Episode:59
>Imad
ひととおり事後の騒ぎが済んだあと、俺は自室でぶっ倒れてた。
――頭痛てぇ。
限界まで魔力を使い切っちまったのと、何度も門を通って往復したってのもあるけど、それ以上にまだ終わらない精神攻撃がキビしい。
今夜ひと晩聞いてたら、ぜったいどうかなるってヤツだ。
と、ドアがノックされた。
「すまない、僕だ」
「セヴェリーグ先輩? 今開けますから」
急いでドアまで移動して、鍵を開ける。
――動くと吐き気しやがんの。
かなり重症だ。
ただ先輩が来てくれたのは、どっちかってとありがたかった。誰かと話でもしてたほうが、気がまぎれる分ダメージが少なくて済む。
ドアが開いて先輩が入ってくる。
「――先輩?」
ひどく落ちこんでるっぽかった。
「しばらくここにいてもいいかな?
みっともないとは思うんだが……部屋にいられなくてね」
「かまいません。俺もちと、ひとりじゃキビしかったんで」
「すまない」
そう言って先輩が、椅子にかけた。
底のない悲しみが伝わってくる。
何があったのか、聞かなくても分かった。
「先輩、飲みます?」
冷蔵庫に放りこんであった飲みかけの酒を、グラスといっしょに差し出す。
「いや、別に……ああ、きみは分かるんだったな」
「はい」
まさか、リティーナが死ぬとは……。
あの子のことは俺もよく知ってる。先輩が学院へ来た五年前はまだ五歳で、半年くらい先輩といっしょに、この部屋で寝起きしてた。
学院への入学資格は六歳以上だから、あん時のリティーナは資格を満たしてない。けど預けられた施設で、ずっと泣きっぱなしの妹を先輩が不憫がって、学院長に頼みこんでここへ引き取った。
昼間はムアカ先生に面倒を見てもらって、夕方からはよく俺と先輩とで手分けして相手してた。
なのに……。
「僕は……五人兄弟のいちばん上だったんだ」
自分に言い聞かせるみてぇに、先輩が言う。
「リティーナとの間に、弟が二人と妹がもう一人いてね。よく騒いで叱られたよ」
「そうだったんですか……」
初耳だ。
亡くなった兄弟がいたっぽいのは、まぁうすうす感じてたけど、まさかそんなに亡くしてたとは。
「ロデスティオと隣接する、小さな国にいたんだ。いまはもうないけどね」
力なく先輩が笑う。
「父はリティーナが産まれる少し前に亡くなったけど、そこそこ裕福な家でね。あんまり苦労はなかった。家族六人、けっこう楽しくやってたよ。
――町が襲われるまでは」
ある日とつぜん、隣国のロデスティオが攻めてきたと、先輩は言った。
「なんの前触れもなく、町に兵士がなだれこんできてね。家まで踏み込んできたんだよ」
先輩のイメージが伝わってくる。
テーブルの上に並べられた夕食。集まってきた兄弟。
――平和な風景。
けどいきなりドアごしに銃弾が撃ち込まれて、母親が倒れる。