表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦いの果てに ルーフェイア・シリーズ  作者: こっこ
Chapter:7 追憶、そして希望
76/80

Episode:76 追憶

>Tasha Side

 目の前に、はるかに広がる海があった。

 あの激戦から半月がすぎ、学院生はようやく、ケンディクの町へ出ることを許されている。


 町はにぎわっていた。

 この国第二の都市ケンディクは、同時に観光都市でもある。春を過ぎて初夏に近くなるこの季節は、町中が花に彩られることもあって、観光客が多いシーズンのひとつだ。

 学院生も相当な数がここへ来ているはずだが、町を行きかう人々にまぎれてしまい、姿は見かけなかった。あの惨劇で傷つききった生徒が多いが、今日はきっとどこかの喧騒の中で、少しは笑顔でいるのだろう。


 ただ……ここだけは静かだ。

 もう二十年近くも前、西と東の大陸を結ぼうと始まった大計画。

 だがその夢はうたかたと消えた。

 工事に着手して間もなく大戦が始まり、計画は僅か数ヶ月で中止されたのだ。


 まるでその悲しみを留めたかのように、この建物と残骸だけは錆びついたまま、今もひっそりとしていた。

 大戦は、タシュアにも大きく影響を与えている。それ以外にもこの学院では、あの戦争で孤児となった者も多かった。


 遥か先に視線を移す。

 海の向こうは――ヴィエン。

 タシュアにとっては生まれ故郷だ。

 もっとも楽しい思い出はほとんどない。無機質と激戦と喪失が彩る記憶ばかりだ。むしろヴィエンを出てこの学院に保護されてからの方が、よほど人らしい生活だったと言えるだろう。


 かつて七人いた弟と妹も、すべて死んだ。残ったのは自分ひとりだ。

 自分にとって、そして妹や弟たちにとって、ヴィエンで過ごした日々はなんだったのだろうか?

 答えは掴めなかった。たしかに胸のうちにあるのだが、上手く形にならない。

 だが……それがあったからこそ、今の自分がいるのもたしかだ。


(結局は自分次第なのでしょうが……)


 たとえ恵まれた環境で育ったからといって、その当人にとって満足のいく人生になるとは限らないだろう。

 逆に自分は、嘆く気はない。

 そういうものなのだ。

 と、後ろに気配を感じた。


「――シルファ、何か用ですか?」


 声をかけようかと迷っているパートナーに、振り向いてこちらから話しかける。

 シルファがほっとした表情になった。


「その、買出しに行こうと……」


 遠慮しながらそう聞いてくる。

 優しいシルファのことだ。考え事の邪魔をしたくないと、ためらっていたのだろう。

 その彼女に、タシュアは微笑を向けた。


「かまいませんよ。別になにかしていたわけでもありませんしね。

――何を買うのですか?」

 シルファの表情が明るくなる。


「せっかくだから……ケーキの材料を……」

「では、今日はおいしいおやつが食べられますね。

 たくさん買うのでしょう? 荷物を持ちますよ」

「すまない」


 そう言いながらも嬉しそうに、パートナーが歩き出す。

 連れ立って夢の残骸をあとにし、店めぐりになった。

 シルファは本当に嬉しそうだった。あれもこれもと手に取り、次々と荷物が増えていく。

「まだ買うのですか?」

 ついそう言うほど、シルファは買いこんでいた。


「あ、すまない。もうこれで終わりにするから」

「いいですよ、慌てなくて。久しぶりですからね、いろいろ切らしているのでしょう?」

「よく……分かるな」


 彼女は驚いたが、買っているものを見れば一目瞭然だ。小麦粉のような材料もさることながら、お菓子作りに使う調味料(?)の数が、かなり多いのだから。

 それからもう少し買って、やっとシルファは学院へ戻ると言い出した。気の済むまで買い物をして、満足げな表情をしている。


 それを見るタシュアも満ち足りていた。

 故郷を出て手にしたもの……それがここにある。

 そしてこれがあればこそ、自分はここまで強くなれたのだ。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ