Episode:54 勝敗
>Tasha Side
負傷者の集められたホールは、とても治療をする場所には見えなかった。
薬も機材も、それどころか寝かせるためのマットさえ足りない。
「タシュア……その、大丈夫か?」
「私はなんでもありませんよ」
パートナーとそんな会話をしながら、立て続けに魔法をかけていく。
だが死んでいく者も多かった。
運び込まれる者。
運び出される者。
生と死が交錯する。
その中で黙々と、タシュアたちは作業を続けた。
できる限りの応急手当をし、使えるだけの魔法を使い……。
ただその魔法も、十分なほどにはかけてやることができない。なにしろ負傷者の数が多すぎるのだ。
この設備では、とても対応しきれなかった。
と、タシュアの姿を認めたのだろう。ロアが険しい表情で詰め寄ってきた。
「ちょっとタシュア、聞きたいことがあるんだけど?」
「今はそれどころではないでしょう。怪我人の治療がなにより先決です。そんなこともわからないのですか?」
「その怪我人がでたの、誰の責任よ!」
彼女の声はいつになく厳しい。
「キミ、海岸の部隊のはずなのに、いなかったっていうじゃない。
いったいどこ行ってたのよ! キミがいれば、助かった人間もかなりいたはずよ!」
「………」
タシュアは答えなかった。答えるつもりもなかった。
言ったところでどうなることでもないのだ。
「言えないってわけ?」
ロアの声がもう一段荒くなる。
真っ直ぐな性格のロアは、自分本位に振舞うことの多いタシュアをかなり嫌っていた。
そこへこの騒ぎだ。
穏やかになどいくわけもない。
「それとも何? 普段は偉そうなことを言ってるのに、いざ実戦となったら怖じ気ついたとでも言うの?」
「そんなことないです!」
とっさにそう叫んだのはルーフェイアだ。
「それにあの鳥たちを最初に落として、戦局を変えたの、タシュア先輩です!」
必死に少女がタシュアをかばう。
「そうかもしれないけど、それとこれとは別でしょ。だいたいがタシュア、あんたいつも好き勝手に――」
瞬間、乾いた音がホールに響いた。
「シルファ先輩……?」
頬を押さえるロアの前に、シルファが立ちはだかっている。
事実を知らずに言いつのる後輩に、彼女が平手打ちを食らわせたのだ。
「それ以上タシュアを侮辱することは、私が許さない」
普段は物静かなシルファが、怒りをあらわにしていた。
「タシュアは年少組のことを考えて、教室に回ったんだ。
それだけじゃない。教室にいた年少組が安全な場所へ避難するまで、ずっとひとりで守り抜いていたんだぞ!」
「え……?」