Episode:53
「言っておきますが、ルーフェイアはそれを承知で相手を殺しています。
上級傭兵隊になろうなどと言うのなら、その程度のことはあなた方もわきまえるのですね」
みんながばつが悪そうに下をむいた。
「――ルーフェイア、行きますよ」
「あ、はい……」
先輩にうながされて立ち上がる。
周囲のあたしを見る眼が怖かった。
みんなが責めているわけじゃないのは分かる。
ただそれでも……見られるたびに、自分のしたことを思い知るのだ。
――殺すだけの自分を。
やっと戦いという狂気が去ろうとしている中、あたしは逃げるようにして館内まで戻った。
「ルーフェイア、だいじょぶか!」
玄関のところでイマドと出会う。
「あたしは……大丈夫。でも……」
泣かないように唇を噛みしめて……でもやっぱり涙がこぼれた。
「泣くなって」
「けど!」
「わかってる。
んでルーフェイア、魔法使えるやつは、別棟のホールまで来いってさ」
彼が急に、ぜんぜん違うことを言い出した。
なぜか少しほっとする。
「別棟のって……あのセレモニーとか、するところ?」
「ああ」
訊けば負傷者が多すぎて、診療所に収容しきれなくて、急遽そこが治療場所に選ばれたのだという。
「お前魔力強いからな。急いで来てくれって、ムアカ先生から伝言だぜ。
それからタシュア先輩とシルファ先輩も、同じ理由で急いで来てほしいそうです」
「そうですか、わかりました」
それだけ言って、先輩たちがホールへと向かう。
あたしも続いた。
近づくにつれ、血臭が漂う。
「ひどい……」
中は、そうとしか言いようのない有様だった。
野戦病院でもこれほどひどいのは、そう多くはないだろう。
これでは簡単な裂傷や軽い火傷程度の生徒は、放って置かれているに違いなかった。
「良かった! あなたたちすまないけど、こっちへ来て手伝って!」
大声でムアカ先生――この学校に併設の、診療所の先生――に呼ばれる。
向こうに寝かされてるのは、よくこれで生きているというほどの重傷者ばかりだ。
「回復魔法は使えるでしょ?
胸の上に怪我の部位と、どの魔法使うか書いたのが置いてあるから、かけてやって」
「はい、わかりました」
あたしの答えを待たずに、医療器具を片手にムアカ先生が駆けて行った。
教官や救護班の生徒、手の空いている先輩たちとまさに総出だ。
その中へあたしも加わる。
――これでみんな、助けられるんだろうか?
そんな疑問が浮かんだ。
これだけの負傷者だ。例え大都市の病院でも対応しきれないだろう。
ましてや学院にあるのは、薬も機材も限られた量だけだ。
あれだけ失って、まだ失くさなければならないんだろうか?
戦いという名の狂気は、どれだけ奪ったら気が済むのか……。