Episode:61
>Sylpha
私は眠れなかった。
気が昂ぶっていたのか、それとも参っていたのか、自分でもよくわからない。
どちらにしても落ちつかなくて、部屋を出て食堂へと向かった。
校舎の廊下までは侵入されて酷いことになっているが、ここは寮と同じく戦闘時は生徒がいなかったために、被害は軽微で済んでいる。
さすがに営業はしていなかったが、テーブルを使うのはかまわないようだった。
飲み物を持ってきて、適当なところへ座る。
こんなところにいる自分が悔しかった。
タシュアにとって私は、いったい何なのだろうか?
彼は決して、人に弱みを見せない。
――それが例え私でも。
そして独りで抱え込んで、乗り越えて行くのだ。
だがそうなら、私は何のためにいるのだろうか?
ただそばに……居るというだけではないのか?
タシュアにはいつも助けられ癒されているのに、私は彼に何か、返しているだろうか?
それならいったい、なんのために……。
そうやってめぐる考えを持て余していると、人の気配を感じた。
「あらシルファ、こんなところでどうしたの?」
「ムアカ先生……?」
いったいどこから持ってきたのだろうか、ワインまで手にしている。
そしてそのまま厨房へと入っていくと、グラスを二つ手にして戻ってきた。
「一杯、どう?」
「いいんですか……?」
教官が生徒にアルコールを勧めたなど、聞いたことがない。
「ま、いいわよ。状況が状況だし、あなたもうすぐ卒業だしね。
だいいちあたしも、独りで飲んでちゃつまらないし」
言いながらグラスにワインを注ぐと、一つを私へと差し出す。
受け取ると中で、金色の液体が揺れた。
思ったより甘めのそれを、一気に飲む。
「――あなたとタシュアのおかげで、年少組の被害が少なくてすんだわ」
二人してしばらく無言で飲み続けてから、ぽつりと先生がもらした。
「いえ、私は何も……」
何かしたというのなら、タシュアのほうだろう。
「そんなことはないと思うけど。あなたがきっちり采配振るったから、低学年が無事だったんじゃないの?」
「それは……タシュアが二階に残って、敵を食い止めたから……」
「そう自分を貶めるもんじゃないわ。
タシュアだって恐らく、あなただから安心して、二階に残れたんだと思う」
その言葉が、胸に突き刺さった。
――タシュアにとって、私は?
さっきの問いが再び沸き起こる。