Episode:62
「――どうしたの?」
私のグラスにまたワインを注ぎながら、先生が尋ねる。
「私は……何もできないから……」
少し酔っていたのだろうか? ついそんな言葉が口をついた。
「タシュアに頼るばかりで、自分ではなにも……」
努力はしている。少しでも追いつきたいと、必死に努力はしている。
だがタシュアはそれ以上で、差が開くばかりだった。
それを知るたびに自分の無力さを思い知らされるのだ。
「だけどタシュアは、あなたを必要としてるように見えるわよ?」
その問いにも答えられなかった。
落ちこんでいたタシュア。
それなのに私は、かける言葉さえ持たない。
タシュアはいつだって私を支えてくれるのに、私はこんな時でさえ力になれない。
「私は……タシュアにとって、いったい……」
「しっかりしなさい、シルファ」
不意に先生が厳しい声を出した。
「あの子は……タシュアは、人を拒絶してる。
昔、何があったかは知らない。あんな風になるんだから、おそらくとんでもないことなんでしょうけど。
けどシルファ、あなただけでしょ? そんなタシュアに近づくことが出来るのは。
だったらこんなところで油売ってないでほら、さっさと行って慰めてらっしゃい」
「先生……」
どうするべきか迷う。
タシュアは、ひとりにして欲しいと言っていた。
なのにそんなところへ押しかけようものなら、嫌われてしまうのではないだろうか?
他のことはどうでもいい。ただそれだけが怖かった。
タシュアをなくしたら私は……。
「シルファ=カリクトゥスっ!」
「は、はいっ」
とつぜん鋭く名前を呼ばれて、思わず反射的に答える。
「あなた、自分とタシュアと、どっちが大事なの!」
「それは……」
考えるまでもない。
そして、気がつく。
自分がなにをすればいいのか。
「先生、ありがとうございます」
そう言って立ち上がった。
足元がふらつく。
「大丈夫? あなた意外に、飲んでたものねぇ。
ともかく、しっかりやってらっしゃい」
ムアカ先生に励まされて(?)食堂を出た。
急に動いたせいか、頭がぼうっとしてくる。
それでも真っ直ぐ、私はタシュアの部屋へ向かった。