Episode:58
先ほどの猛攻はどうにか凌いだが、ルーフェイアはあの通り動く気力さえ残っていない。私もそうとう疲れているし、タシュアでさえ本調子ではないのだ。
当然だが、他の上級傭兵隊も似たり寄ったりだろう。
「タシュアが……向こうにいなくてよかった」
そう言うと当人が笑った。
「さて、これでいいですかね」
ざっと手入れした太刀を、タシュアが鞘に収める。
彼が倒れた後輩の武器まで面倒をみるなど、知らない人間には信じられないだろう。そう思うと可笑しくなる。
「なにが可笑しいのですか?」
「いや……なんでもないんだ」
――だが、だからこそルーフェイアがまとわりつくのだろうな。
あの子は私と同じように、タシュアの本当の姿を知っている。人を寄せつけない外見の奥にあるものを。
そして思い出した。
「そうだ、タシュア、これを……」
預かっていた眼鏡を差し出す。
「ありがとうございます」
タシュアが静かに受け取って、いつもどおりに眼鏡をかけた。
「やっぱり……少し、違うな」
「何がですか」
「その、眼鏡をかけていた方が……少し柔らかい気がする」
本当はもう少し違う言葉のような気もするが、これ以外に思いつかなかった。
「そうですか?
――そうかもしれませんね」
言いながらタシュアが僅かに視線を落とした。なにかを思い出しているのかもしれない。
と、彼が立ち上がった。
「部屋へ戻りましょう。これ以上ここにいても、仕方ありませんからね」
「そうだな」
ルーフェイアを起こさないように、そっとドアを閉めて廊下へ出た。
そして歩き出す。
「タシュア……」
「なんですか?」
一瞬だけためらう。
「その、今夜は……一緒にいてくれないか?」
ひとりでいるのが心細かった。
たぶん私も、参っていたのだろう。
「すみません、今夜はひとりにさせてもらえませんか」
だが意外にも、タシュアが断る。
こんなことは初めてだった。
「タシュア……?」
思わず彼の顔を見て、どきりとする。
そうか……。
今日何があったのかが思い出された。
「すまない、気が利かなくて……」
「いいえ、私こそ勝手なことを言ってすみません。
――また明日にでも」
消えてしまいそうな後ろ姿。
――そうやってまた、自分を責めるのだな。
なにも言えない自分が悔しかった。
タシュアはいつもそうなのだ。
なにもかも自分ひとりで抱え込んで……。
虚しい思いを抱いたまま、私も自室へと戻った。