Episode:71
>Rufeir
シルファ先輩にうながされて、あたしは寮へと戻った。
途中で食堂へ寄って、のどだけ潤す。
差しこむ陽の光。
優しく抜ける風。
昨日の朝と、どこが違うというのだろう。
でも……ナティエスはいない。
あっという間にあたしたちの前からいなくなってしまった。
――ごめんね、あたしのせいだね。
あたしが、精霊を渡さなかったから……。
歩いているうち、寮の入り口が目に入ってくる。
ここだけはなんの跡も残していないくて、それがひどく奇妙に思えた。
人影がある。
「――イマド?」
「なんだ、お前か」
思いつめた表情だった。
「どうしたの?」
「いや、なんかさ……」
イマドがため息をつく。
「俺、学院やめようかと思って」
「……そう」
とつぜんの言葉に、どう答えていいかわからなかった。
でもその方が、いいのかもしれない。
ここは……平和とは程遠いのだから。
「――それだけなのか?」
「え?」
思ってもみなかったことを、イマドに返されて戸惑った。
「お前、平気なんだな」
「――なんの、こと?」
イマドが……いつもと違う。
「さすが戦場育ちだよな。この程度じゃ平気ってわけか」
「そんなこと、ないわ!」
つい声が大きくなる。
「そう言いながら、そこら辺の血の跡だの遺体だの見て、お前平気な顔してるじゃねぇか!」
「それは……慣れてるから……」
そうとしか答えようがなかった。
なにしろ戦場にいた頃は、毎日こういうものを目にしていたのだ。
「よく、そんなこと言えるな」
「だって……」
もうどうしていいか分からない。
何より、イマドにこんなことを言われるのがショックだった。
「だって、前は毎日見てて……隣で食事とかもあったし……」
「お前にはその程度なのか?」
イマドの声が厳しくなる。
「分かってんのかよ! こんだけ仲間が死んじまって、それで『慣れ』だと!!
ふざけんなっ!!」
「ふざけてないわ!」
思わずあたしもカッとなった。