Episode:69
気落ちした後ろ姿で、ルーフェイアが歩き出す。
ただ昨日と違って足取りはしっかりしているから、寮までなら大丈夫そうだった。
「それで先生、私は何を……」
「これを頼む。嫌な仕事だとは思うが、まさか下級生に任せるわけはいかないんだ」
差し出されたのはリストだ。
「兄弟でここにいる者で、死亡したケースをまとめてくれないか。
なにしろ生き残った方も重傷を負っていたりで、まだ完全に連絡できていないようでね」
「了解です」
渡されたリストを見る。
兄弟でこの学院へ保護されているケースはそう多くないが、それでも相当の人数だった。
ここから死亡者を洗い出すとなると、けっこう時間がかかるだろう。
急いで作業に入った。
クラスごとに安置されている遺体の名札を見ながら、チェックを入れて行く。
下は六歳から上は私と同じ十九歳まで……。
「シルファ、ルーフェイアはどうしたのですか?」
うろうろしていると、タシュアが戻ってきた。
「その、ルーフェイアは部屋へ戻ったんだ。それで私は、これを頼まれて……」
タシュアにリストを見せる。
「兄弟のリストですか……。
ここは二人とも亡くなりましたね。こちらは姉が重傷ですが、弟は無事です」
次々とタシュアがチェックしていく。
昨日負傷者の手当てに当たっていた際に記憶したのだろう、名前を見ただけで即答だった。
そのタシュアの言葉が……途切れる。
「どうしたんだ?」
「いえ、なんでもありません」
「――?」
気になってタシュアの手元を覗きこんだ。
「あ……」
リティーナ=マルダー。
あの子だ。
昨日の光景がよみがえる。
たった九歳で、未来を絶ち切られてしまった少女。
――助けてやれなかった。
深い悔恨が私を捕らえた。
こんな小さな子では自分を守れるわけがない。なのに私たち上級生は、なにをしていたのだろう。
わかり切ったことだというのに。
ほんの数メートル先の、この子のところへ行く。
おだやかな表情をしているのが救いだった。
「ナティエスの苦無が刺さっていましたから……あの子がみかねて死なせたのでしょうね」
「ああ……」
ナティエスはいつも、苦無にかなり強い毒を塗っていた。そのせいで苦しんだ様子がないのだろう。
「可哀想なことをしました」
私は何も言えなかった。
今回のことでは、タシュアもまた……。
「すまない、どいてもらえないだろうか?」
後ろから声をかけられて振り向くと、同じクラスのセヴェリーグがいた。
この子の兄だ。
その彼がそっと少女の隣にしゃがみこむ。
「リティーナ、これを……持っていくといい」
好きだったのだろう、可愛いぬいぐるみをその手に持たせていた。
当然かける言葉などない。
「セヴェリーグ……」
そう言うのがやっとだ。
だがセヴェリーグが返してきたのは、まったく違う言葉だった。