Episode:08
「ですけど……自室にこもってるなんて、珍しいですよね?」
「たしかにタシュアは図書館にいることが多いが……それほど珍しくはないな」
この子がよく目にする放課後、彼もたいてい図書館にいるだけだ。授業をサボって自室にいることも、実はよくある。
それにしても、この子も面白い。
タシュアは人を寄せつけなかった。だから私はともかく、ルーフェイアがこうして傍にまとわりつけること自体が、かなり異例といえるのだ。
それだけタシュアも、この子を可愛いとは思っているのだろう。
――よく泣かしてはいるが。
いじめ癖のあるタシュアにとって、素直でなんでも真に受けるルーフェイアは、かっこうのオモチャらしい。
しかもルーフェイアが信じられないほど繊細で、ちょっとしたことで泣き出してしまうものだから、よけいに面白がっていじめるのだ。
まぁそれなりに厳しいことを言ったり時たま助言をしたりと、面倒もみてはいるのだが。
ともかく行った先でも気をつけてやらないと、また泣かされるだろう。
「あの……男子寮なんてあたし、初めてで……」
どこか不安げな調子で、ルーフェイアが小さく言う。
「本当か?」
これは意外だった。
他のところは知らないが、この学院はそれほど規律は厳しくない。消灯時間前ならば、それほど咎められることもないのだ。
「イマドの部屋も……行ったことがないのか?」
「はい」
ただ、ルーフェイアらしくもある。
イマドというのは、ルーフェイアと同じクラスの男子だ。なんでも戦場にいたこの子が学院へ来るきっかけを、彼が作ったのだという。
そのせいなのだろう、よくいっしょにいて仲がいい。
ただルーフェイア、何と言うか恋心や何かを、どこかへ落としてきたようだ。それでどうにも進展せず、ずっと仲良しのままだった。
――イマドも大変な相手を選んだな。
思わず可笑しくなる。
幸いイマドの方がそのあたりをよく分かっていて、それなりに二人で上手くやってはいるのだが。
「先輩、あたし……なにか変なこと、言いましたか?」
つい笑ってしまった私に気が付いて、ルーフェイアが不思議そうに尋ねてきた。
「あ、いや、なんでもないんだ」
慌ててそう言い訳する。
男子寮二階の一番奥、そこがタシュアの部屋だった。
「シルファ先輩と、ちょうど反対側ですね」
「そうだな」
言いながら部屋のドアをノックしようとすると、先に中から声がかかる。
「どうぞ。開いていますよ」
いつもと変わらない声。どうやら杞憂ですんだようだ。
「私だ。入るぞ……」
一言断ってからドアを開ける。
部屋の中に入って最初に目に入ったのは、脱いでいるタシュアだった。
上半身がさらけ出されている。
「きゃぁぁっ!!」
間髪入れずにルーフェイアの悲鳴が響き渡った。どうも刺激が強すぎたらしい。