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戦いの果てに ルーフェイア・シリーズ  作者: こっこ
Chapter:7 追憶、そして希望
78/80

Episode:78

>Rufeir

 ケンディクの埠頭の先で、あたしはぼんやりと座りこんでいた。太陽が水面に反射して、まぶしく照り返している。

 あの激戦から半月ほどが過ぎた。

 でもまだ、あたしの相部屋のベッドは空っぽのままだ。

 それどころか最初の葬送の後も、重傷者の死亡が相次いで、訃報の消える日がなかった。


 あの翌日には惨状を聞いたケンディクの町が、原則を破って負傷者の受け入れを決めてくれたのだけど、焼け石に水に近かった。船着場が使えなくて、重傷者の搬送がすぐに出来なかったからだ。

 これではダメだとあちこちでみんなが掛け合ってくれて、上陸艇を持つ海軍の派遣が決まったのが、激戦の翌々日。やっと来たのは三日目、合同葬儀のあとだった。


 けどそれまでに、瀕死の重傷者はみんな死んでしまって……もう少しマシだった生徒も、かなりの数が悪化した。

 上陸した軍の人たちも声を失うほどで、それこそ限界以上に働いて搬送や治療に当たってくれたけど、やっぱり三日のブランクは大きかった。あのときの重傷者は、けっきょくほとんどが亡くなっている。


 ただようやくここへ来て、それが落ちつき始めていた。

 どうにか生命の危機を乗り越えた生徒たちは、次々快方に向かい始めて、これ以上の死者は出ずにすみそうだ。

 どうにか無事だった生徒たちも、しばらくぶりに町へ出させてもらって、みんな羽を伸ばしている。

 そして……あたしも。


 じつを言うと、ここへ来るまでは不安だった。

 あんなことがあったあとで町へ行っても、前と同じように見えるか、自信がなかったからだ。本当は町並みも海も何も変わってないはずなのに、違って見えそうで怖かった。

 けど今、こうしてここへ来てみて、やっとほっとした。


 あたしの瞳と同じ碧の、透き通った海。

 水平線を渡る、銀色に輝く雲。

 埠頭から坂へと、駆け上がる風。

 何もかも、前と同じ……。

 毎日ナティエスの部屋を見るたびに泣いているけれど、ここにいると少しだけ、元気になれる気がする。


「――よ」

「イマド」

 どこからともなくイマドが現れた。


「ここは……変わんねぇな」

 あたしの隣へ腰掛けながら、彼が言う。

「うん」

 そのまましばらく、二人でただ海をながめる。


「にしてもあの戦い、なんだったんだろな」

 ぽつりとイマドが言った。

「なんだったんだろうね……」

 あたしもそうとしか答えようがなかった。


――けっきょく、誰が悪いんだろう?


 良くも悪くも優秀な卒業生を出している学院は、よその国や軍からジャマに思われることはあるって言う。

 けどそんなこと言われたって、みんな困るだけだ。誰も引き取ってくれないからここへ来たのだし、だいいち親を亡くした子の大半は、ずっと続く戦乱の被災者だ。

 でもロデスティオの傭兵隊も、悪くない。彼らは命令に従っただけだ。


 考えても考えても、誰が悪いのか分からなかった。

 ただたしかなのは、もうナティエスたちが戻らないということだけだ。


「やりなおせたら、いいのに」

「そうだな……」


 もし願いが叶うなら、そうしてほしかった。

 けどそれはない。

 すべては一度きりだ。

 ありとあらゆる瞬間にただ一度の時間があり、ただ一度の選択のチャンスがある。

 それが重なって……時は流れていくのだろう。


――でもその別れ道が、こんなことになるなんて。


 どうしようもないのは分かっている。

 分かっているから、涙がこぼれた。


「ごめん、イマド。あたし、最近ダメで……」

「しょうがねぇって。あんなことがあったんだからよ」





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