十周目、仲間。
今周回でのパーティメンバー第一号、メイド(スライム)を引き連れ、草原を歩く。
メイド(スライム)のステータスは更新され、偽装ステータスとして、名前や職業が変化。以下、括弧内は面倒なので、改めてメイドとする。
<ステータス(偽装)>
名前:メイド
職業:勇者様だけの(はあと)メイド兼魔物使い兼武闘家兼魔法使い兼賢者
レベル:10
能力値:レベル相応
スキル:大体職業欄の全部
偽装している割には職業欄に多少おかしい部分もあるが、偽装前に比べたらマシだろう。偽装前に比べたら、の話だが。
「……メイド兼魔物使い兼武闘家兼魔法使い兼賢者ってさ、もう仲間はお前だけでもよくなっちゃったんだけど。体裁的に。」
「狙ってこの職業欄を偽装しましたが何か?寧ろ、これから勇者パーティに加わろうとするどこぞの馬の骨ともわからない野郎や、媚びへつらう糞ビッチから勇者様をお守りするためでもあるのですよ」
いい加減、周回の度に仲間を勧誘(強制イベント)するのも飽きてきたところなので、メイドのおかげでそれを回避出来そう、と期待しているのが本音。
それを言ったら調子に乗るのが目に見えてわかっていたので、絶対に言わないが。
「で、レベル999スライムの本音としては?」
「他に仲間が増えると何かと面倒なので、それならぷぎゃが全部の役を引き受ければいいぷぎゃよね、と自己完結した次第です」
逆にスライムとしての本音を引き出そうとしたが、いいようにあしらわれてしまった。抜け目のないやつめ。
まあ、実のところ、両者の本音なんてどうでもいいこと。気になっていたのは、別のことだ。
「……職業:メイドの前についてる『勇者様だけの』について一言」
「メイドの前、というよりかはメイド(以下省略)の前ですね。あと(はあと)が抜けてますよ、勇者様」
「いやこれ、もしステータス確認のスキル持ってるやつが俺やお前の他にもいたら確実に突っ込まれるからな、齢10歳の俺がメイドに何かおかしなことでもしたのかと、白い目で見られるからな。……あ、寧ろメイドに齢10歳の俺がされた側か」
「その時は『ああ、勇者様と過ごしたあの熱い夜を思い出して疼いてまいりました(ポッ)』とか言って誤魔化せばいいのですよ」
「誤魔化すどころか誤解の方向に急発進してるからな」
このメイド、表情を見るに冗談を言っているようには聞こえない。好意を持たれることに関しては勇者という立場上慣れているし、悪い気はしない。
だが変態の相手は別だった。
「まあ、勇者様と私以外にステータス確認出来るのは魔王と一部のその配下、その他少数なので、多分誤解の方向に急発進しても何も問題はありませんよ」
「いや逆に敵側に知られたら毎回白い目されるんだが」
「ああもう、しつこいですね、勇者様とあろうものが。もう今既成事実でも作っちゃいますか、よしそうしましょう」
「何、このド変態メイド。パーティに加えてから数分で解雇したくなった仲間はお前が初めてだよ、初体験だよ」
「ではついでにこのまま夜の初体験まで直行しちゃいましょうか」
何を思い立ったか突然服を脱ぎ始めるメイド。たわわな胸が露わになるが、それを直視できるほど俺は女性経験豊富じゃあない。
精神年齢は軽く20を越えているけども、勿論俺、童貞。その点に関しては年齢相応、ピュアなまんまである。
「やめて脱ぎ出さないで、というか10歳のいたいけな少年を襲うお姉さんメイドとか冗談にならないから!最早ただのよくあるエロ同人だから!」
「でも実はこんなシチュエーションに興奮してきたり?」
「してるよ!どうしようもなくしてるよ!だが勇者としての自制心とプライドが邪魔してるからなんとかなってるよ!」
「自制心とかじゃなくて、ただ勇者様がチェリーボーイなだけでしょうに」
「図星だけど!図星だけども!お猿さんみたいに腰振って朝チュンするよりずっとましだ!あと童貞舐めんな畜生め!」
「勇者様はお猿さんにならなくとも、ただ私の下でいきり立ってるだけでもいいのですよ、ふふっ」
「綺麗なのは見た目と言葉遣いだけで、発してるのはすごく下品だよ!」
「あら、誉めてくださるのですか?もう、そんなこと言われたら濡れてきてしまうじゃないですか」
「もう嫌だ、この変態メイド」
「実は私、罵倒されても興奮できるのですよ。あ、勿論罵倒してても興奮しますが」
「SとMのハイブリッドド変態じゃん」
「あら、いい語感ですね、ハイブリッドド変態。ステータスに追記しましょうかしら」
盛大な溜め息と共に、どっと疲労感に襲われる。
いや、好意を持たれるのに嫌な気はしないのは本当なのだが、こう変態的な好意はやはり苦手だ。
いつだったかの周回で、それまで普通の対応をしていた仲間が、突然変態的なアプローチをしてきて性的に襲われそうになったことがある。今俺が童貞なことから、行為の有無はお察しだが。
で、このメイド。それと同レベルか、それ以上に変態レベルが高い。(旅の)経験豊富な俺でも、突然脱ぎ出す仲間と出会ったことはない。
元はスライムということから、少しくらい人間の価値観とのズレは存在すると思う。それは許容範囲内のお話だった。
魔物と人間の価値観のズレだったら。
「ああ、流石に青空の下での行為は変態度が過ぎましたね。それは勇者様に引かれても仕方のないことでしょう。……では、次の目的地、王都にて励むとしましょう」
だが、歩く下ネタことこのメイド、多分ズレているのは人間として。
そう。ただ単に、超ド級の変態。
「無視は肯定ということでよろしいのですね?ああもう、興奮してきました、抑えきれそうにありません」
「……もうその辺りで勝手に悶え死ね」
再度溜め息を吐きながら、この草原内ではもう無視を決め込もうと決意した瞬間だった。
スライム改めメイド改め変態が仲間になってしまったことで、これからの旅先が思いやられる。胃が痛くなる。
「……ま、楽しめそうだけど」
だが、これまでにない周回になると期待をせずにはいられない。こんなイレギュラーな存在と旅が出来るなんて、楽しめない理由がない。
呟いた俺の独り言をどう頭で判断したのか、メイドが「そうでしょうそうでしょう、私はどんなプレイでも対応できますよ!」と脳内ラブホテルな発言をするものだから、今は楽しみより胃痛の方が強く感じるが。