Episode:66
「先輩?」
「ルーフェイア……こっちへ」
「?」
言われるままに後をついていく。
奥まで行くと、タシュア先輩が一皿食べ終えたところだった。
どういうわけかこの先輩もあたしを見て、一瞬表情を変える。
うながされて先輩たちの間に座った。
「ルーフェイア、これをあなたに」
タシュア先輩がポケットから、見覚えのあるペンダントを取り出す。
「これ、ナティエスの? 先輩、拾ったんですか?」
「彼女は……亡くなりました」
「え?」
先輩、何を言ってるんだろう?
「ナティエス、ホールへ……手当てしに、行ったみたいですけど?」
ここへはもしかしたらと思って寄っただけだ。
なぜか先輩たちが顔を見合わせた。
>Sylpha
「ナティエス、ホールへ……手当てしに、行ったみたいですけど?」
ルーフェイアの言葉に、胸を締めつけられるようだった。
戦場で育ったこの子だ。タシュアの言葉の意味が、分からないはずがない。
恐らく……事実を受け入れられないのだろう。
「だからルーフェイア、ナティエスは――」
「シルファ」
タシュアが私の言葉を遮る。
「ルーフェイア、とりあえずそれを持っていてください。
それから時間があるのでしたら、付き合ってもらいたい場所があるのですが」
「あ、はい」
不思議そうな顔をしながら、ルーフェイアが答える。
何も理解していないその表情が辛かった。
「飲まないか?」
ジュースの入ったグラスを差し出す。
「ありがとうございます」
一気に半分ほど飲んでしまったところを見ると、それなりにお腹は空いているらしい。
ただ昨日の疲れもあって、正常な判断ができなくなっているようだった。
「朝食も食べていないのだろう? いま少し、分けるから」
「え、でも、悪いです……」
遠慮する少女の前に、少しづつ取り分けてやった皿を半分押し付けるように置く。
「このくらいなら入るだろう?」
「すみません……」
食欲さえ無くしているのではないかと心配したが、幸いそうではなかったようだ。華奢な手にフォークを持って、ゆっくりと食べ始める。
「けど先輩、どこへ……行くんですか?」
その様子がやりきれない。
「すぐに分かります。
ともかくそれを食べてしまいなさい。私も自分の分を片付けますから」
「はい」
素直にルーフェイアが食べ物を口に運ぶ。
だが私は心配でならなかった。タシュアは……この子をナティエスに会わせようというのだ。
――耐えられるだろうか?
人一倍繊細なルーフェイアでは、どうかなってしまうのではないだろうか?
かといって、先延ばしにするわけにもいかなかった。
遺体は早ければ今日中、遅くても明日には荼毘に付すことになっている。今を逃せば、もう二度とナティエスの顔を見ることはできない。
それからしばらくして、タシュアが立ち上がった。
「ルーフェイア、行けますか?」
「はい」
ルーフェイアも立ち上がる。
この子を間にはさむようにして、私たちは歩き出した。