Episode:06
先輩が作っているのを見て初めて知ったのだけれど、ケーキって出来上がるまでに意外と時間がかかる。
シーモアやナティエス、ミルも立ち上がった。
「あたしこないだ先輩にもらったレシピ、持ってこようかな?」
「本家本元がいるんだ。聞いた方が早いと思うけどね?」
「あ、そっか」
指摘されたナティエスが苦笑する。
「よぉし、いっぱいつくるぞ〜」
ミルがやけに張り切る。
「作るのでしたら早くしてもらえませんかね? 夕食代わりというのは願い下げです」
タシュア先輩もしっかり食べる気でいるらしい。
「ほらルーフェ、行こ?」
「うん」
あたしたちみんなで、調理室へ向かった。
そして翌日――つまり、「あの日」。
あたしはなにか不安でしょうがなかった。
どう表現したらいいんだろう? あの戦場にいた頃よく感じていた感覚が、嫌な重さで周囲に澱んでる感じだ。
――何かが来る。
そうその感覚が告げている。
同室のナティエスは今日は何かの当番だとかで、朝からいない。 だから部屋にひとり残ったまま、あたしはこの感覚をずっともてあましていた。
不安の正体がわからないまま、なんとなく戦闘用の服を着込む。
見た目は薄手のボディースーツとショートパンツの組み合わせだ。 どちらも特殊素材で作られていて、ナイフ程度なら受けつけない。 それに防御の魔法も一応付与されているから、これだけでそれなりの守りになる。
これを専用のアンダーの上に重ね着した。
さらにいつもの靴とハイソックスをやめて、戦闘用に加工されているロングブーツに履き替える。
なのにそれでも落ちつかない。
これはそうとうのものが来るのかもしれない。 そう思うとよけいに嫌な感じだった。
戦闘服の上に今度は制服を着て、とりあえず寮の部屋を出る。
――タシュア先輩を探そう。
あの先輩はあたしと同じで戦場で育っている。 だからもしこの感覚が本物なら、あの先輩も同じことを感じているはずだ。
太刀――いつも携帯している半端なものではなく、銘入り――を手に、あたしは先輩がよくいる図書館へと向かった。