Episode:73
「それに、あたしといっしょじゃ……きっとロクなことに、ならないから……」
代々傭兵として生きてきたシュマーという家。そういう家にあたしは産まれた。
でもあたしはそれが嫌で嫌で――なのに実力だけは一人前で――イマドに偶然誘われた時、逃げるようにこの学院へ来たのだ。
以来イマドは、ずっとあたしと一緒にいてくれている。
ただ外の人間が、シュマーの総領家に関わるとロクなことにならないのは、内々じゃ知られた話だった。
「ごめんね、イマド、ほんとは関係ないのに。
でもイマド、優しいから……」
そう。イマドは関係ない。
偶然あたしたちの時間が交差して、いっしょになっただけだ。
けど今ならまだ間に合う。
「もう、あたしのことなんていいから」
あたしは……帰らなければいけない。あの戦場へ。
そしてまた褒めそやされるのだ。
――人殺しが上手いと。
「だから、イマドはイマドで……」
なぜだろう、涙が出てくる。
もうここにいられなくて、あたしはイマドに背中を向けた。
「ごめん、あたし……部屋に、帰るね……」
「待てよ!」
イマドがあたしの手をつかむ。
「悪かった」
真っ直ぐな瞳。
「俺……昨日からずっと死んだヤツらの念食らってて……。いや、それは関係ねぇな。
――俺が悪かった」
羨ましいぐらいに真っ直ぐな視線。
あたしまた、泣き出しそうになる。
「――イマドのせいじゃ、ないでしょ」
やっとそれだけ言った。
と、急にイマドが笑い出す。
「なんか、普段と逆だな」
「え? あ、そうかも」
言われてあたしも、ちょっと可笑しくなる。
でもまたすぐ、二人で黙ってしまった。
「リティーナって俺のよく知ってる低学年の子、死んじまってさ……」
ぽつりとイマドが言う。
「ナティエスも――死んだの」
「――そうだったのか」
あたしも、イマドも、他のみんなも、誰かを亡くしたのだと気付く。
友達、先輩、後輩、そして兄弟……。
「なんで、こんなことに……なっちゃったんだろう」
「さぁな……」
答えはけして出ないだろう。
ただ虚しい思いだけが、心にこだましていた。




