Episode:63
>Tasha Side
端末の前に腰掛けて、ぼんやりとタシュアは考えこんでいた。
弟を殺したことを後悔しているわけではない。むしろ放置していたことを後悔していた。
実を言えば以前から、彼がロデスティオの傭兵隊にいることは知っていたのだ。
――そしてその心が、壊れてしまっていることも。
もっと早くに手を打つべきだった。それが兄としてすべきことだったはずだ。
だがそれを……自分はしなかった。
どうにかしたほうがいいとは思いつつも、ついそのままにしておいた。
その代償が、これだ。
「ナティエス、リティーナ……」
自分のミスのために、死ぬ羽目になった後輩たち。
些細な事と読み違えたがために、取り返しのつかない事態を招いてしまった。
あの時低学年を守るためにバスコの前に立つのは、ナティエスではなく自分だったはずだ。
なによりもう少し早く行ってやれば、誰も死ななかっただろう。
――あの時もそうだった。
学院へ来る前の苦い経験。
自分に力がないばかりに、些細な事と取り違えたために、三人は死んだのだ。
後悔してもなにも変わらないことは分かっている。
だからこそ自分が許せなかった。
そして二度と繰り返すまいと、自分に言い聞かせてきた。
だが……。
(――変わっていないということですか)
結局やったことは同じミスだ。
これが自分の限界なのか……。
その時、部屋の外で気配がした。
(――シルファ?)
ああ言って別れたのにわざわざ彼女が来るなど、普通では考えられない。
だがともかく、タシュアはドアを開けた。
「シルファ、どうかしたのですか?
――え?」
どうみてもパートナーは酔っている。
前後不覚と言うほどではないが、それでも普通の状態とは言い難かった。
「大丈夫ですか、そんなに酔ったりして……。
ともかく中へ」
急いでシルファを招き入れる。
と、その彼女が真っ直ぐに見つめてきた。
「――タシュア」
「なんですか?」
だが次に彼女が取った行動には、さすがのタシュアも慌てる。
「シルファ、落ちつきなさい!」
「落ちついている」
「それのどこが落ちついていると言うんですか!」
落ちついているなら、いきなりブラウスのボタンに手をかけたりはしないだろう。
「だいぶ酔っているのでしょう? ともかくベッドで休んで……」
「休まない」
「シルファ!」
いったいどれほど飲んだのだろうか?