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十周目、草原。-2



「……ぷぎゃには他人のステータスを見るスキルがあるぷぎゃ。あんたと同じようにぷぎゃね、勇者」


「何?」



 他人のステータス。それは非公開情報。いや、一般的には『ステータス』という概念自体が知られていない。


 数値化された自己、他人の能力を見ることのできるスキルを持っている勇者、俺だからこそ、ステータスという存在を知っている。


 例外として、俺の魔王討伐に協力してくれる仲間――俗に言われる勇者パーティーには、俺のスキルの影響で、自分と仲間のステータスを見ることが出来るようになる。ちなみに仲間から見える俺のステータスは偽装で、大体経過にふさわしいぐらいの数値に見える。ステータス隠蔽の能力である。



「そうぷぎゃね……、更に言えばステータス隠蔽もぷぎゃには意味がないぷぎゃよ」



 我ながら素晴らしいフラグ回収の速度、などと冗談を飛ばす余裕はない。


 いつか魔王と戦った時に、ステータス隠蔽をしていたにも関わらず『我と同レベル……だと?』みたいなことを魔王が零していたことがある。魔王にはステータスを見る能力があることは知っていたが、次の魔王の戦闘では『フハハハ、その程度のレベルで我に適うとでも思っているのか!』と隠蔽レベルを参照していた。


 そのことから、同レベル(それか相手側の方が高い)ならば隠蔽が機能しないことも理解できる。ついでに言うなら、魔王でさえも欺ける隠蔽を『意味がない』と笑うスライムは、異端。



「ぷぎゃあ、勇者。あんたはレベルマックス、ステータスオールカンスト、得たスキルは数知れずぷぎゃ。ぷぎゃあ、すごいぷぎゃね。まるで旅開始時のステータスには見えないぷぎゃ」



 認められない、認めたくない事実。何かの冗談であってほしいと願うように見た、スライムのステータス。


<ステータス>


名前:スライム

職業:スライム

レベル:999

経験値:MAX

能力値:ALL999

スキル:省略

装備:スライム






「いやーんぷぎゃ、ステータス見られたぷぎゃ。恥ずかしくて分裂しちゃうぷぎゃ」


「……何、お前」



 このスライムの馬鹿げた態度に対しての『何』ではない。この得体の知れない存在が全く理解出来ない。


 ほぼこの最初の草原にしか出没しないスライムの平均ステータスは、最初というだけあって、魔物の中では最下層。大体レベル1から2で、能力も初めの敵に相応しいはず。


 ……はずだった。この何周で、能力値オールカンストのスライムなんて見たことも聞いたこともない。一度もだ。



「ぷぎゃ、本気を出せば魔王だってワンパンぷぎゃよ。ワンパンするパンチ、拳はぷぎゃにはないけどぷぎゃ、プギャー」



 一匹でゲラゲラプギャーと笑うスライムだが、冗談ではない。魔王のステータスだって大体300平均程度。程度、と言うがそれでも本当は馬鹿げている数値なはずなのだ。


 違和感を出さないために、魔王戦の時の俺はパーティの面々に活躍してもらう程度に手加減している。本気ならば、それこそスライムの言うとおりにワンパンでノックダウン。俺と同ステータスのスライムに同じことが出来ない理由はない。



「……お前は何なんだ、一体」


「プギャー、それは能無しがする質問ぷぎゃよ、勇者。ぷぎゃは『ただのスライム』でしかないぷぎゃ」



 俺の口から出てしまったのは、先程馬鹿がする質問と例を挙げた、そのまんまだった。しかしそれに対する嫌悪感よりも、このスライムを前にした焦燥感が上回る。


 自分でもわかるぐらいに、俺は焦っていた。


 ここ最近の周回で相手にした最強の敵は、自分よりも明らかに格下の魔王。それを大きく更新し、自分と同レベルの、しかも最弱の種であるはずの、スライムを前にしている。焦らないはずもない。



「ただのスライムが魔王より強い理由がどこにある!」


「……ぷぎゃを棚に上げるようだけどもぷぎゃ、あんたの方も違和感アリアリだぷぎゃよ。あんただって冒険最序盤でレベルマックスの勇者じゃないぷぎゃか。それはどうしてぶぎゃ?」


「それは……」


「あんたが答えられないのと同じように、ぷぎゃにも答えられないことぐらいあるぶぎゃ。冷静になってほしいぶぎゃね」

 小馬鹿にしたような態度からうって変わって、諭すように言うスライム。



「あんたにも人には言えない理由がある、同じくぷぎゃにもある。それで、それだけでいいじゃないぷぎゃ。……ぷぎゃ、じゃあステータスに関しての話は終わりぷぎゃ。次ぷぎゃ、次」



 はいそうですかとそう簡単に割り切れることではない。だが、スライムの態度からこれ以上の追求は無駄だろうことはわかる。


 ならば、他の質問で情報を引き出せるだけ引き出す。臨機応変に対応。俺が周回で得た強さは、何もステータスで見えることだけじゃない。



「……お前の目的はなんだ、何で俺を勇者だと知った上で話しかけてきた?」


「それそれ、それぷぎゃ!ぷぎゃが聞いてほしかったのはそれぷぎゃよ!」



 その強さで何を求めるのか。その目的は、俺に何か関連があるのか。俺に求めるものがあるのか。


 目的如何によっては、ここでこのスライムを滅ぼすぐらいの覚悟は持ち合わせていた。魔王が比にならない、可愛いぐらいに見える強さのスライムが、魔王と同じような目的――世界征服的な、そんな考えを持っていたなら、ここで見逃すことは絶対に出来ない。



「ぷぎゃは、勇者パーティメンバーその1になりたいんだぷぎゃ!」


「……は?」


「頭が悪いのかぷぎゃ?簡単に言うぷぎゃ、仲間にしてくれぷぎゃ!」


「……は?」



 回答が予想だにしていなかったもので、俺の思考が停止した。




「逆に考えるぷぎゃ、ぷぎゃを仲間にしたらあんたの負担も減るぷぎゃよ。レベル999の能力カンストを敵として見るよりかはずっと楽ぷぎゃ」


「……」


「ついでにこれからの戦闘も、対魔物ならぷぎゃがいれば仲間に出来る可能性があるぷぎゃよ!ぷぎゃの『魔物説得』のスキルは重宝間違いなしぷぎゃ!」



 俺が無言なのを否定的と判断したのか、スライムは自身を仲間にした際のメリットをつらつらと語り始めた。


 無邪気にポヨンポヨンと飛び跳ねながら話す様子を見るに、ただ単純に俺の思考が追いついていないだけなのには気付いていない。



 このスライムを仲間にした際のメリットぐらい、深く考えずとも理解できる。


 問題なのは、魔物を仲間にするという行為。これまでの周回にこんなイレギュラーな存在はなかった。どこまで旅に影響が出るかはわからない。



「……まだ渋るぷぎゃ?もうこうなったら最後の手段ぷぎゃよ」



 俺の思考なんてつゆ知らず、スライムは決心したように何かうねうねと動き出し、俺より等身が大きくなってゆく。変身。


 何、力尽くで仲間にしてもらうっていう魂胆ですか。まだ別に何も言ってないんだから待てよ。


 それを言葉にしようと口を開くが、ちょうどスライムの変身が完了し、出そうとした俺の声は喉から逆流。第三者から見たなら、今の俺の顔は相当なアホ面になっていたに違いない。



「……これがぷぎゃ――私のスキルの一つ、『人化』です。擬人化ではなく人そのものに変身できますので、魔物を連れて歩くなんていう勇者にあるまじき行動をしなくて済みます。何より人そのものでありますので、勇者様の旅のお世話やら、夜のお世話やら――いえ、勇者様の年齢ではまだお早いですね。……ともかく、旅先でいろいろと役に立つこと間違いなしですよ」



 スライムが飛び跳ねていたそこには、一人称や言葉遣いに多少のぎこちなさを交えながら話す、水色の髪にを高い位置で縛った、そして何故かメイド姿の美人な大人のおねーさんが立っていた。



「すごく……タイプです」



 言いたいことは多々あったが、サムズアップして答える俺の表情に、迷いの色は皆無だったに違いない。

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