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十周目、仲間。-2


 この変態メイドに付き合っていたら、一生王都に辿り着けない気がしてきたので、話を九割方無視して進むことにする。


 現在地は大体村と王都の真ん中辺りの草原。こいつに付き合ってなかったら今頃王都で仲間探し+王と謁見ぐらいまでは済ませられたろうに。



「……ま、別に急がなくてもいいか」



 今周回はレベルマックスになったことから、周回効率を上げるためのレベル上げを急ぐ必要もない。


 たまには初心に返って、旅を楽しんでもいいだろう。



「そうですね、夜は待っていたらやってきますからね。あ、私の身体はもう準備万端ですが」


「誰もそういう意味で言っちゃいねえ」



 この勘違い変態メイドのおかげで疲労が溜まって楽しむどころではないが。



「うふふ、やっと久々に言葉を交わせることができましたね、勇者様」


「どうせそのまま『次の段階は身体を交わせることですね!』なんて言うんだろう、知ってるよ」


「ああ、もう勇者様と思考がリンクするなんて。私、喜びのあまりスプラッシュしてしまいそうです」


「……もう勝手にしろ、勿論置いてくから」


「放置プレイ……勇者様、マニアックですね、なかなか」



 本当に放置したらしたで何をするか、何が起きるかわからないので、視界の隅には絶対置いておくが。変態的な物言いから忘れがちだが、レベルと能力値は俺と同じ魔物なのである。

 変態の相手をするより、こちらの方の気苦労が大きかったりもする。


 まあ、これぐらい許容できていなきゃそもそも今、周回プレイを楽しんだり、魔王以上の強さのスライムと旅したりなんかはしていないのだが。


 何でも受け止める寛容な性格の持ち主、それが勇者こと俺である。



「その勢いで私の全て(意味深)を受け止めてくださってもいいのですよ!」


「いや、それとこれとは話が違うから、怖」



 両腕を広げて「へいへい、かもんかもん」とでも言わん勢いで迫るメイドに、多少の恐怖を抱きながらも、王都への道を進む。


 しばらく見ない振りを続けていたら「しょぼーん」と擬態語を声に出して言うものだから、面白くて笑いを堪えるのも大変である。笑ったら笑ったでまた面倒なことになりそうなので、絶対に吹き出したりはしない。


 喋らなかったら超絶美人なこのメイド、どうして口を開くと途端に残念系メイドになってしまうのか。


 容姿を変身出来るのなら、言葉もどうにか矯正してほしかった。ほんと。


 スライムとしてのこいつの方が数段マシな気さえしてきた。というかもうスライム時代を思い出せなくなるくらいの強烈なキャラクターに、こいつ実は人間でスライムに擬態してたんじゃね。


 確かめようと聞いたとしても、どうせまともな返事は帰ってこないし、その上さらに疲労が蓄積させられることになることはわかりきっているので、口にはしないが。



「……そんなお熱い視線を私に向けられたらもうびちゃびちゃのぐっちょぐちょでございますとも、ええ」


「ただ諦めの眼差しで見てたらこれだもん」



 というかスライムの癖にここまで年中発情期的な言語、どこで学んだのだろうか。





 しかしこのメイド、話す内容さえ除けばなかなか便利なところがまた、たちの悪い。



「……え?勇者様を襲うんですか?いやいや、(性的に)襲っていいのは私だけですよ、退きなさい。……え?実は仲間にしてほしい?いやいや、私だけで十分ですよ、退きなさい」


と、戦わずして道中の魔物を追っ払ってくれたり、魔物使いという職業柄、『魔物は仲間になりたそうな眼差しでこちらを見つめている』状態から有無を言わさずに追い返したり。


 割と群がってくる魔物の相手が煩わしかったので、それを処理してくれるのは正直なところ、助かる。


 草原中盤以降からは、魔物側でも広がっているのか、俺たちパーティに突っかかってくる魔物も殆どいなくなっていた。



「私と勇者様の間に割り込めるのは二人の愛しかないのです、ラブです、ラブ」


「いや、間にあるのはお前からの一方的な愛と、越えられない壁だけど」

「とか言っちゃって。照れ隠ししちゃうんだから、勇者様ったら」


「うぜえ」



 遠慮なく齢10歳の頬をツンツンとつついてくる、このメイド。いやせめてメイドならば主人に忠義であれよ。



「やめろ、そろそろ痛いから」


「あ、私は痛くされる方が好みですよ」


「誰も聞いてねえ」



 口を開かなければ、旅を円滑に進めてくれる存在だった。 口を開いた途端に足を止めてしまうのだから、耳を貸さないとしても、俺も足を止めるしかない。


 まあ、旅をまったりと楽しむのには丁度いい速度ではあるが。

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