Episode:70
「タシュア、ひとつ訊きたいんだが」
「なんでしょう」
私ではなく、タシュアに問いかける。
「リティーナを殺したのが君の知り合いというのは……本当なのか?」
「――はい」
タシュアの静かな答えに、空気が険悪なものになった。
セヴェリーグが立ち上がる。
「この子のクラスメートの話じゃ、そいつは狂ってたそうじゃないか。
なぜそんなものを放っておいたんだ」
「………」
タシュアは何も答えなかった。
こういう時、彼は絶対に言い訳をしたりしない。
「答えろ、タシュア!
この子が――リティーナが何をした? リティーナが悪かったとでも言うのか!」
セヴェリーグがタシュアの両肩をつかむ。
普段なら決してそんなことは許さない彼が、黙ってされるがままだ。
「なんでそいつを、さっさとどうにかしなかったんだっ!」
「――セヴェリーグ、やめてくれっ!」
思わず叫ぶ。
聞いていられなかった。
「頼む、言わないでくれ。
タシュアをそれ以上、責めないでくれ……」
セヴェリーグが辛いのはよく分かる。
だがこのことではタシュアも……傷ついているのだ。
「頼むから、もう……」
「シルファ……」
セヴェリーグが、そっとタシュアから手を放した。
彼もまた、悲しさを通り越したとしか言えない表情をしている。
「――すまない。後輩相手にみっともないところを見せたな」
「私には何も言うことはできません……」
どう表現していいのか分からないほど、重い雰囲気。
もう一度セヴェリーグが、少女の隣へしゃがみこんだ。
「すまないが、向こうへ行ってもらえないか?」
「あ、ああ……」
二人でその場を離れる。
――なぜこんなことになったのだろう?
ルーフェイアではないが、ふっとそんなことを思った。
やっとの思いで生き延びて、ようやく穏やかに暮らし始めたのに、なぜこんな殺されかたをしなくてはならないのだろうか?
私たち上級傭兵を狙うのなら分かる。
だがこんな小さな子の、どこが恐ろしいというのか……。
「シルファ、大丈夫ですか?」
「え?」
私が黙ってしまったからだろうか?
タシュアの心配そうな顔がそこにあった。
「まだ疲れているのでしょう。部屋へ戻って休んだらどうです?」
「いや……大丈夫だ」
それよりもタシュアの傍にいたかった。
なにもできないならせめて、隣にいたい。
「そうですか。
そうしたら急いで、このリストを完成させましょうか」
「ああ」
もう一度、辛い仕事に手をつける。
戦いと言う名の狂気が残したものは、あまりにも無惨だった。