Episode:07 予感
>Sylpha
私はタシュアを探していた。
もっともそれほど重要な用事があるわけではない。単に手合わせをしてもらおうと思っただけだ。
ここのところケンディクへ渡ることはもちろん、学院の建物がある本島以外への出入りも禁止されている。そのせいで野外へ本格的な訓練にでることもできないうえ、上級傭兵隊としての任務もこれといってない。
だから身体がなまった気がしてしかたなく、彼に訓練の相手をしてもらおうかと思ったのだ。
なにしろタシュアは強い。多分この学院内でトップだろう。
ただその強さを見せることは皆無と言ってよく、知っているのは当人と私、それにそういうことに聡いルーフェイア等、両手で足りる程度だった。
まず図書館へ足を向ける。ここがタシュアの居場所としては一番確率が高い。
だが中をひととおり見回しても、姿はなかった。
その代わりにと言ってはなんだが、別の見慣れた姿をみつける。金髪碧眼、妖精のような雰囲気の美少女――ルーフェイアだ。
「あ、シルファ先輩♪」
向こうから先に声をかけてきて、そばへと来る。タシュアと同じように戦場で育っているだけあって、その動きはまったく気配を感じさせなかった。
女子な上に小柄で華奢というハンデがあるが、この子も強い。タシュアにはさすがに及ばないが、ここへ来た十歳当時から、並みの上級傭兵隊を上回る実力の持ち主なのだ。
「あの、タシュア先輩……知りませんか?」
外見通りの澄んだ声で尋ねてくる。
「タシュアか? 私も探しているんだ」
戦場で育ったというわりに素直なこの子は、私やタシュアによく懐いていた。
まとわりつく様子がヒヨコのようで、可愛い。
「シルファ先輩が知らないんじゃ……どこ行っちゃったんでしょう?」
「たぶん、寮の自室だろう」
あと思い当たるのは、せいぜい食堂ぐらいだ。
――そう言えば。
食堂で思い出す。食べることだけは忘れないタシュアなのに、今日は朝食時にも見なかった。
急に心配になる。
「まさか、具合でも悪いのか……?」
「タシュア先輩が、具合悪いって……ちょっと想像、つかないんですけど……」
「だが、万が一ということもあるだろうし。一緒に、行くか?」
この子もタシュアを探していたのを思い出して、訊ねる。だいいちルーフェイアひとりでは、タシュアの自室まで行けないだろう。
「あ、はい」
少女が嬉しそうな顔をした。
並んで歩き出す。
こうして並んでみると、この子は本当に小柄だ。もう十四歳にもなるというのに、私の肩まで届かない。体型もまだどちらかと言えば子供だった。
もっともこの二、三年はかなり伸びているようだから、最終的にはそれなりになるのだろうが。