「さだめだめだめだめだめだめだめ()」
ドロシーはだめだめのボリュームを上げて対抗する。
「ちょま・・・ドロシー殿、だめだめうるさ」
「あ、ありがとうございました、女神様!おかげで命が救われました!皆にもそう伝えておきます!」
「ええっ!お願いですから皆に広めるのはちょっと」
慌てふためくソロをスルーして、ドロシーは慈愛に満ちた表情で村娘を送り出した。
「気をつけて帰るのですよ・・・貴方に幸運をうんをうんをうんをうんをうんを()」
娘はペコリと頭を下げ、そしてドアがバタンと閉じられた。広い客室に残ったのは、呆然と立ち尽くすソロと素敵な笑顔のドロシーのみ。
「な・・・なんてことするんでありますかドロシー殿!自分になんの恨みが!?」
「ふん!アンタは王になんかならないんだから、無駄に抱かれたらあの子が可哀想でしょ!いいから大人しく寝てなさい!」
それだけいうと、ドロシーは姿を消した。ソロはただただ呆然と立ち尽くす・・・。
このあと何人かの村娘が同じように追い返され、業を煮やしたソロがサーリアたちの部屋に行くと、
「頭が爆発するのはちょっと・・・」
と断られて部屋入れてもらうことすらできなかったのは言うまでもない。
ひとり寂しく過ごす夜。
それが今夜のソロの運命でだったのだのだのだのだのだのだ()。
- 勇者様御一行 -
ソロ・・・変態
ドロシー・・・馬
サーリア・デリンノーリス・・・髪も肌も真っ白な女騎士。槍の達人。
ヘンリエッタ・マグニカル・・・背が低い、青い髪の少女。魔法の達人。