Episode:72
こんなに何人も友達が死んで、ふざけていられるほどあたしは強くない。
「分かってないのイマドじゃない!
それにこれでも、まだマシなんだから!」
戦争なんて、なにかのドラマみたいにカッコよくなんかない。辛くて汚くて泣きたくなるようなことしか、そこにはない。
だいいちあたしが見てきた地獄は、こんなものじゃなかった。それをあたしは、学院の最年少の子より小さい時から、この瞳で見てきた。
だけど平気なんかじゃない。こんな辛い思い、できるなら二度とゴメンだ。
――だいいちあたしがそう思ってるの、イマドだって知ってるはずなのに。
それなのに!
「やめればいいじゃない! この程度でネをあげるんじゃ、戦場じゃ生き残れないもの!
――さっさとアヴァンへ帰ったら?!」
「てめぇ……!」
半分キレたイマドが、あたしの胸倉をつかむ。
互いの瞳が合った。
琥珀色の哀しい瞳。
悔しさ、切なさ、やるせなさ、自責の思い……そういったものが混ざった瞳。
――あたしと同じだ。
不意にそのことに気付く。
理由は知らない。けどイマドもまた……傷ついてる。
それもひどく。
「――ねぇイマド、もうやめなよ。
なにもわざわざ……こんな世界にいること、ないもの」
イマドの瞳にあたしはつい、いつも思っていたことを口にした。
この学院の生徒は半数以上が孤児で、みんな帰る場所を持たない。
けど彼は違う。
両親こそもういないものの、いつでも遊びに行ける親戚があって、前から引き取りたいと言われているのをあたしは知ってる。
――だったらこんな世界、早く去った方がいい。
「アヴァンへ帰って、普通に暮らした方が……絶対いい。
あたしみたいに……決められてるわけじゃ、ないから……」
イマドがはっとした表情を見せる。
「そう……だったな……」
彼が手を離した。
「お前は、他にないんだよな……すまねぇ」
「ううん……」
そのまま二人で、言葉を失う。
あたしは辺りを見まわした。
あの綺麗だった校舎は、見る影もなく荒れ果ててしまっている。
大好きな学院。
――あたしの夢の場所。
けど普通なら、わざわざ傭兵学校へ行こうとは思わないだろう。
「イマドは……アヴァンに伯父さん、いるんだもの。いつだって、帰れるでしょ。
だからこんなとこ、やめた方がいい……」
あたしのように傭兵学校が夢の場所なんて、いいわけがない。
ルーフェイアの激昂、かなり珍しいですね